78 / 133
第三章 巡り会い
78.花嫁修業再開
しおりを挟む
露店を見て回ったが、ミゼアスの気に入るような楽器は見つからなかった。日が暮れてきたので、二人は宿に戻って夕食にする。
楽器は急ぐわけでもないので、滞在中にゆっくり探せばよいだろう。
宿は中心部から離れた場所にある、こぢんまりとした家庭的な宿だった。小さいながらも浴室が付いていて、値段も良心的ということでアデルジェスが決めたのだ。
「お待たせしました!」
元気の良い、十代半ばほどの赤毛の少女が料理を運んできた。エビや貝などがたっぷり入ったシチューの香りが、食欲を刺激する。
味付けは素朴だったが、それがかえって素材の旨みを引き出しているようだ。優しく温かい味わいに、心も腹も満ちていく。
「何だか、ほっとする味だね」
「うん、僕はずっと島で海産物を食べていたせいか、懐かしくも感じられるなあ」
二人で和やかに話しながら食事をしていると、追加の料理を持ってきた赤毛の少女がにっこりと笑った。
「お客さん、気に入ってくれた? だったら、嬉しいな」
「うん、美味しいよ。作り方を教わりたいくらい」
ミゼアスが微笑みながら応えると、少女も笑みを深くする。
「意外と作り方は簡単なんだよ。材料が良いと、味付けは簡単にしたほうが美味しいからね。お客さんは内陸の人?」
くりくりとした大きな青色の瞳を向け、少女は首を傾げる。
「今はいろいろ旅をしているところなんだ。港町に滞在するのは初めてだよ」
「へえ、そうなんだ。旅、かあ……。あ……ねえ、東国には行ったことがある?」
どこかうっとりとした様子で呟いた後、やや声を落として少女は囁く。その様子で、ミゼアスは何となく察して口元に笑みを浮かべた。
「いや、東国は行ったことがないな。誰か、気になる人でもいるのかい?」
「え? そ、そんなんじゃないよ! ……東国出身だっていう船乗りが前に来て……そ、そう、東国の言葉って独特で綺麗だなって思っただけ! それだけだから!」
慌てて言いつくろう少女の姿を見て、ミゼアスは噴き出さないようにこらえる。あまりにも、わかりやすい。
「東国の言葉なら話せるよ。よかったら、簡単な会話でも教えようか?」
「えっ? 本当?」
少女がぱっと顔を輝かせる。
「うん、このシチューの作り方を教えてくれたらね」
ミゼアスの申し出を、少女は満面の笑みで了承する。しばらく遠ざかっていた花嫁修業を再開できそうだと、ミゼアスも満面の笑みを返した。
楽器は急ぐわけでもないので、滞在中にゆっくり探せばよいだろう。
宿は中心部から離れた場所にある、こぢんまりとした家庭的な宿だった。小さいながらも浴室が付いていて、値段も良心的ということでアデルジェスが決めたのだ。
「お待たせしました!」
元気の良い、十代半ばほどの赤毛の少女が料理を運んできた。エビや貝などがたっぷり入ったシチューの香りが、食欲を刺激する。
味付けは素朴だったが、それがかえって素材の旨みを引き出しているようだ。優しく温かい味わいに、心も腹も満ちていく。
「何だか、ほっとする味だね」
「うん、僕はずっと島で海産物を食べていたせいか、懐かしくも感じられるなあ」
二人で和やかに話しながら食事をしていると、追加の料理を持ってきた赤毛の少女がにっこりと笑った。
「お客さん、気に入ってくれた? だったら、嬉しいな」
「うん、美味しいよ。作り方を教わりたいくらい」
ミゼアスが微笑みながら応えると、少女も笑みを深くする。
「意外と作り方は簡単なんだよ。材料が良いと、味付けは簡単にしたほうが美味しいからね。お客さんは内陸の人?」
くりくりとした大きな青色の瞳を向け、少女は首を傾げる。
「今はいろいろ旅をしているところなんだ。港町に滞在するのは初めてだよ」
「へえ、そうなんだ。旅、かあ……。あ……ねえ、東国には行ったことがある?」
どこかうっとりとした様子で呟いた後、やや声を落として少女は囁く。その様子で、ミゼアスは何となく察して口元に笑みを浮かべた。
「いや、東国は行ったことがないな。誰か、気になる人でもいるのかい?」
「え? そ、そんなんじゃないよ! ……東国出身だっていう船乗りが前に来て……そ、そう、東国の言葉って独特で綺麗だなって思っただけ! それだけだから!」
慌てて言いつくろう少女の姿を見て、ミゼアスは噴き出さないようにこらえる。あまりにも、わかりやすい。
「東国の言葉なら話せるよ。よかったら、簡単な会話でも教えようか?」
「えっ? 本当?」
少女がぱっと顔を輝かせる。
「うん、このシチューの作り方を教えてくれたらね」
ミゼアスの申し出を、少女は満面の笑みで了承する。しばらく遠ざかっていた花嫁修業を再開できそうだと、ミゼアスも満面の笑みを返した。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
待っていたのは恋する季節
冴月希衣@商業BL販売中
BL
恋の芽吹きのきっかけは失恋?【癒し系なごみキャラ×強気モテメン】
「別れてほしいの」
「あー、はいはい。了解! 別れよう。じゃあな」
日高雪白。大手クレジットカード会社の営業企画部所属。二十二歳。
相手から告白されて付き合い始めたのに別れ話を切り出してくるのは必ず女性側から。彼なりに大事にしているつもりでも必ずその結末を迎える理不尽ルートだが、相手が罪悪感を抱かないよう、わざと冷たく返事をしている。
そんな雪白が傷心を愚痴る相手はたった一人。親友、小日向蒼海。
癒し系なごみキャラに強気モテメンが弱みを見せる時、親友同士の関係に思いがけない変化が……。
表紙は香月ららさん(@lala_kotubu)
◆本文、画像の無断転載禁止◆
Reproducing all or any part of the contents is prohibited without the author's permission.
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ペイン・リリーフ
こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。
優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。
記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。
★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*)
★素敵な表紙は らテて様✧︎*。
☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる