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第二章 南へ
37.食堂での異変
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「まさか、口づけしてくるとは思わなかったなぁ……」
アデルジェスの腕に包まれ、幸福にまどろみながらミゼアスはぼそりと呟く。
「え? あ、あぁ……そういえば……でも、あのときはそこまで考えなかったな」
ミゼアスの髪を撫でながら、アデルジェスが答える。
「自分の味、しなかった?」
「い、いや、自分の味なんて知らないし……知りたいとも思わないよ。ミゼアスのなら飲んでもいいけど、自分のは嫌だな」
「僕も自分のは飲みたくないなぁ……」
互いにくすくすと笑いながら、囁きを交わす。
寝台の上で安らかな気だるさに包まれながらの会話も、ミゼアスが好きなひとときだ。
「……他の部屋でも、こんなことをしていた人たちはいるんだろうね」
ふと壁を見ながらアデルジェスが呟きを漏らす。
「そうだね。ジェスは僕が相手でよかったの?」
「もう……俺にはミゼアスしかいないよ。俺はミゼアスとしか、こういうことをしたくないんだよ」
「ふふ……ごめん」
わずかに憮然としたアデルジェスに、ミゼアスは謝ってアデルジェスの胸に顔を埋める。
「僕もジェスとしか、したくない。こうして、ずっと抱き合っていられたらいいのにね……」
ミゼアスが顔をすりよせると、アデルジェスの腹が物悲しげに鳴いた。つい二人は顔を見合わせてしまう。
「……ごめん」
気恥ずかしそうにアデルジェスが謝る。ミゼアスは軽く噴き出してしまった。
「そうだね、抱き合っていても空腹からは逃れられないね。準備したら、食べに行こうか」
身支度を整え、二人は一階に下りていった。
酒場を兼ねた食堂は、昼間の暗く沈みこんだ様子が嘘のように、明るく活気に満ちていた。
嬉しそうに酒の杯を掲げる男たちの中に、鮮やかな花がいくつか咲いている。すっかり娼婦たちと意気投合して楽しんでいるようだ。
ミゼアスはアデルジェスと一緒に、端の席につく。他の男や娼婦たちの輪に加わる気はないが、明るく楽しい雰囲気なのはよいことだ。
ところが、この場の雰囲気を引き裂くような怒鳴り声が響いた。楽しげだった男や娼婦たちも言葉を失い、沈黙が広がる。
何事かと思えば、一人の男が男娼の少年に怒鳴っていた。何事かをわめきちらしながら、拳を振り上げている。
殴られそうになっているのは、先ほどアデルジェスと視線を合わせていた少年だった。
アデルジェスの腕に包まれ、幸福にまどろみながらミゼアスはぼそりと呟く。
「え? あ、あぁ……そういえば……でも、あのときはそこまで考えなかったな」
ミゼアスの髪を撫でながら、アデルジェスが答える。
「自分の味、しなかった?」
「い、いや、自分の味なんて知らないし……知りたいとも思わないよ。ミゼアスのなら飲んでもいいけど、自分のは嫌だな」
「僕も自分のは飲みたくないなぁ……」
互いにくすくすと笑いながら、囁きを交わす。
寝台の上で安らかな気だるさに包まれながらの会話も、ミゼアスが好きなひとときだ。
「……他の部屋でも、こんなことをしていた人たちはいるんだろうね」
ふと壁を見ながらアデルジェスが呟きを漏らす。
「そうだね。ジェスは僕が相手でよかったの?」
「もう……俺にはミゼアスしかいないよ。俺はミゼアスとしか、こういうことをしたくないんだよ」
「ふふ……ごめん」
わずかに憮然としたアデルジェスに、ミゼアスは謝ってアデルジェスの胸に顔を埋める。
「僕もジェスとしか、したくない。こうして、ずっと抱き合っていられたらいいのにね……」
ミゼアスが顔をすりよせると、アデルジェスの腹が物悲しげに鳴いた。つい二人は顔を見合わせてしまう。
「……ごめん」
気恥ずかしそうにアデルジェスが謝る。ミゼアスは軽く噴き出してしまった。
「そうだね、抱き合っていても空腹からは逃れられないね。準備したら、食べに行こうか」
身支度を整え、二人は一階に下りていった。
酒場を兼ねた食堂は、昼間の暗く沈みこんだ様子が嘘のように、明るく活気に満ちていた。
嬉しそうに酒の杯を掲げる男たちの中に、鮮やかな花がいくつか咲いている。すっかり娼婦たちと意気投合して楽しんでいるようだ。
ミゼアスはアデルジェスと一緒に、端の席につく。他の男や娼婦たちの輪に加わる気はないが、明るく楽しい雰囲気なのはよいことだ。
ところが、この場の雰囲気を引き裂くような怒鳴り声が響いた。楽しげだった男や娼婦たちも言葉を失い、沈黙が広がる。
何事かと思えば、一人の男が男娼の少年に怒鳴っていた。何事かをわめきちらしながら、拳を振り上げている。
殴られそうになっているのは、先ほどアデルジェスと視線を合わせていた少年だった。
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