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第二章 南へ
69.生贄を要求する花
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「守るため?」
軽く眉根を寄せ、ミゼアスは呟く。
「……旦那様は当時、ある商売敵に邪魔をされていました。奥方様の実家、ローダンデリアゆかりの商人です」
「ローダンデリア……ああ、夕月花の産地か。そこの商人がどうして?」
ミゼアスがまだ不夜島で見習いだった頃、夕月花の飴が出回るようになった。それまでは体臭を抑えるため、食事内容にも制限があったのだが、体臭を花の穏やかな芳香にするこの飴のおかげで、そういった制限事項は消えたのだ。
当時はとても画期的なことで、産地がローダンデリアだということはミゼアスも覚えていた。
「その商人は、奥方様に懸想していたようなのです。生き写しであるカリナ嬢様を欲しがったらしく……旦那様の商売を失敗に追い込み、引き取ろうとしていたのです」
「色恋沙汰っていうこと?」
ミゼアスは首を傾げる。
確かに、それならば亡くなったことにして目をそらさせるということもありえそうだ。ただ、不夜島に売って、さらに亡くなったことにするとは、どうも念の入れすぎではないかとも思えた。
「いえ、それが……旦那様は、はっきりとはおっしゃいませんでしたが、どうもそれだけではないようでした……わしにもよくわかりませんが……」
沈黙が場を支配する。ミゼアスも老人も、口を開かない。
ややあって、沈黙を破ったのはロシュだった。
「夕月花といえば、国内ではローダンデリアでのみ育つ花だ。領主が特別な世話をしているとかで……でも、領主が数ヶ月前に事故で亡くなったんだよ。それで今現在、生育が悪くて今年の収穫が見込めないって話を聞いた」
考え込むように指を顎にあてながら、ロシュが呟く。
「ローダンデリア領主が……?」
老人は思わずといった様子で驚きの滲む声を漏らす。
「……ローダンデリア領主は、奥方様の兄君です。カリナ嬢様にとっては伯父にあたります」
この言葉は、おそらく老人が受けたであろう驚きよりも、大きな衝撃をミゼアスにもたらした。
「え……? つまり、ヴァレンはローダンデリア領主の甥っていうこと……? あの子、貴族の血を引いていたの……?」
数々のヴァレンの奇行が頭を駆け巡っていく。
いや、しかし、貴族というのは変人が多いものだ。身分の高い者や金持ちほど、変態が多いというのはミゼアスもよく知っている。
そう考えれば、ヴァレンが貴族の血を引いているというのも納得できるような気がしてきた。
頭を振り、ミゼアスは考えを戻す。
それよりも、大切なことが滲んでいるように思えた。
「……何だか、ちょっと繋がってきたような気がする。ヴァレンのことを探していた商人風の男がいるっていう話だったよね。もしかして、跡継ぎ問題?」
領主の死は、この時期にヴァレンを探していたことと関連があるような気がする。
ヴァレンの父がヴァレンを亡くなったものとしていたことにも、どこかに繋がる糸があるのかもしれない。
「確か、息子が新領主になったらしいけれど……内部でごたごたがあるのかもしれないな。でも、夕月花……夕月花……何だったかな……何かあったような……」
ぶつぶつと呟きながら、ロシュは考え込む。
腕組みをしながら唸っていたが、程なくして思い出したらしく、ロシュは手を叩く。
「そうだ! 思い出した! 生贄を要求する花だ! 育てている者の一族から生贄を差し出すことによって咲く花、それが夕月花だ」
軽く眉根を寄せ、ミゼアスは呟く。
「……旦那様は当時、ある商売敵に邪魔をされていました。奥方様の実家、ローダンデリアゆかりの商人です」
「ローダンデリア……ああ、夕月花の産地か。そこの商人がどうして?」
ミゼアスがまだ不夜島で見習いだった頃、夕月花の飴が出回るようになった。それまでは体臭を抑えるため、食事内容にも制限があったのだが、体臭を花の穏やかな芳香にするこの飴のおかげで、そういった制限事項は消えたのだ。
当時はとても画期的なことで、産地がローダンデリアだということはミゼアスも覚えていた。
「その商人は、奥方様に懸想していたようなのです。生き写しであるカリナ嬢様を欲しがったらしく……旦那様の商売を失敗に追い込み、引き取ろうとしていたのです」
「色恋沙汰っていうこと?」
ミゼアスは首を傾げる。
確かに、それならば亡くなったことにして目をそらさせるということもありえそうだ。ただ、不夜島に売って、さらに亡くなったことにするとは、どうも念の入れすぎではないかとも思えた。
「いえ、それが……旦那様は、はっきりとはおっしゃいませんでしたが、どうもそれだけではないようでした……わしにもよくわかりませんが……」
沈黙が場を支配する。ミゼアスも老人も、口を開かない。
ややあって、沈黙を破ったのはロシュだった。
「夕月花といえば、国内ではローダンデリアでのみ育つ花だ。領主が特別な世話をしているとかで……でも、領主が数ヶ月前に事故で亡くなったんだよ。それで今現在、生育が悪くて今年の収穫が見込めないって話を聞いた」
考え込むように指を顎にあてながら、ロシュが呟く。
「ローダンデリア領主が……?」
老人は思わずといった様子で驚きの滲む声を漏らす。
「……ローダンデリア領主は、奥方様の兄君です。カリナ嬢様にとっては伯父にあたります」
この言葉は、おそらく老人が受けたであろう驚きよりも、大きな衝撃をミゼアスにもたらした。
「え……? つまり、ヴァレンはローダンデリア領主の甥っていうこと……? あの子、貴族の血を引いていたの……?」
数々のヴァレンの奇行が頭を駆け巡っていく。
いや、しかし、貴族というのは変人が多いものだ。身分の高い者や金持ちほど、変態が多いというのはミゼアスもよく知っている。
そう考えれば、ヴァレンが貴族の血を引いているというのも納得できるような気がしてきた。
頭を振り、ミゼアスは考えを戻す。
それよりも、大切なことが滲んでいるように思えた。
「……何だか、ちょっと繋がってきたような気がする。ヴァレンのことを探していた商人風の男がいるっていう話だったよね。もしかして、跡継ぎ問題?」
領主の死は、この時期にヴァレンを探していたことと関連があるような気がする。
ヴァレンの父がヴァレンを亡くなったものとしていたことにも、どこかに繋がる糸があるのかもしれない。
「確か、息子が新領主になったらしいけれど……内部でごたごたがあるのかもしれないな。でも、夕月花……夕月花……何だったかな……何かあったような……」
ぶつぶつと呟きながら、ロシュは考え込む。
腕組みをしながら唸っていたが、程なくして思い出したらしく、ロシュは手を叩く。
「そうだ! 思い出した! 生贄を要求する花だ! 育てている者の一族から生贄を差し出すことによって咲く花、それが夕月花だ」
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