僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

117.望みをかけ

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「……確か、ミゼアスは以前、大病を患ったと聞いています。何か詳しいことをご存知ではありませんか?」

 マリオンの家に戻る途中、ふとマリオンが口を開いた。

「ウインシェルド侯爵が魔術医を連れてきてくれて、それで助かったと……」

 アデルジェスは必死に記憶を手繰り寄せながら答える。ミゼアスが大病を患った際、ミゼアスの一番の馴染み客だったウインシェルド侯爵が、魔術医を連れてきたという話は聞いていた。
 そのとき、魔術医は縁のある人の力を借りたという。ミゼアスはそれがアデルジェスだったと言っていた。

 確かに、ちょうどその時期にアデルジェスも不思議な夢を見たのだ。
 本当にアデルジェスがミゼアスを救うきっかけになったのかどうかはわからないが、もしそうであれば今回もどうにかならないだろうか。

「ウインシェルド侯爵ですか……手紙を書いてみましょう。他には、何か……どんな小さなことでもないでしょうか」

「……そのときは、ヴァレンが看病したと……」

 他に関わった人はいないだろうかと考え、アデルジェスはひとつの名前を導き出す。
 当時、ミゼアス付きの見習いだったヴァレンがミゼアスを看病したそうだ。アデルジェスが大病のことを最初に詳しく聞いたのも、ヴァレンからだった。

「ヴァレン……あの坊やですか。念のため、そちらにも手紙を書いてみましょう。これからすぐに出して、着くのは……」

 考え込んだマリオンだったが、何かを思い出したようで、アデルジェスに向き直る。

「そうだ。ミゼアスが手紙を送るところを見たことがありますか?」

「え? あ……確か、鳩に手紙を託していました」

 夕月花事件のときは、ミゼアスとヴァレンの間で、通常ではありえないような素早さでやり取りをしていたはずだ。その連絡手段が、鳩だった。

「なるほど……風鳩を持ったまま島を出たのですね。アデルジェスさん、ミゼアスの荷物を調べさせてもらってもよろしいですか?」

「は、はい……!」

 アデルジェスにはあの鳩の使い方がわからないが、マリオンはわかるのかもしれない。望みをかけ、アデルジェスは頷く。

 二人で、もともとアデルジェスとミゼアスが滞在していた宿に寄る。

「え……? 海鳥の羽休め商店の店主さん……?」

 混乱するリーゼに、急いでいるから説明は後でとごまかして、アデルジェスはマリオンと共に滞在している部屋に向かう。
 ミゼアスの荷物袋をあされば、小さな笛が出てきた。マリオンがその笛を吹くと、どこからともなく白い鳩が現れる。

「出ましたね。これで、すぐに手紙を届けることができます。ただ、一回で届けることができるのは一人だけです。ウインシェルド侯爵か、ヴァレンか。どちらを先にしますか?」

 マリオンの問いに、アデルジェスは考え込む。
 ミゼアスをまるで孫のように可愛がり、以前ミゼアスが大病を患ったときも、救ってくれたウインシェルド侯爵と、当時はミゼアス付きの見習いでしかなかったヴァレン。
 比べれば、どちらが頼もしいかは考えるまでもないだろう。

 しかし、アデルジェスの行動を読みぬいたようなヴァレンの手紙が頭をよぎる。
 アデルジェスがミゼアスを怒らせて困っていたとき、助言と共に宿の紹介状を送ってくれたヴァレンは、まるですべてを見通しているようだった。

「……ヴァレンを先にしてください」

 ヴァレンのわけのわからなさに賭けてみよう、とアデルジェスは判断する。

「わかりました。あなたが手紙を書いたほうがよいかもしれませんね。私は鳩を飛ばす準備をします」

 マリオンの言葉にアデルジェスは頷き、急いで手紙をしたためる。ミゼアスが『風月花』を弾いた直後に倒れたこと、そして意識がもどらないことを綴っていく。
 何かわかることはないかと締めて手紙をマリオンに託すと、マリオンは鳩に手紙をくくりつけて空へと放った。その際、アデルジェスの知らない言葉で鳩に何かを呟いていたので、それが指示だったのだろう。
 アデルジェス一人だったならば、鳩を使うこともできず、何をするべきかの判断も遅くなっていただろう。マリオンがいてくれたことに、心から感謝する。

「さあ、まずは戻りましょう。あの鳩が戻ってきたら、次はウインシェルド侯爵です」
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