僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第二章 南へ

40.土砂崩れ

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 ようやく大雨も止み、太陽が姿を現した。眩しい朝にミゼアスは目を細める。

「やっと晴れたね」

 窓から空を眺めながらミゼアスは呟く。

「うん。三日近く降っていたのかな。足止めされて、退屈じゃなかった?」

 アデルジェスは窓辺に立つミゼアスの後ろから、そっと小さな身体を抱え込むように抱き締める。

「きみと一緒なら、退屈なんかしないよ。いっぱい運動もしたしね」

 自らの身体に回された逞しい腕を指でなぞりながら、ミゼアスは笑って答える。
 宿に足止めされている間、ミゼアスはアデルジェスと寝台で何度も抱き合って愛を交わした。疲れてくればゆるゆるとまどろみ、他愛もない話をしながら穏やかな時間を過ごす。
 退屈などとは縁のない、幸福な時間だった。

「そうだね。ミゼアスの可愛い姿もいっぱい見られたし、のんびりと休暇を過ごしているようだったなあ。……まあ、今はいつでも休暇中なんだけれど」

 どことなく乾いた笑みを漏らすアデルジェス。
 無職であることを気にしているのだろうか。アデルジェスは本当に真面目でお堅い、とミゼアスはくすりと笑いをこぼす。

「休暇中、結構じゃないか。ジェスは真面目すぎるよ。それより、お腹が空いたよ。食べに行こう」

 二人そろって一階で食事をしていると、町のはずれで土砂崩れが起こったという話が聞こえてきた。道が塞がれてしまったのだが、撤去作業に人手が足りないらしい。
 体力のある男性を募集しているとのことだった。

「ちょっと、ごめん」

 一言ミゼアスに断ると、アデルジェスは土砂崩れの話をしていた男に詳しいことを尋ねに行く。

「俺、行ってくるよ。道が塞がれたままじゃ困るだろうし……巻き込まれた人もいるから、急いだほうがいいみたい。悪いけれど、待っていてもらえるかな」

 ややあってミゼアスの元に戻ってくると、アデルジェスは真剣な様子で口を開いた。

「うん……わかった。気をつけてね」

 わずかに眉を寄せてミゼアスは答える。アデルジェスの身が心配でもあったし、一人になることへの不安はあったが、引きとめはしなかった。
 むしろ、とっさに手助けしようとするアデルジェスを誇らしく思う。

「大丈夫だよ。日が暮れる前には戻ってくるだろうから、待っていてね」

 アデルジェスは安心させるように微笑んで、ミゼアスの頬を撫でる。アデルジェスの手の温もりにいくらか心が安らぐ。
 立ち上がってアデルジェスの首を引き寄せ、頬に軽く口づけてもう一度『気をつけてね』と告げる。
 アデルジェスは嬉しそうな笑みを見せた後、ミゼアスの頬に口づけると『行ってきます』と宿を出て行った。
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