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第三章 巡り会い
78.花嫁修業再開
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露店を見て回ったが、ミゼアスの気に入るような楽器は見つからなかった。日が暮れてきたので、二人は宿に戻って夕食にする。
楽器は急ぐわけでもないので、滞在中にゆっくり探せばよいだろう。
宿は中心部から離れた場所にある、こぢんまりとした家庭的な宿だった。小さいながらも浴室が付いていて、値段も良心的ということでアデルジェスが決めたのだ。
「お待たせしました!」
元気の良い、十代半ばほどの赤毛の少女が料理を運んできた。エビや貝などがたっぷり入ったシチューの香りが、食欲を刺激する。
味付けは素朴だったが、それがかえって素材の旨みを引き出しているようだ。優しく温かい味わいに、心も腹も満ちていく。
「何だか、ほっとする味だね」
「うん、僕はずっと島で海産物を食べていたせいか、懐かしくも感じられるなあ」
二人で和やかに話しながら食事をしていると、追加の料理を持ってきた赤毛の少女がにっこりと笑った。
「お客さん、気に入ってくれた? だったら、嬉しいな」
「うん、美味しいよ。作り方を教わりたいくらい」
ミゼアスが微笑みながら応えると、少女も笑みを深くする。
「意外と作り方は簡単なんだよ。材料が良いと、味付けは簡単にしたほうが美味しいからね。お客さんは内陸の人?」
くりくりとした大きな青色の瞳を向け、少女は首を傾げる。
「今はいろいろ旅をしているところなんだ。港町に滞在するのは初めてだよ」
「へえ、そうなんだ。旅、かあ……。あ……ねえ、東国には行ったことがある?」
どこかうっとりとした様子で呟いた後、やや声を落として少女は囁く。その様子で、ミゼアスは何となく察して口元に笑みを浮かべた。
「いや、東国は行ったことがないな。誰か、気になる人でもいるのかい?」
「え? そ、そんなんじゃないよ! ……東国出身だっていう船乗りが前に来て……そ、そう、東国の言葉って独特で綺麗だなって思っただけ! それだけだから!」
慌てて言いつくろう少女の姿を見て、ミゼアスは噴き出さないようにこらえる。あまりにも、わかりやすい。
「東国の言葉なら話せるよ。よかったら、簡単な会話でも教えようか?」
「えっ? 本当?」
少女がぱっと顔を輝かせる。
「うん、このシチューの作り方を教えてくれたらね」
ミゼアスの申し出を、少女は満面の笑みで了承する。しばらく遠ざかっていた花嫁修業を再開できそうだと、ミゼアスも満面の笑みを返した。
楽器は急ぐわけでもないので、滞在中にゆっくり探せばよいだろう。
宿は中心部から離れた場所にある、こぢんまりとした家庭的な宿だった。小さいながらも浴室が付いていて、値段も良心的ということでアデルジェスが決めたのだ。
「お待たせしました!」
元気の良い、十代半ばほどの赤毛の少女が料理を運んできた。エビや貝などがたっぷり入ったシチューの香りが、食欲を刺激する。
味付けは素朴だったが、それがかえって素材の旨みを引き出しているようだ。優しく温かい味わいに、心も腹も満ちていく。
「何だか、ほっとする味だね」
「うん、僕はずっと島で海産物を食べていたせいか、懐かしくも感じられるなあ」
二人で和やかに話しながら食事をしていると、追加の料理を持ってきた赤毛の少女がにっこりと笑った。
「お客さん、気に入ってくれた? だったら、嬉しいな」
「うん、美味しいよ。作り方を教わりたいくらい」
ミゼアスが微笑みながら応えると、少女も笑みを深くする。
「意外と作り方は簡単なんだよ。材料が良いと、味付けは簡単にしたほうが美味しいからね。お客さんは内陸の人?」
くりくりとした大きな青色の瞳を向け、少女は首を傾げる。
「今はいろいろ旅をしているところなんだ。港町に滞在するのは初めてだよ」
「へえ、そうなんだ。旅、かあ……。あ……ねえ、東国には行ったことがある?」
どこかうっとりとした様子で呟いた後、やや声を落として少女は囁く。その様子で、ミゼアスは何となく察して口元に笑みを浮かべた。
「いや、東国は行ったことがないな。誰か、気になる人でもいるのかい?」
「え? そ、そんなんじゃないよ! ……東国出身だっていう船乗りが前に来て……そ、そう、東国の言葉って独特で綺麗だなって思っただけ! それだけだから!」
慌てて言いつくろう少女の姿を見て、ミゼアスは噴き出さないようにこらえる。あまりにも、わかりやすい。
「東国の言葉なら話せるよ。よかったら、簡単な会話でも教えようか?」
「えっ? 本当?」
少女がぱっと顔を輝かせる。
「うん、このシチューの作り方を教えてくれたらね」
ミゼアスの申し出を、少女は満面の笑みで了承する。しばらく遠ざかっていた花嫁修業を再開できそうだと、ミゼアスも満面の笑みを返した。
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