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第二章 南へ
34.不甲斐ない
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ミゼアスはわきあがってくる怒りを押さえつけていた。
大切なアデルジェスに手を出されそうになってしまったのだ。心の奥に昏い炎がくすぶり、苦しさに胸が締め付けられる。
アデルジェスが悪いわけではない。誘いを断って逃げてきたのだというし、責めるべき点など何もない。
さらにいえば、手を出そうとした男娼だって腹立たしくはあるが、そうあくどいことをしようとしたわけではないだろう。
不夜島の上級白花でもあれば、そのような浅ましいことはしないが、そこいらの男娼ならば仕方がない。
悪いのは、ミゼアスだ。付け入る隙をアデルジェスに作ってしまったのが、そもそもの原因だろう。
何という不甲斐ない『およめさん』だろうか。己に対し、怒りと悔しさが満ちていく。
ミゼアスから離れないよう、離れられないように、アデルジェスをしっかりと繋ぎとめておくのだ。
まだゆっくりと風呂に浸かったわけではなかったが、急いで身体だけは洗っている。このまま行為を再開しても問題はない。
アデルジェスを誰にも渡すものかという衝動に突き動かされ、ミゼアスはアデルジェス自身を唇と舌で愛撫した。あっという間に元気になっていくそれを見て、心が満たされていく。
愛しいそれを口に含めば、ゆるやかな刺激だけでアデルジェスは達してしまった。口内に放たれたものをミゼアスは飲み下し、今度は自らの中に欲しいとねだる。
するとアデルジェスは待ちきれないといった様子でミゼアスを抱え上げ、寝台に優しく押し倒した。もう余裕などないことがわかるのに、それでもできるだけミゼアスを丁寧に扱おうとする心遣いに、ミゼアスの胸ははちきれそうな幸福に満たされる。
「ねえ、ジェス……たまには僕が上になって、いっぱい気持ちよくしてあげようか?」
身体に巻きつけていた布を剥がし、ミゼアスの肌を露にしていくアデルジェスに向かって、ミゼアスは甘ったるい声を出した。いつもミゼアスが気持ちよくしてもらってばかりだ。たまにはアデルジェスにも深い快楽を味わってもらいたい。
ところがアデルジェスの動きが一瞬、止まる。欲望をたたえていた瞳には、怯えの色が濃くなっていくようだった。
「い、いや……いつものままがいいな。俺がミゼアスを可愛がってあげたいんだ……」
声もやや引きつっているようだ。ミゼアスはわずかに首を傾げ、考え込む。
「あぁ……僕が突っ込むわけじゃないよ。僕が上に乗って、受け入れて動くってだけだよ」
ややあって、結論が出た。突っ込まれる側に回ると思ったのなら、怯えたとしても無理はないだろう。ミゼアスはそうではないのだと説明する。
「いや、それでも、俺がミゼアスを可愛がりたいから、いつものままでお願いします……」
奥ゆかしくアデルジェスは拒絶する。
「いいの? いつも僕ばかり気持ちよくしてもらっているから、たまには……」
「お願い、気を使わないで! 俺がミゼアスを可愛がりたいんだ。可愛がらせてください、お願いします」
ミゼアスの言葉を遮り、いっそ悲痛なくらいの叫びをあげるアデルジェス。
大切なアデルジェスに手を出されそうになってしまったのだ。心の奥に昏い炎がくすぶり、苦しさに胸が締め付けられる。
アデルジェスが悪いわけではない。誘いを断って逃げてきたのだというし、責めるべき点など何もない。
さらにいえば、手を出そうとした男娼だって腹立たしくはあるが、そうあくどいことをしようとしたわけではないだろう。
不夜島の上級白花でもあれば、そのような浅ましいことはしないが、そこいらの男娼ならば仕方がない。
悪いのは、ミゼアスだ。付け入る隙をアデルジェスに作ってしまったのが、そもそもの原因だろう。
何という不甲斐ない『およめさん』だろうか。己に対し、怒りと悔しさが満ちていく。
ミゼアスから離れないよう、離れられないように、アデルジェスをしっかりと繋ぎとめておくのだ。
まだゆっくりと風呂に浸かったわけではなかったが、急いで身体だけは洗っている。このまま行為を再開しても問題はない。
アデルジェスを誰にも渡すものかという衝動に突き動かされ、ミゼアスはアデルジェス自身を唇と舌で愛撫した。あっという間に元気になっていくそれを見て、心が満たされていく。
愛しいそれを口に含めば、ゆるやかな刺激だけでアデルジェスは達してしまった。口内に放たれたものをミゼアスは飲み下し、今度は自らの中に欲しいとねだる。
するとアデルジェスは待ちきれないといった様子でミゼアスを抱え上げ、寝台に優しく押し倒した。もう余裕などないことがわかるのに、それでもできるだけミゼアスを丁寧に扱おうとする心遣いに、ミゼアスの胸ははちきれそうな幸福に満たされる。
「ねえ、ジェス……たまには僕が上になって、いっぱい気持ちよくしてあげようか?」
身体に巻きつけていた布を剥がし、ミゼアスの肌を露にしていくアデルジェスに向かって、ミゼアスは甘ったるい声を出した。いつもミゼアスが気持ちよくしてもらってばかりだ。たまにはアデルジェスにも深い快楽を味わってもらいたい。
ところがアデルジェスの動きが一瞬、止まる。欲望をたたえていた瞳には、怯えの色が濃くなっていくようだった。
「い、いや……いつものままがいいな。俺がミゼアスを可愛がってあげたいんだ……」
声もやや引きつっているようだ。ミゼアスはわずかに首を傾げ、考え込む。
「あぁ……僕が突っ込むわけじゃないよ。僕が上に乗って、受け入れて動くってだけだよ」
ややあって、結論が出た。突っ込まれる側に回ると思ったのなら、怯えたとしても無理はないだろう。ミゼアスはそうではないのだと説明する。
「いや、それでも、俺がミゼアスを可愛がりたいから、いつものままでお願いします……」
奥ゆかしくアデルジェスは拒絶する。
「いいの? いつも僕ばかり気持ちよくしてもらっているから、たまには……」
「お願い、気を使わないで! 俺がミゼアスを可愛がりたいんだ。可愛がらせてください、お願いします」
ミゼアスの言葉を遮り、いっそ悲痛なくらいの叫びをあげるアデルジェス。
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