僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

99.複雑なところ

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「どうしても暗い方向に考えが向かうときは、別なことを考えるように意識するといい。人間、同時に二つのことは考えられないからね。そうだね、寝台の上での姿でも想像してみればいいんじゃないかな」

「はい!?」

 胸に灯った明かりに浸っていたアデルジェスは、唐突に熱湯を浴びせかけられたような気分になり、つい叫んでしまう。

「何をそんなに驚くのかな。まさか手を繋ぐのがせいぜいといった関係ではないだろう?」

「ま……まあ、それは……」

 しどろもどろになりながら、アデルジェスはぼそぼそと呟く。
 ほとんど毎日のように身体を繋げている。ミゼアスとは島で出会ってすぐに初体験を済ませ、むしろ手を繋いだのはすべて終わってからだ。

「ああ……まだあまり慣れていないのかな。よし、それなら荷物運びのお礼に、寝台で使うようないやらしい道具をいくつかあげようか」

「ええっ!?」

 いやらしい道具とは、いったいどういったものだろうか。今でも香油は使うが、それとも違うようだ。
 そもそも、何故そのようなものがあるのだろう。
 まさか、イーノスとマリオンが使っているものだろうか。
 アデルジェスの乏しい知識では、鞭や縄といったものしか思いつかない。ついつい二人の姿を想像してしまいそうになり、アデルジェスは頭を激しく振る。

「この店には、娼館で働いている人たちも客としてやってくるんだよ。表には置いていないけれど、香油やちょっとした道具くらいはそろえてある」

 アデルジェスの考えなどお見通しのようで、イーノスはくすりと笑う。

「あ……そ、そうなんですか……」

 気恥ずかしくなり、俯きながらアデルジェスは答える。

「そうそう、先日聞いたのだけれど、この町の娼館に不夜島のミゼアスがいるという話があってね。もちろん、ニセモノだよ。言わなくても、あなたはそんなことくらいわかるだろうけれど」

「はは……」

 アデルジェスは乾いた笑いを漏らす。先日、疑ってしまったとは言えない。

「マリオンが気になっていたようでね。まさか本物だと思ったわけではないけれど、この店に客としてやってくる娼館の下働きから聞いた話だと、不夜島と同じ作法を取り入れているらしい。それがマリオン曰く、本当に不夜島と同じだそうでね。おそらくないだろうが、万が一ということもある……と、娼館に行きたそうだったよ」

 結局は迷ったままで行かなかったわけだが、とイーノスは息を深く吐き出す。

「まあ、思いがけずに本物と再会することができて、マリオンの憂いも晴れるだろう。しかも、あれほど幸せそうな姿で現れたんだ。喜びと共に長年のつかえも取れるだろう。……少々、複雑なところはあるのかもしれないが」

「え?」

 複雑なところとはいったい何のことだろうか。アデルジェスは顔に疑問符を浮かべてイーノスを見るが、イーノスはそっと目を伏せた。

「……さあ、奥から竪琴を持ってこなくては。せっかくだから、あなたたちにとって良さそうな道具も見繕ってみようか」
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