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第二章 南へ
66.不穏の影
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「申し訳ございません……申し訳ございません……」
爽やかな朝、まだ寝ぼけているらしいアデルジェスがぶつぶつと呟き続ける。
「もう、いいかげん起きてよ。ここ、食堂だよ」
やや呆れながらミゼアスはアデルジェスの頬を軽く叩く。
ようやく黙ったアデルジェスが、もそもそと食事を始める。昨日は市を見て回ったのだし、疲れが出ているのだろう。
げっそりとしたアデルジェスと対照的に、ミゼアスはすっきりとした気分だった。
悪夢ごときに悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しい。
気分よく食事をたいらげる頃、現れた姿にミゼアスははっとする。
「ロシュ……」
アデルジェスも夢うつつの状態から醒めたようだ。
ロシュは二人の座る卓に近付くと、勢いよく頭を下げた。
「昨日はごめん! 俺、失礼な態度を取ってしまった。ついびっくりしてしまったけれど、友達の『およめさん』に対して悪かったと反省している」
謝罪の言葉にミゼアスは目を見開く。
「僕をジェスの『およめさん』だって、認めてくれるの?」
「認めるも何も……二人がそうだって言うんだから、そうなんだろうし。それに……正直言って、高嶺の花すぎる存在にどう接していいのかよくわからない。ジェスの『およめさん』だったら、普通に話せるけど……。とにかく、ごめんなさい。許してください」
ミゼアスの心に、じんわりとした喜びがわきあがる。
アデルジェスの友人にも、ミゼアスの過去を知った上で『およめさん』だと認めてもらえたのだ。
「ありがとう……」
「へ?」
思わずミゼアスの口から漏れた言葉に、ロシュが間抜けな声を漏らす。
「まあ、とにかく座れよ。ずっとそんなところに立っていないで」
アデルジェスが助け舟を出した。おずおずとロシュは従う。
「それで、その……」
まだ口ごもるロシュに、ミゼアスとアデルジェスは顔を見合わせて笑いを漏らす。
「ロシュ、意外と鈍いんだな。ミゼアスはもういいって言っているんだよ」
「え、あ……ありがとう。でも、ジェスに鈍いとは言われたくないな……」
ぼそりと漏らした呟きにミゼアスはさらに笑う。アデルジェスは拗ねたような顔でそっぽを向き、その姿にロシュも笑みをこぼした。
「あのさ……カリナちゃん……じゃなくて、ヴァレンだっけ? とにかく、隣町にあの子のことを聞きに行くの?」
ややあって、ロシュが口を開く。
「うん、そのつもり。ちょっと気になることがあって」
「もし迷惑でなければ……俺も一緒に行っていいかな? 俺にできることなんてないかもとは思うけれど……でも、やっぱり気になるんだ」
ロシュの申し出に、ミゼアスはアデルジェスを見る。アデルジェスは黙ってミゼアスを見つめて頷いた。
「うん、僕たちは構わないよ」
「ありがとう。俺もよく考えたとき、ちょっと引っかかったことがあって」
不安げなロシュの言葉に、ミゼアスはわずかに眉を寄せた。
どうも不穏な影がちらちらと見え隠れするようだ。
もっとも、ただの杞憂かもしれない。むしろ杞憂であってほしいのだが、ミゼアスは何かが潜んでいるとの思いを捨てられなかった。
爽やかな朝、まだ寝ぼけているらしいアデルジェスがぶつぶつと呟き続ける。
「もう、いいかげん起きてよ。ここ、食堂だよ」
やや呆れながらミゼアスはアデルジェスの頬を軽く叩く。
ようやく黙ったアデルジェスが、もそもそと食事を始める。昨日は市を見て回ったのだし、疲れが出ているのだろう。
げっそりとしたアデルジェスと対照的に、ミゼアスはすっきりとした気分だった。
悪夢ごときに悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しい。
気分よく食事をたいらげる頃、現れた姿にミゼアスははっとする。
「ロシュ……」
アデルジェスも夢うつつの状態から醒めたようだ。
ロシュは二人の座る卓に近付くと、勢いよく頭を下げた。
「昨日はごめん! 俺、失礼な態度を取ってしまった。ついびっくりしてしまったけれど、友達の『およめさん』に対して悪かったと反省している」
謝罪の言葉にミゼアスは目を見開く。
「僕をジェスの『およめさん』だって、認めてくれるの?」
「認めるも何も……二人がそうだって言うんだから、そうなんだろうし。それに……正直言って、高嶺の花すぎる存在にどう接していいのかよくわからない。ジェスの『およめさん』だったら、普通に話せるけど……。とにかく、ごめんなさい。許してください」
ミゼアスの心に、じんわりとした喜びがわきあがる。
アデルジェスの友人にも、ミゼアスの過去を知った上で『およめさん』だと認めてもらえたのだ。
「ありがとう……」
「へ?」
思わずミゼアスの口から漏れた言葉に、ロシュが間抜けな声を漏らす。
「まあ、とにかく座れよ。ずっとそんなところに立っていないで」
アデルジェスが助け舟を出した。おずおずとロシュは従う。
「それで、その……」
まだ口ごもるロシュに、ミゼアスとアデルジェスは顔を見合わせて笑いを漏らす。
「ロシュ、意外と鈍いんだな。ミゼアスはもういいって言っているんだよ」
「え、あ……ありがとう。でも、ジェスに鈍いとは言われたくないな……」
ぼそりと漏らした呟きにミゼアスはさらに笑う。アデルジェスは拗ねたような顔でそっぽを向き、その姿にロシュも笑みをこぼした。
「あのさ……カリナちゃん……じゃなくて、ヴァレンだっけ? とにかく、隣町にあの子のことを聞きに行くの?」
ややあって、ロシュが口を開く。
「うん、そのつもり。ちょっと気になることがあって」
「もし迷惑でなければ……俺も一緒に行っていいかな? 俺にできることなんてないかもとは思うけれど……でも、やっぱり気になるんだ」
ロシュの申し出に、ミゼアスはアデルジェスを見る。アデルジェスは黙ってミゼアスを見つめて頷いた。
「うん、僕たちは構わないよ」
「ありがとう。俺もよく考えたとき、ちょっと引っかかったことがあって」
不安げなロシュの言葉に、ミゼアスはわずかに眉を寄せた。
どうも不穏な影がちらちらと見え隠れするようだ。
もっとも、ただの杞憂かもしれない。むしろ杞憂であってほしいのだが、ミゼアスは何かが潜んでいるとの思いを捨てられなかった。
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