僕はおよめさん!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
64 / 133
第二章 南へ

64.溶け合って

しおりを挟む
 言葉少なに二人は部屋に戻った。
 ほとんど口を開かないまま、風呂をすませる。温かい湯は少しだけ、気持ちを落ち着かせてくれた。
 風呂から上がったアデルジェスに、そっとミゼアスは寄りかかる。

「ねえ、ジェス……」

「ミゼアスは俺の大切な、大切な『およめさん』だよ」

 ミゼアスが口を開きかけるのを制し、口早にアデルジェスが言い切る。
 じわり、と涙が滲んだ。普段は鈍いくせに、どうしてこうも欲しい言葉をくれるのだろう。
 アデルジェスの優しく、たくましい腕に抱きすくめられる。

「俺にはミゼアスしかいない。ずっと側にいて、俺と一緒に歩いていって」

 規則正しい心臓の鼓動に包まれ、ミゼアスは癒されていくのを感じる。いっとき、むき出しになってしまった傷が、ゆっくりと塞がっていく。

「ジェス……抱いて……僕を抱いて……」

 ミゼアスの願いに、アデルジェスは微笑んでミゼアスの頬を撫でる。大きな手の温もりが、心までしみこんでいくようだった。
 アデルジェスの優しさは、乾きそうになってしまったミゼアスの心を潤してくれる。
 かつて男娼として身を売っていた事実は消えない。しかしアデルジェスは承知の上で、この言葉をくれたのだ。
 他人がどう言おうと関係ない。ミゼアスにとっては、アデルジェスが全てだ。
 ミゼアスはアデルジェスの頭に腕を絡め、口づけた。



「んっ……はぁ……ん……」

 身体をやや後ろに傾けて寝台に腰掛けるアデルジェスの上に、ミゼアスは乗っていた。アデルジェスは片手を後ろについて支え、もう片方の手をミゼアスの腰に回している。
 ミゼアスは繋がったまま交わす口づけに夢中になっていた。繋がった部分からゆるやかにわきおこる快楽と、口づけから生じる幸福が身体の中で混ざり合い、内側からとろけて崩れ落ちてしまいそうだ。

 つい夢中になりすぎて全身で体重をかけてしまっていたが、アデルジェスはびくともしない。それどころか、いたずらするかのように繋がっている部分を指でなぞられる。
 ミゼアスはびくっと身を震わせ、口を離してしまった。
 未練がましく、細い糸が二人を繋ぐ。

「やぁん……それ、だめぇ……」

 甘ったるい声で抗議するが、アデルジェスは指の動きを止めない。繋がった部分からゆっくり前へと指が這っていく。

「あっ……あぁ……ん……」

 ぞくぞくと背筋に甘い痺れが走る。

「前も可愛がってあげたい」

「やっ……それはだめ……やめて……」

「どうして?」

「だって……そんなことされたら、すぐにイっちゃうから……」

「何回でもイけばいいよ。ミゼアスの可愛い顔を見せて」

 一度も触れられないまま解放が間近になっているそれを、アデルジェスは優しく包み込む。香油を絡めた指はぬめりを帯びて、ゆるやかに動かされるだけでも突き抜けるような快楽が全身を駆け巡った。

「あっ、あぁ……だめっ、ああっ!」

 宣言どおりあっさりと達し、ミゼアスは崩れ落ちそうになりながらも、どうにかアデルジェスの引き締まった腹に両手をついて荒い呼吸を繰り返す。

「可愛いね、ミゼアス」

 アデルジェスがミゼアスの頬を片手で撫でる。
 ミゼアスが快楽で潤んだ瞳を向けると、今度はアデルジェスから口づけてきた。再び、繋がったまま口づけを交わし合う。
 上と下、両方でアデルジェスと繋がりながら、ミゼアスは幸福に酔う。このまま、ずっとアデルジェスとひとつになって、溶け合ってしまいたかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...