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第三章 巡り会い
95.間違い
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立ち話も何だということで、店の奥にある卓と椅子が置かれた一画に移動してきた。大きな観葉植物が店内からの目隠しになっている。
アデルジェスはイーノスがどこかに連れて行ってしまった。荷物運びを手伝ってほしいとのことで、マリオンが不機嫌そうにたしなめたが、アデルジェスは力仕事なら得意だと笑って引き受けていた。
ミゼアスはマリオンと二人になり、七年ぶりの再会を噛みしめる。やがてぽつりぽつりと、お互いにこれまでのことを話し始めた。
やはりマリオンは島を出たとき、例の客ことイーノスが迎えに来たのだという。
「私は手紙など書いた覚えはなかったのに……もしかしたらとは思いましたが、やはりあなたでしたか」
苦笑しながらマリオンが呟く。
ミゼアスが島を去るマリオンに向けた最後の贈り物は、しっかりと届いていたのだ。
「あの人は、もともとはやり手の商人だったのですが、今では商売のほとんどを弟に任せてすっかり腑抜けてしまいました。私がもっとこぢんまりとした雑貨屋でもやりたいと漏らしたら、ではそうしようとなってしまったのですよ。まさか、それまで築いたものをあっさり捨てるようなことをするとは……」
苦々しい響きを帯びたマリオンの声は、尻すぼみに消えていく。
「それだけマリオン兄さんのことを大切に思っているのでしょう」
イーノスは島でマリオンの客だった頃にも、マリオンの無茶な願いを聞いている。それだけマリオンを想っているのならと思い、当時のミゼアスも手紙を託したのだ。
「本当に、そうらしいのですよね。どうして私をそこまで想ってくれるのか不思議ですが。島にいた頃も……」
お互いのわだかまりとなった事件に近付き、二人の間に沈黙が落ちる。
「……あの坊やは、立派に上級の白花となったそうですね。私は本当に身勝手なことをしてしまったものだと思っています」
マリオンが沈黙を破る。
かつてマリオンは、ミゼアスにふさわしくないとヴァレンに薬を盛ったのだ。ヴァレンは致命的に花月琴の才がなく、下級で終わるとも言われていた。
ミゼアス付きにふさわしく花月琴の才を開花させるか、そうでなければ潰れてしまえばいいとの言い分だった。
あまりに勝手な言い分だとは思ったが、実際にマリオンが同じような目にあって花月琴の才を開花させたのだという。まったく根拠のない乱暴というわけでもない。
あのとき、マリオンは間違っていると思った。今も認める気にはなれない。だが、確かに納得できる部分もあるのだ。
周りなど何も見ないまま最高位の五花になってしまったミゼアスだったが、事件の頃あたりから島の花たちを眺めるようになった。上級はわりとのんびりとしている花たちだが、下級はもっと鬱屈とした世界であることに気付いたのだ。
島の全てを眺めていくうちに、だんだんマリオンのしたことが明らかな間違いであるとは強く言えなくなってきた。
正しいかと問われれば、否だ。
だが、最後の手段としてそういった方法もあると言われたのなら、首を縦に振るかもしれない。
アデルジェスはイーノスがどこかに連れて行ってしまった。荷物運びを手伝ってほしいとのことで、マリオンが不機嫌そうにたしなめたが、アデルジェスは力仕事なら得意だと笑って引き受けていた。
ミゼアスはマリオンと二人になり、七年ぶりの再会を噛みしめる。やがてぽつりぽつりと、お互いにこれまでのことを話し始めた。
やはりマリオンは島を出たとき、例の客ことイーノスが迎えに来たのだという。
「私は手紙など書いた覚えはなかったのに……もしかしたらとは思いましたが、やはりあなたでしたか」
苦笑しながらマリオンが呟く。
ミゼアスが島を去るマリオンに向けた最後の贈り物は、しっかりと届いていたのだ。
「あの人は、もともとはやり手の商人だったのですが、今では商売のほとんどを弟に任せてすっかり腑抜けてしまいました。私がもっとこぢんまりとした雑貨屋でもやりたいと漏らしたら、ではそうしようとなってしまったのですよ。まさか、それまで築いたものをあっさり捨てるようなことをするとは……」
苦々しい響きを帯びたマリオンの声は、尻すぼみに消えていく。
「それだけマリオン兄さんのことを大切に思っているのでしょう」
イーノスは島でマリオンの客だった頃にも、マリオンの無茶な願いを聞いている。それだけマリオンを想っているのならと思い、当時のミゼアスも手紙を託したのだ。
「本当に、そうらしいのですよね。どうして私をそこまで想ってくれるのか不思議ですが。島にいた頃も……」
お互いのわだかまりとなった事件に近付き、二人の間に沈黙が落ちる。
「……あの坊やは、立派に上級の白花となったそうですね。私は本当に身勝手なことをしてしまったものだと思っています」
マリオンが沈黙を破る。
かつてマリオンは、ミゼアスにふさわしくないとヴァレンに薬を盛ったのだ。ヴァレンは致命的に花月琴の才がなく、下級で終わるとも言われていた。
ミゼアス付きにふさわしく花月琴の才を開花させるか、そうでなければ潰れてしまえばいいとの言い分だった。
あまりに勝手な言い分だとは思ったが、実際にマリオンが同じような目にあって花月琴の才を開花させたのだという。まったく根拠のない乱暴というわけでもない。
あのとき、マリオンは間違っていると思った。今も認める気にはなれない。だが、確かに納得できる部分もあるのだ。
周りなど何も見ないまま最高位の五花になってしまったミゼアスだったが、事件の頃あたりから島の花たちを眺めるようになった。上級はわりとのんびりとしている花たちだが、下級はもっと鬱屈とした世界であることに気付いたのだ。
島の全てを眺めていくうちに、だんだんマリオンのしたことが明らかな間違いであるとは強く言えなくなってきた。
正しいかと問われれば、否だ。
だが、最後の手段としてそういった方法もあると言われたのなら、首を縦に振るかもしれない。
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