僕はおよめさん!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
84 / 133
第三章 巡り会い

84.勘違い

しおりを挟む
「その……えっと……足でしているっていうようなこと、ないよね……?」

 娼館で働いているなど、きっと何かの間違いだ。そうであってほしいとの希望をこめて、アデルジェスは問いかける。

「え? どうしてわかったの?」

 しかし、あっけらかんとミゼアスは答えた。
 不思議そうではあったが、悪びれている様子はない。娼館で育ったミゼアスにとっては、たいしたことではないのだろうか。
 アデルジェスは怒鳴りそうになってしまうのをぐっとこらえ、押さえつけた腹から声を絞り出す。

「ミゼアス……どうか……お願いだから、やめてほしい……」

「え? そりゃあ、僕も最初はちょっとどうかなって思ったけれど……洗っているし、大丈夫だよ」

「洗っているから大丈夫? 何だよ、それ……」

「いや、僕に言われても……おかみさんが大丈夫だって言うし……」

 娼館のおかみさんが大丈夫だと言ったのか。だからといって、そんなことを鵜呑みにするのか。
 賢いミゼアスの言葉とも思えない。

「……俺、ミゼアスのことを愛しているよ。でも、こんなことを続けるようなら、一緒にはいられない……」

「え? ね、ねえ、それ、何? どうして?」

 混乱した様子でミゼアスがアデルジェスにすがりついてくる。大きく見開いた目からは、涙がこぼれ落ちそうだった。

「どうしてって……そんなこともわからないの?」

 つい物言いが冷たくなってしまう。
 ますますミゼアスの顔が悲痛に歪み、涙が一筋流れていった。

「わ……わからないよ……も、もしかして、僕が料理をジェスに食べさせるの、迷惑だった? それなら、食べなくてもいいから……」

「料理? 何で料理の話が出てくるの?」

「だって……漬物を作るとき、野菜を足で踏むのが嫌なんでしょう? 嫌いなものを無理に食べろなんて言わないから……」

 アデルジェスを満たしていた怒りが、急速に萎んでいった。
 もしかして、とんでもない勘違いをしていたのではないかと、血の気が引いていく。

「……ミゼアスって、今日の昼間は何をしていたの?」

「え? 勉強を教えて、それから料理を教わっていたよ」

「昨日の昼は?」

「同じだよ。漬物作りを教わった。野菜を足で踏んで水分を出すんだって」

「夜は?」

「ジェスと一緒だったじゃないか」

 完全に自らの勘違いであったことを悟り、アデルジェスは背筋に冷たいものを覚える。考えてみれば、先ほど仕事仲間たちは『これから』娼館に向かうのだと言っていた。ミゼアスは今、ここにいる。

「……申し訳ございませんでした」

 アデルジェスは床にひれ伏し、額をこすりつけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

ペイン・リリーフ

こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。 優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。 記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。 ★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*) ★素敵な表紙は らテて様✧︎*。 ☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...