91 / 133
第三章 巡り会い
91.かすかな手がかり
しおりを挟む
ミゼアスはアデルジェスと仲良く手を繋ぎながら、楽器を売っているという店に向かう。
たとえその店に気に入るような楽器がなかったとしても、こうして二人で買い物に向かうという楽しみを与えてくれたというだけで、素晴らしいことだ。
晴れ渡った空と同じように、ミゼアスの心も晴れがましい。他愛もない会話を交わしながら歩いていると、すぐに目的の店の前までたどりついた。
店に入ろうとすると、ちょうど扉が開いた。
「ん? ……ああ、この間の方ですね。いらっしゃいませ」
中から現れたのは、茶色の髪を持つ二十代後半程度の男だった。大きな籠を抱えている。どうやら荷物を運んでいるところのようだ。
「あ、どうも」
アデルジェスが軽く会釈をする。自然な様子だったので、顔見知りらしい。店主は黒髪だというから、この男は店員あたりなのだろう。
だが、どうもミゼアスも見たことがあるような気がするのだ。
じっと男を見てみるが、よく思い出せない。もしかしたら、道ですれ違ってでもいたのだろうか。この町に滞在してからは、ほんの数回とはいえ外出している。どこかですれ違っていたとしても、不思議ではないだろう。
「あの、店主さんはいますか?」
「店主……ああ、マリオンのことですね。中にいますよ。どうぞ」
きっとたまたまだと片付けようとしたミゼアスの耳に二人の会話が届き、聞き覚えのある名前にミゼアスはびくっと身を震わせる。
思わず男に問いかけようとしたが、男は二人に道を譲ると素早い動きで荷物を運んでいった。
去っていく男を眺めるミゼアスの目に、男の左耳の下にあるほくろが映る。
マリオンという名前など、珍しいわけではない。
だが、ミゼアスの知るマリオンが絡んだことで、左耳の下にほくろがある男とは何か関連がなかっただろうか。
考えるが、記憶の糸を手繰り寄せられない。すっかり細くなってしまった記憶の糸をつかもうとしながら、ミゼアスはもどかしさに頭を抱える。
これがもし完璧な記憶力を有するヴァレンだったら、すぐに答えが出るだろうに。
そう考えて、はっとする。そうだ、ヴァレンだ。
ミゼアスはかすかな手がかりを得たことに拳を握り締める。ヴァレンが関係していた出来事だったような気がするのだ。
たとえその店に気に入るような楽器がなかったとしても、こうして二人で買い物に向かうという楽しみを与えてくれたというだけで、素晴らしいことだ。
晴れ渡った空と同じように、ミゼアスの心も晴れがましい。他愛もない会話を交わしながら歩いていると、すぐに目的の店の前までたどりついた。
店に入ろうとすると、ちょうど扉が開いた。
「ん? ……ああ、この間の方ですね。いらっしゃいませ」
中から現れたのは、茶色の髪を持つ二十代後半程度の男だった。大きな籠を抱えている。どうやら荷物を運んでいるところのようだ。
「あ、どうも」
アデルジェスが軽く会釈をする。自然な様子だったので、顔見知りらしい。店主は黒髪だというから、この男は店員あたりなのだろう。
だが、どうもミゼアスも見たことがあるような気がするのだ。
じっと男を見てみるが、よく思い出せない。もしかしたら、道ですれ違ってでもいたのだろうか。この町に滞在してからは、ほんの数回とはいえ外出している。どこかですれ違っていたとしても、不思議ではないだろう。
「あの、店主さんはいますか?」
「店主……ああ、マリオンのことですね。中にいますよ。どうぞ」
きっとたまたまだと片付けようとしたミゼアスの耳に二人の会話が届き、聞き覚えのある名前にミゼアスはびくっと身を震わせる。
思わず男に問いかけようとしたが、男は二人に道を譲ると素早い動きで荷物を運んでいった。
去っていく男を眺めるミゼアスの目に、男の左耳の下にあるほくろが映る。
マリオンという名前など、珍しいわけではない。
だが、ミゼアスの知るマリオンが絡んだことで、左耳の下にほくろがある男とは何か関連がなかっただろうか。
考えるが、記憶の糸を手繰り寄せられない。すっかり細くなってしまった記憶の糸をつかもうとしながら、ミゼアスはもどかしさに頭を抱える。
これがもし完璧な記憶力を有するヴァレンだったら、すぐに答えが出るだろうに。
そう考えて、はっとする。そうだ、ヴァレンだ。
ミゼアスはかすかな手がかりを得たことに拳を握り締める。ヴァレンが関係していた出来事だったような気がするのだ。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる