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第三章 巡り会い
115.本物
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「承知しました」
しかしミゼアスは落ち着き払って頷き、『風月花』に向き合った。
ここのところは、マリオンの花月琴を借りて演奏している。
腕はさほど衰えていないはずだ。『風月花』が『雪月花』と同じだというのなら、何も臆することなどない。
ミゼアスは『風月花』を膝の上に乗せ、ゆっくりと奏で始める。
見かけは同じものの、いざ弾いてみれば『雪月花』よりもやや硬く、尖った印象を受ける。
ミゼアスはゆるやかに滑らかに調整しようと心がけながら、演奏していく。
ミゼアスの心の底に残る傷から、『風月花』は音を引き出そうとするようだった。
つらさ、苦しさが抉られるようで、ミゼアスは引きずられないようにアデルジェスのことを思い浮かべる。
かつての苦しい日々は、すでに過ぎ去った。
今はアデルジェスとともにある喜びに満たされている。高らかに喜びを詠うように奏でれば、『風月花』もようやくミゼアスに従うように玲瓏な音を響かせた。
やがてひらひらと花びらが舞い始める。儚げな薄紅色の花びらが、どこからともなく現れて踊り出し、周囲は先ほど以上のざわめきに包まれる。
「まさか……本物?」
愕然とした男の声が響いた。椅子から身を乗り出して、ミゼアスが奏でる姿を見つめる。
さらにミゼアスは演奏を続け、花びらを増やしていく。徐々に数を増していく花びらは勢いも増して、花吹雪となる。
会場は春の嵐のような花吹雪に包まれ、もはや誰も声を発することすらできなかった。高く、低く、柔らかで温かな音色だけが響く。
不夜島でも、花びらを出せる者はそれなりにいた。しかし、花吹雪にまでできるのはミゼアスただ一人だけである。
生まれて初めて見る幻想的な光景に、会場の人々は圧倒されるだけだった。
一曲を弾き終え、ミゼアスが『風月花』から手を離すと、花びらも消えていく。辺りを覆いつくすほどあった花びらが、何の痕跡も残さずに消えていった。
呆気に取られたように立ち尽くしていた人々が正気づき、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
ミゼアスはゆっくりと立ち上がり、男を見据えた。
「これで、お許し願えますね?」
静かに言い放つと、男は悔しそうにぎりぎりと歯噛みした。
しかし、見事に弾きこなしたミゼアスを罰することなど、できるはずがない。仕方なさそうに男は頷いた。
このような嗜虐趣味の男からは早く遠ざかりたい。ミゼアスは心配そうに見つめているアデルジェスに微笑み、愛しい旦那様のもとに向かおうとする。
しかし、一歩を踏み出そうとした瞬間、ミゼアスは目の前がぐらりと揺れるのを感じた。何事だろうと思う間もなく、意識が急激に遠ざかっていく。
「ミゼアス!」
駆け寄ってくるアデルジェスの姿を最後に、ミゼアスの視界は闇に包まれた。
しかしミゼアスは落ち着き払って頷き、『風月花』に向き合った。
ここのところは、マリオンの花月琴を借りて演奏している。
腕はさほど衰えていないはずだ。『風月花』が『雪月花』と同じだというのなら、何も臆することなどない。
ミゼアスは『風月花』を膝の上に乗せ、ゆっくりと奏で始める。
見かけは同じものの、いざ弾いてみれば『雪月花』よりもやや硬く、尖った印象を受ける。
ミゼアスはゆるやかに滑らかに調整しようと心がけながら、演奏していく。
ミゼアスの心の底に残る傷から、『風月花』は音を引き出そうとするようだった。
つらさ、苦しさが抉られるようで、ミゼアスは引きずられないようにアデルジェスのことを思い浮かべる。
かつての苦しい日々は、すでに過ぎ去った。
今はアデルジェスとともにある喜びに満たされている。高らかに喜びを詠うように奏でれば、『風月花』もようやくミゼアスに従うように玲瓏な音を響かせた。
やがてひらひらと花びらが舞い始める。儚げな薄紅色の花びらが、どこからともなく現れて踊り出し、周囲は先ほど以上のざわめきに包まれる。
「まさか……本物?」
愕然とした男の声が響いた。椅子から身を乗り出して、ミゼアスが奏でる姿を見つめる。
さらにミゼアスは演奏を続け、花びらを増やしていく。徐々に数を増していく花びらは勢いも増して、花吹雪となる。
会場は春の嵐のような花吹雪に包まれ、もはや誰も声を発することすらできなかった。高く、低く、柔らかで温かな音色だけが響く。
不夜島でも、花びらを出せる者はそれなりにいた。しかし、花吹雪にまでできるのはミゼアスただ一人だけである。
生まれて初めて見る幻想的な光景に、会場の人々は圧倒されるだけだった。
一曲を弾き終え、ミゼアスが『風月花』から手を離すと、花びらも消えていく。辺りを覆いつくすほどあった花びらが、何の痕跡も残さずに消えていった。
呆気に取られたように立ち尽くしていた人々が正気づき、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
ミゼアスはゆっくりと立ち上がり、男を見据えた。
「これで、お許し願えますね?」
静かに言い放つと、男は悔しそうにぎりぎりと歯噛みした。
しかし、見事に弾きこなしたミゼアスを罰することなど、できるはずがない。仕方なさそうに男は頷いた。
このような嗜虐趣味の男からは早く遠ざかりたい。ミゼアスは心配そうに見つめているアデルジェスに微笑み、愛しい旦那様のもとに向かおうとする。
しかし、一歩を踏み出そうとした瞬間、ミゼアスは目の前がぐらりと揺れるのを感じた。何事だろうと思う間もなく、意識が急激に遠ざかっていく。
「ミゼアス!」
駆け寄ってくるアデルジェスの姿を最後に、ミゼアスの視界は闇に包まれた。
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