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第二章 南へ
41.男娼の少年
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ミゼアスは一人、商店の並ぶ通りをぶらぶらと歩いていた。
アデルジェスがいない間、一人で宿屋にとじこもっていても面白くない。気晴らしに商店でものぞいてみるかと、外出したのだ。
大雨が止んだ後だけあって、買い物客もかなり多いようだった。活気のあるざわめきが通りを埋め尽くしている。
「あれ? もしかして、親分?」
唐突に声をかけられ、ミゼアスは振り向く。
金茶色の髪と明るい茶色の瞳を持つ少年が、じっとミゼアスを見つめていた。どこかで見たような気がするとしばし考え、大雨の日にアデルジェスに手を出そうとしていた男娼であることに気づく。
今日は化粧をしていないせいか、ごく普通の十五歳程度の少年に見えた。
「……だから、僕は『親分』じゃないって言ったよね」
やや呆れの滲む声を出すと、少年は怯んだようだった。不安げに視線がさまよう。
「あ……ごめんなさい。えっと、じゃあ……奥様?」
「奥様……奥様か……」
ミゼアスはぶつぶつと呟きながら考え込む。
アデルジェスの奥様、悪くはない。『およめさん』から比べると、やや可愛さに欠けるきらいはあるが、その分安定感がうかがえるようだ。
「確か、あんたの恋人……旦那様だっけ? が『ミゼアス』って呼んでいたよね。それ、あんたの名前……だよね?」
おそるおそるといった様子で少年が尋ねてくる。
ミゼアスは一瞬、内心で舌打ちをする。この様子では、『不夜島のミゼアス』のことを知っているだろう。確かに男娼ならば知っていてもおかしくはない。
「そうだけれど、それが何か?」
あえて平然とミゼアスは問い返す。どことなく不思議そうな表情を作り、軽く首を傾げてみる。
「あ、いや、別に何でもないんだ。ちょっと知っている名前と同じだっただけで……。そうだよな、こんなところで奥様やっているわけないもんな……」
一人でぼそぼそと呟く少年を、ミゼアスは不思議そうな表情を作ったまま見つめる。
「えっと、その……俺、フィオンっていうんだ。食料品の買い出しに来たら、親分……じゃなくて、奥様……がいたから」
「名前でいいよ、ミゼアスで」
どうやら『奥様』といった言葉は使い慣れていないようだ。しどろもどろになるフィオンに助け舟を出す。
もうこうなったら、平然とミゼアスを名乗ったほうがかえって怪しまれないだろう。
「あ、うん……ミゼアスさんが一人でいるから、どうしたのかなと思って声をかけてみた」
フィオンは人懐こそうな笑みを浮かべる。どうやら、大雨の日、酔っ払いに絡まれているところを助けたミゼアスに好意を持っているようだ。
「ジェスなら、土砂崩れの撤去作業に行ったよ。僕はお留守番」
「ああ、なるほどね。旦那さん、体格良かったもんなぁ」
納得した様子で、フィオンはのんきな声を出す。
アデルジェスがいない間、一人で宿屋にとじこもっていても面白くない。気晴らしに商店でものぞいてみるかと、外出したのだ。
大雨が止んだ後だけあって、買い物客もかなり多いようだった。活気のあるざわめきが通りを埋め尽くしている。
「あれ? もしかして、親分?」
唐突に声をかけられ、ミゼアスは振り向く。
金茶色の髪と明るい茶色の瞳を持つ少年が、じっとミゼアスを見つめていた。どこかで見たような気がするとしばし考え、大雨の日にアデルジェスに手を出そうとしていた男娼であることに気づく。
今日は化粧をしていないせいか、ごく普通の十五歳程度の少年に見えた。
「……だから、僕は『親分』じゃないって言ったよね」
やや呆れの滲む声を出すと、少年は怯んだようだった。不安げに視線がさまよう。
「あ……ごめんなさい。えっと、じゃあ……奥様?」
「奥様……奥様か……」
ミゼアスはぶつぶつと呟きながら考え込む。
アデルジェスの奥様、悪くはない。『およめさん』から比べると、やや可愛さに欠けるきらいはあるが、その分安定感がうかがえるようだ。
「確か、あんたの恋人……旦那様だっけ? が『ミゼアス』って呼んでいたよね。それ、あんたの名前……だよね?」
おそるおそるといった様子で少年が尋ねてくる。
ミゼアスは一瞬、内心で舌打ちをする。この様子では、『不夜島のミゼアス』のことを知っているだろう。確かに男娼ならば知っていてもおかしくはない。
「そうだけれど、それが何か?」
あえて平然とミゼアスは問い返す。どことなく不思議そうな表情を作り、軽く首を傾げてみる。
「あ、いや、別に何でもないんだ。ちょっと知っている名前と同じだっただけで……。そうだよな、こんなところで奥様やっているわけないもんな……」
一人でぼそぼそと呟く少年を、ミゼアスは不思議そうな表情を作ったまま見つめる。
「えっと、その……俺、フィオンっていうんだ。食料品の買い出しに来たら、親分……じゃなくて、奥様……がいたから」
「名前でいいよ、ミゼアスで」
どうやら『奥様』といった言葉は使い慣れていないようだ。しどろもどろになるフィオンに助け舟を出す。
もうこうなったら、平然とミゼアスを名乗ったほうがかえって怪しまれないだろう。
「あ、うん……ミゼアスさんが一人でいるから、どうしたのかなと思って声をかけてみた」
フィオンは人懐こそうな笑みを浮かべる。どうやら、大雨の日、酔っ払いに絡まれているところを助けたミゼアスに好意を持っているようだ。
「ジェスなら、土砂崩れの撤去作業に行ったよ。僕はお留守番」
「ああ、なるほどね。旦那さん、体格良かったもんなぁ」
納得した様子で、フィオンはのんきな声を出す。
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