僕はおよめさん!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
51 / 133
第二章 南へ

51.肉団子

しおりを挟む
 フィオンを騙そうとしていた男を警備兵に送り届け、アデルジェスへの土産用の肉団子を持ってミゼアスは宿に戻ってきた。
 ただ途中からフィオンの態度がどうもよそよそしくなり、敬語を使うようになっていたのは何故だろうか。よくわからない。
 それでも今日は料理を少し教わることもできた。順調に花嫁修業の道を歩むことができたとミゼアスは満足する。

 あとはアデルジェスを待つだけだ。ミゼアスが宿に戻ってきた時点で、もうすぐ日が暮れ始めようかという時間だった。もう間もなくアデルジェスは戻ってくるだろう。
 一階の出入り口に近い席で待っていると、扉が開いた。そこに待ち焦がれていたアデルジェスの姿を認め、ミゼアスは立ち上がって駆け寄る。

「お帰り、ジェス」

 声を弾ませ、ミゼアスはアデルジェスに飛びつく。

「ただいま。ああ……今触ったら、ミゼアスも汚れちゃうよ」

 ミゼアスを受け止めながら、困ったようにアデルジェスが答える。

「汚れたっていいよ。ジェス、どこも怪我していない? 大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。土砂崩れに巻き込まれた人も、軽い怪我だけだったし、みんな無事だったよ」

「よかった……」

「ところで……帰ってくる途中、怖い話を聞いたんだ。町中で見せしめのため、罪人の引き回しがあったって。そんなことするくらいだから、きっとすごいことをやったんだろうけど、もし事件にミゼアスが巻き込まれていたら……と嫌な予感がして心配だったんだ」

「へえ、そんなことがあったんだ。僕は大丈夫だよ。今日はね、ちょっとだけ料理を教わってきたんだ。それでね……」

 ミゼアスの知らない間に、物騒な事件があったらしい。巻き込まれなくて幸いだった。
 それよりも、早くアデルジェスに見せたいものがあるのだ。アデルジェスを連れて部屋に戻ると、ミゼアスは肉団子の包みをアデルジェスに差し出した。

「これ、僕が作ったの! ジェスに食べてもらおうと思って、持って帰ってきたんだ」

 声に誇らしさが滲む。とうとう、自分の料理をアデルジェスに食べてもらうことができるのだ。『およめさん』として大きな一歩を踏み出したと、ミゼアスは喜びを噛み締める。
 アデルジェスは驚いたようにミゼアスと肉団子を見比べていた。

「ミゼアスが? 食べていいの?」

「もちろん。そのために持ってきたんだもの」

 アデルジェスは肉団子をひとつつまみ、口の中に入れてゆっくりと味わう。

「……美味しい。美味しいよ、ミゼアス。冷めているのに柔らかくて、こんなに美味しい肉団子を食べたのは初めてだ。ミゼアスって、本当に何でもできるんだね」

 感嘆の声を漏らすアデルジェス。

「まだあるから、食べてね」

 ミゼアスの胸は達成感に満たされていく。フィオンに料理を教わって、正解だった。旅立つ前に何か礼をしておこうと、心に決める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...