96 / 133
第三章 巡り会い
96.先輩の白花
しおりを挟む
「まさか、賭博王に酒豪王という線でいくとは思いませんでした。確かに、そういった白花は聞いたことがありません。珍しさが功を奏した、ということでしょうか。あなたもよく考えたものですね」
「いえ……それ、僕が指導したわけじゃなくて……ヴァレンが一人で勝手に突っ走っていっただけです……」
苦い思いを噛みしめていたミゼアスの耳に、別な意味で頭の痛い言葉が響く。
嫌味ではなく、本当に感心しているらしいのが、さらにつらい。
「……実は、島を出る前にあの子が私を尋ねてきたのですよ」
「ヴァレンが?」
思わずミゼアスは疑問の声を漏らす。ヴァレンからそのような話は聞いた覚えがない。
「ええ。薬のことは怒っても、恨んでもいない、と。あまりにも真っ直ぐな目で言うものですから、畏怖を覚えましたね。あなたがあれほど信用していた理由が、わかったような気がしました」
穏やかにマリオンは続ける。わずかに寂しさが漂うようでもあったが、苦しげというほどではなかった。
「……あなたは、幼い頃から一際目立つ存在でした。他を拒絶するような、孤高の美。まるで磨き上げられた芸術品のごとく、あなたは完璧でした。人を寄せ付けないあなたが、私には多少なりとも和らいだ表情を見せてくれることは、私にとって誇りだったのですよ」
くすり、と笑みをこぼすとマリオンはミゼアスの頬に片手を伸ばす。
「でも、今のあなたはあの頃よりも、もっと美しい。本当に、幸せそうな笑顔を浮かべるようになりましたね。血の通った、温かな人間の美しさが今のあなたにはあります。あなたの旦那様が、その美しさを引き出したのですね」
マリオンの手がミゼアスの頬に触れる。やや硬めの、乾いた手だった。島にいた頃のような柔らかく、なめらかな手ではない。だが、心地よい温もりがある。
血の通った温かな人間の美しさは、今のマリオンも得ているのだ。
「マリオン兄さん……」
「もう、『兄さん』ではありませんよ。あの頃のように上下の立場だけではなく、今はお互いに白花ではないのですから。若輩者という言い訳は、もう通用しませんよ」
まるで、先輩の白花だった頃のような妖艶な笑みを浮かべるマリオン。つい、かつての立場に戻ったかのように、ミゼアスは呑まれそうになる。
「で……でも、呼び捨てにするのも……」
「私は呼び捨てのほうが嬉しいですけれどね。戸惑うあなたも美しいですね。あなたはとても可愛らしいですよ、ミゼアス」
ゆっくりと、マリオンの顔が近付いてくる。白花第一位として長年君臨していたミゼアスとはいえ、かつて刷り込まれた上下関係は簡単に抜けない。
ただ、目を見開いて固まることしかできなかった。
お互いの息がかかりそうなほど顔が近付いたとき、来客を告げる鈴の音が鳴り響いた。
「いえ……それ、僕が指導したわけじゃなくて……ヴァレンが一人で勝手に突っ走っていっただけです……」
苦い思いを噛みしめていたミゼアスの耳に、別な意味で頭の痛い言葉が響く。
嫌味ではなく、本当に感心しているらしいのが、さらにつらい。
「……実は、島を出る前にあの子が私を尋ねてきたのですよ」
「ヴァレンが?」
思わずミゼアスは疑問の声を漏らす。ヴァレンからそのような話は聞いた覚えがない。
「ええ。薬のことは怒っても、恨んでもいない、と。あまりにも真っ直ぐな目で言うものですから、畏怖を覚えましたね。あなたがあれほど信用していた理由が、わかったような気がしました」
穏やかにマリオンは続ける。わずかに寂しさが漂うようでもあったが、苦しげというほどではなかった。
「……あなたは、幼い頃から一際目立つ存在でした。他を拒絶するような、孤高の美。まるで磨き上げられた芸術品のごとく、あなたは完璧でした。人を寄せ付けないあなたが、私には多少なりとも和らいだ表情を見せてくれることは、私にとって誇りだったのですよ」
くすり、と笑みをこぼすとマリオンはミゼアスの頬に片手を伸ばす。
「でも、今のあなたはあの頃よりも、もっと美しい。本当に、幸せそうな笑顔を浮かべるようになりましたね。血の通った、温かな人間の美しさが今のあなたにはあります。あなたの旦那様が、その美しさを引き出したのですね」
マリオンの手がミゼアスの頬に触れる。やや硬めの、乾いた手だった。島にいた頃のような柔らかく、なめらかな手ではない。だが、心地よい温もりがある。
血の通った温かな人間の美しさは、今のマリオンも得ているのだ。
「マリオン兄さん……」
「もう、『兄さん』ではありませんよ。あの頃のように上下の立場だけではなく、今はお互いに白花ではないのですから。若輩者という言い訳は、もう通用しませんよ」
まるで、先輩の白花だった頃のような妖艶な笑みを浮かべるマリオン。つい、かつての立場に戻ったかのように、ミゼアスは呑まれそうになる。
「で……でも、呼び捨てにするのも……」
「私は呼び捨てのほうが嬉しいですけれどね。戸惑うあなたも美しいですね。あなたはとても可愛らしいですよ、ミゼアス」
ゆっくりと、マリオンの顔が近付いてくる。白花第一位として長年君臨していたミゼアスとはいえ、かつて刷り込まれた上下関係は簡単に抜けない。
ただ、目を見開いて固まることしかできなかった。
お互いの息がかかりそうなほど顔が近付いたとき、来客を告げる鈴の音が鳴り響いた。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
年下男子は手強い
凪玖海くみ
BL
長年同じ仕事を続けてきた安藤啓介は、どこか心にぽっかりと穴が開いたような日々を過ごしていた。
そんなある日、職場の近くにある小さなパン屋『高槻ベーカリー』で出会った年下の青年・高槻直人。
直人のまっすぐな情熱と夢に触れるうちに、啓介は自分の心が揺れ動くのを感じる。
「君の力になりたい――」
些細なきっかけから始まった関係は、やがて2人の人生を大きく変える道へとつながっていく。
小さなパン屋を舞台に繰り広げられる、成長と絆の物語。2人が見つける“未来”の先には何が待っているのか――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる