僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第三章 巡り会い

94.コレ

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「私はマリオンと申します。……いちおう、コレも紹介しておきますか。下僕のイーノスです」

 アデルジェスとは対照的に、落ち着いた様子で口を開いたマリオンだったが、途中で忌々しそうな声になって言葉を続けた。

「初めまして。マリオンの夫こと、下僕のイーノスです」

 にこやかに名乗るイーノス。あっさり下僕と認めたが、それでよいのだろうか。ミゼアスはアデルジェスと思わず顔を見合わせる。

「いや……まあ、人それぞれだし、二人がよければ別に構わないんですが……」

 苦い笑みを口元に浮かべながらミゼアスは呟く。

「それよりもミゼアス、旦那様と言いましたね。とうとう身請けを受けたということですか?」

「いいえ、僕が自分の意思で島を出ました。ジェスと一緒になるために。ジェスは僕の幼馴染で、僕を『およめさん』にしてくれたんです」

 胸に誇らしさを掲げながら、ミゼアスは宣言する。するとマリオンの表情が、一瞬、固まった。

「ああ……なるほど。あなたはずっと、誰かを想い続けているのではないかと思っていましたが、想いが叶ったのですね。……おめでとう、ミゼアス」

 ゆっくりと、優しくマリオンは微笑む。澄み切った、穏やかな笑顔だった。かつてわだかまりを残す別れ方をしたことも、すべて溶けて消えてしまったかのようだ。
 先輩としてミゼアスを導いてくれていた頃の、厳しくも優しいマリオンの姿が重なり、ミゼアスの瞳には再び涙が浮かび上がってくる。
 今度はこらえきれずに、目元を押さえた。

「……あなたは、繊細で優しい子なのですよね。あの頃は五花らしく振る舞えとつらく当たったり、身勝手な思いをぶつけたりもしてしまいました。今ならば、あのようなやり方はしないのですが……あの頃は私も若い、というよりも幼かったですね。あなたには悪いことをしてしまったと思っています」

「僕は……もう、そんな……」

「あなたの噂は聞いておりました。一人で多くのものを背負い続けて、大変だったでしょうね。せめてあの頃、もっと甘えられるような相手がいれば……さらに言えば、私がそうなっていれば、と悔いたものです。でも、今のあなたには甘えられる旦那様がいるのですね」

 まるで雲間からのぞく月の光にも似た、穏やかな微笑みだった。優しく儚げで、一抹の寂しさが漂うような透明感が滲む。

「あなたも旦那様である俺に甘えるといい、マリオン」

「……部外者は黙っていてください」

 月は雲に隠れ、代わりに雷が落ちた。
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