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第三章 巡り会い
116.寿命
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「ミゼアス……」
寝台の上で眠り続けるミゼアスを眺めながら、アデルジェスは声を絞り出した。
領主主催の宴で見事な演奏を披露した直後、ミゼアスは突然倒れてしまった。
アデルジェスはミゼアスを抱えて、マリオンやイーノスと共に、彼らの家にやってきたのだ。
マリオンが医者を呼んだが、原因は不明との診断しか下されなかった。夜が明けてもミゼアスが目覚める様子はなく、昏睡状態のままである。
「ミゼアスの様子はどうですか?」
マリオンがやってきて、アデルジェスに問いかける。彼も一睡もしていないらしく、顔色が悪い。
「……ずっと、眠ったままです。いくら呼んでも何の反応もなくて……」
「そうですか……。実は先日、ミゼアスに不吉な言葉を残していった男娼がいましてね。寿命が残りわずかだとか……。そのときは戯言と思ったのですが、もう一度確かめに行ってきます」
「そんな……寿命……? お、俺も行きます!」
立ち去ろうとするマリオンをアデルジェスも追いかける。
あまりにも不吉すぎて、アデルジェスの頭は寿命という言葉について考えることを拒否した。
ただ、とにかくじっとしていらず、暴れ出したくなる衝動を抑えるのが精一杯だ。
ついてくるアデルジェスをマリオンは拒まず、二人は無言のまま、娼館に向かう。
すると娼館の前で、ちょうど帰ってきたところらしい化粧の濃い少年と出会った。マリオンが少年を呼び止める。
「あの店の……? 何の用? あたし、眠いんだけど」
「先日、寿命がどうのと言っていましたよね。あなたは本当に、人の寿命が見えるのですか? そして、本当だとすれば、その寿命をどうにかする方法はないのですか?」
ふてぶてしい態度で去ろうとする少年を捕まえ、マリオンは有無を言わせぬ調子で問い詰める。少年もマリオンの剣幕に押され気味のようだった。
「み、見えるのは本当よ……。でも、そんなに細かくはわからないわ。たとえば、あんたたちなんて、燃え盛っているようにしか見えなくて、あとどれくらいの寿命があるかなんてわからないわ。ここのところ、他に残り少ないとわかった相手なんて、昨日の宴で一人いたくらい……」
「では、寿命を延ばすような方法はないのですか?」
「……わからないわ。もし病気が原因だとすれば、取り除くことができればもしかすると……。でも、今までどうにかできたことは一度も……」
口ごもりながらも、少年は答える。しかし、その内容には希望が見当たらない。
大きく息を吐くと、マリオンはもう尋ねることなどないというように踵を返した。
「ね、ねえ……昨日のあの子って、本当に不夜島のミゼアスなの……?」
おそるおそるといったように、少年がマリオンの背に問いを投げかける。マリオンは足を止め、顔だけを振り返らせた。
「……だとしたら、どうだというのですか?」
冷たい、感情を一切伺わせない声でマリオンは言い放つ。
自分に投げかけられたわけでもないアデルジェスですら、身がすくんでしまいそうなほど底冷えのする声だった。
「……っ! な、なにも……ごめんなさい……」
しどろもどろに謝罪を述べる少年を後にして、マリオンは立ち去る。アデルジェスもあわててその後を追った。
寝台の上で眠り続けるミゼアスを眺めながら、アデルジェスは声を絞り出した。
領主主催の宴で見事な演奏を披露した直後、ミゼアスは突然倒れてしまった。
アデルジェスはミゼアスを抱えて、マリオンやイーノスと共に、彼らの家にやってきたのだ。
マリオンが医者を呼んだが、原因は不明との診断しか下されなかった。夜が明けてもミゼアスが目覚める様子はなく、昏睡状態のままである。
「ミゼアスの様子はどうですか?」
マリオンがやってきて、アデルジェスに問いかける。彼も一睡もしていないらしく、顔色が悪い。
「……ずっと、眠ったままです。いくら呼んでも何の反応もなくて……」
「そうですか……。実は先日、ミゼアスに不吉な言葉を残していった男娼がいましてね。寿命が残りわずかだとか……。そのときは戯言と思ったのですが、もう一度確かめに行ってきます」
「そんな……寿命……? お、俺も行きます!」
立ち去ろうとするマリオンをアデルジェスも追いかける。
あまりにも不吉すぎて、アデルジェスの頭は寿命という言葉について考えることを拒否した。
ただ、とにかくじっとしていらず、暴れ出したくなる衝動を抑えるのが精一杯だ。
ついてくるアデルジェスをマリオンは拒まず、二人は無言のまま、娼館に向かう。
すると娼館の前で、ちょうど帰ってきたところらしい化粧の濃い少年と出会った。マリオンが少年を呼び止める。
「あの店の……? 何の用? あたし、眠いんだけど」
「先日、寿命がどうのと言っていましたよね。あなたは本当に、人の寿命が見えるのですか? そして、本当だとすれば、その寿命をどうにかする方法はないのですか?」
ふてぶてしい態度で去ろうとする少年を捕まえ、マリオンは有無を言わせぬ調子で問い詰める。少年もマリオンの剣幕に押され気味のようだった。
「み、見えるのは本当よ……。でも、そんなに細かくはわからないわ。たとえば、あんたたちなんて、燃え盛っているようにしか見えなくて、あとどれくらいの寿命があるかなんてわからないわ。ここのところ、他に残り少ないとわかった相手なんて、昨日の宴で一人いたくらい……」
「では、寿命を延ばすような方法はないのですか?」
「……わからないわ。もし病気が原因だとすれば、取り除くことができればもしかすると……。でも、今までどうにかできたことは一度も……」
口ごもりながらも、少年は答える。しかし、その内容には希望が見当たらない。
大きく息を吐くと、マリオンはもう尋ねることなどないというように踵を返した。
「ね、ねえ……昨日のあの子って、本当に不夜島のミゼアスなの……?」
おそるおそるといったように、少年がマリオンの背に問いを投げかける。マリオンは足を止め、顔だけを振り返らせた。
「……だとしたら、どうだというのですか?」
冷たい、感情を一切伺わせない声でマリオンは言い放つ。
自分に投げかけられたわけでもないアデルジェスですら、身がすくんでしまいそうなほど底冷えのする声だった。
「……っ! な、なにも……ごめんなさい……」
しどろもどろに謝罪を述べる少年を後にして、マリオンは立ち去る。アデルジェスもあわててその後を追った。
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