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第二章 南へ
57.ふさふさ
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予定どおり、昼過ぎには目的の町に着いた。
町を歩く人々の足取りは軽やかで、どことなく楽しげな雰囲気に包まれている。
夕方から市が開かれるそうなので、先に宿を取っておくことにした。宿を決めてから見物したほうが安心だろう。
当然のようにアデルジェスはやや高級な、浴室付きの宿を取った。風呂好きなミゼアスのため、アデルジェスはいつも浴室付きの宿を探してくれる。
島を出たばかりの頃は、お互い盛大に痕を付け合っていたせいで共同浴場には行けなかった。しかし、そのときの痕はもうとっくに消えている。
浴室付きの部屋ではなく、共同浴場でもよいとミゼアスは言ったことがあった。するとアデルジェスは、やっぱりミゼアスの裸はなるべく他人に晒したくないと首を横に振ったのだ。
アデルジェスの独占欲は、ミゼアスの心をくすぐったいような幸福で満たした。
街道沿いなどで浴室のない宿に泊まったときも共同浴場に行けず、風呂に入れないのが難点だったが。
夕方まで宿でのんびり過ごした後、市に向かった。
昼よりは大分落ち着いたが、まだ日が高く、陽気に包まれている。物売りや呼び込みの声も活気に満ちていて、にぎやかなざわめきが町を埋め尽くしているかのようだ。
ミゼアスはわくわくしながら、アデルジェスと手を繋いで見て回る。
「これが百年に一度しか咲かないという花から作られた奇跡の薬、なんとひと塗りするだけで髪の毛ふさふさ!」
よくある眉唾な口上も楽しいものだ。
ミゼアスは笑いながら通り過ぎようとするが、アデルジェスが足を止めた。どうしたのかと思えば、口上を述べる商売人を見据えているようだ。
「そ、それについて、詳しく……!」
「ジェス!?」
アデルジェスはふらふらと毛生え薬に引き寄せられていく。慌ててミゼアスは両手でアデルジェスの手をつかみ、留めようとする。
しかしアデルジェスの力は強い。ミゼアスはアデルジェスを止めるどころか、引きずられていった。
「ジェス、落ち着いて! ジェスの髪はふさふさしているから!」
腕に全身で絡みつき、どうにかアデルジェスを正気づかせた。
以前、島でも髪の毛のことで取り乱したことがあったが、何故これほど気にしているのかがわからない。まったくもって理解できないアデルジェスの一面だ。
アデルジェスは後ろ髪を引かれる様子だったが、どうにかその場を後にした。
町を歩く人々の足取りは軽やかで、どことなく楽しげな雰囲気に包まれている。
夕方から市が開かれるそうなので、先に宿を取っておくことにした。宿を決めてから見物したほうが安心だろう。
当然のようにアデルジェスはやや高級な、浴室付きの宿を取った。風呂好きなミゼアスのため、アデルジェスはいつも浴室付きの宿を探してくれる。
島を出たばかりの頃は、お互い盛大に痕を付け合っていたせいで共同浴場には行けなかった。しかし、そのときの痕はもうとっくに消えている。
浴室付きの部屋ではなく、共同浴場でもよいとミゼアスは言ったことがあった。するとアデルジェスは、やっぱりミゼアスの裸はなるべく他人に晒したくないと首を横に振ったのだ。
アデルジェスの独占欲は、ミゼアスの心をくすぐったいような幸福で満たした。
街道沿いなどで浴室のない宿に泊まったときも共同浴場に行けず、風呂に入れないのが難点だったが。
夕方まで宿でのんびり過ごした後、市に向かった。
昼よりは大分落ち着いたが、まだ日が高く、陽気に包まれている。物売りや呼び込みの声も活気に満ちていて、にぎやかなざわめきが町を埋め尽くしているかのようだ。
ミゼアスはわくわくしながら、アデルジェスと手を繋いで見て回る。
「これが百年に一度しか咲かないという花から作られた奇跡の薬、なんとひと塗りするだけで髪の毛ふさふさ!」
よくある眉唾な口上も楽しいものだ。
ミゼアスは笑いながら通り過ぎようとするが、アデルジェスが足を止めた。どうしたのかと思えば、口上を述べる商売人を見据えているようだ。
「そ、それについて、詳しく……!」
「ジェス!?」
アデルジェスはふらふらと毛生え薬に引き寄せられていく。慌ててミゼアスは両手でアデルジェスの手をつかみ、留めようとする。
しかしアデルジェスの力は強い。ミゼアスはアデルジェスを止めるどころか、引きずられていった。
「ジェス、落ち着いて! ジェスの髪はふさふさしているから!」
腕に全身で絡みつき、どうにかアデルジェスを正気づかせた。
以前、島でも髪の毛のことで取り乱したことがあったが、何故これほど気にしているのかがわからない。まったくもって理解できないアデルジェスの一面だ。
アデルジェスは後ろ髪を引かれる様子だったが、どうにかその場を後にした。
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