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第二章 南へ
44.違和感
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「さっきミゼアスさんがホタテの干物を買ってくれたから、それで味付けしてスープにしよう。とても簡単、手軽で美味しいし!」
明るい声を張り上げ、フィオンは鍋に水を張ってホタテの干物を入れる。
「あとは野菜を切って、一緒に煮込むだけ。簡単でしょ?」
ミゼアスにお手本を見せるように、手際よく野菜を切っていくフィオン。
「なるほどね。これだったら、できそうだ」
「まずは簡単なもので慣れて、それからもっと凝った料理に挑戦していけばいいんじゃないかな。要はそれなりに美味く食べられりゃいいんだよ」
ミゼアスもナイフを受け取り、野菜を刻んでみる。
慣れないナイフと必死に格闘しているミゼアスの横で、フィオンは果物の皮を剥いていた。皮に細工を施して、器用に動物の形を作っていく。
「きみ……器用だね。料理人、向いているんじゃないかい?」
ミゼアスが思わず感嘆の声を漏らすと、フィオンはナイフを動かす手を止めてふと宙を見上げた。
「……さっきのユアン、俺と違って頭がいいんだよ。上位の学校に行かせてやりたいけど、そのためには金がいる。俺のようなガキでもそれなりに稼げるっていったら、あんな仕事くらいしかないんだ」
微笑んで呟くと、フィオンはまたナイフを動かし始める。その様子は、自らに言い聞かせているようでもあった。
ミゼアスは声をかけるのもためらわれ、沈黙する。
手早く果物を動物の形に作り終えると、フィオンは皿に上に乗せる。そのまま何か考え込むようだったが、ややあってゆっくりと口を開いた。
「……実はさ、つい最近なんだけど、不夜島に来ないかっていう話があったんだ。不夜島ってわかる? この国一番の高級娼館」
「え? あ、うん……いちおう、知っているよ……」
「ユアンと離ればなれになるのは嫌だって言ったら、一緒に来ればいいって。この国で最も教養が必要とされるのは不夜島の五花だって言われるくらいだし、教育もしっかりしているからユアンも勉強できるって。その分俺が稼ぐ必要はあるだろうけど、それは構わないし」
ミゼアスはフィオンの話に違和感を覚える。
不夜島では基本的に十歳以下の子供しか受け入れない。教育にある程度の年数が必要なためだ。
過去には没落貴族など、高い教養を備えた者が十歳以上でもやってきたことはあるらしいが、ミゼアスが島にいる間にそういった存在はいなかった。それだけ珍しい例だということだろう。
こうして話していると、フィオンはそれなりに頭の回転が早そうではある。しかし、あの島で求められるような類の教養を身につけているとは思えない。
さらに、島の学校は花になるための学校だ。こちらもミゼアスの知る限り、見習い以外の子は通っていなかった。
「ねえ、それって……」
「あ、野菜はいちおう、入れる順番があるから。葉っぱものは後ね。それと、旦那さんへのお土産にもなるよう、肉団子も作ろうか」
料理の先生に戻ったフィオンに、ミゼアスは開きかけた口を閉じる。
何となく言いそびれたまま、料理を再開したのだった。
明るい声を張り上げ、フィオンは鍋に水を張ってホタテの干物を入れる。
「あとは野菜を切って、一緒に煮込むだけ。簡単でしょ?」
ミゼアスにお手本を見せるように、手際よく野菜を切っていくフィオン。
「なるほどね。これだったら、できそうだ」
「まずは簡単なもので慣れて、それからもっと凝った料理に挑戦していけばいいんじゃないかな。要はそれなりに美味く食べられりゃいいんだよ」
ミゼアスもナイフを受け取り、野菜を刻んでみる。
慣れないナイフと必死に格闘しているミゼアスの横で、フィオンは果物の皮を剥いていた。皮に細工を施して、器用に動物の形を作っていく。
「きみ……器用だね。料理人、向いているんじゃないかい?」
ミゼアスが思わず感嘆の声を漏らすと、フィオンはナイフを動かす手を止めてふと宙を見上げた。
「……さっきのユアン、俺と違って頭がいいんだよ。上位の学校に行かせてやりたいけど、そのためには金がいる。俺のようなガキでもそれなりに稼げるっていったら、あんな仕事くらいしかないんだ」
微笑んで呟くと、フィオンはまたナイフを動かし始める。その様子は、自らに言い聞かせているようでもあった。
ミゼアスは声をかけるのもためらわれ、沈黙する。
手早く果物を動物の形に作り終えると、フィオンは皿に上に乗せる。そのまま何か考え込むようだったが、ややあってゆっくりと口を開いた。
「……実はさ、つい最近なんだけど、不夜島に来ないかっていう話があったんだ。不夜島ってわかる? この国一番の高級娼館」
「え? あ、うん……いちおう、知っているよ……」
「ユアンと離ればなれになるのは嫌だって言ったら、一緒に来ればいいって。この国で最も教養が必要とされるのは不夜島の五花だって言われるくらいだし、教育もしっかりしているからユアンも勉強できるって。その分俺が稼ぐ必要はあるだろうけど、それは構わないし」
ミゼアスはフィオンの話に違和感を覚える。
不夜島では基本的に十歳以下の子供しか受け入れない。教育にある程度の年数が必要なためだ。
過去には没落貴族など、高い教養を備えた者が十歳以上でもやってきたことはあるらしいが、ミゼアスが島にいる間にそういった存在はいなかった。それだけ珍しい例だということだろう。
こうして話していると、フィオンはそれなりに頭の回転が早そうではある。しかし、あの島で求められるような類の教養を身につけているとは思えない。
さらに、島の学校は花になるための学校だ。こちらもミゼアスの知る限り、見習い以外の子は通っていなかった。
「ねえ、それって……」
「あ、野菜はいちおう、入れる順番があるから。葉っぱものは後ね。それと、旦那さんへのお土産にもなるよう、肉団子も作ろうか」
料理の先生に戻ったフィオンに、ミゼアスは開きかけた口を閉じる。
何となく言いそびれたまま、料理を再開したのだった。
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