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第二章 南へ
31.不機嫌
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「ずいぶんと熱心に見ていたね。あっちと一緒に遊びたかったのかい?」
すっかり機嫌を損ねたらしいミゼアスの声に、アデルジェスは泣きたくなってくる。
せっかく部屋で二人きりになって、これからは楽しい時間が待っていたはずなのに、あんまりだ。
「違うよ……びっくりしただけだよ……宿にまで娼婦たちが押しかけてくるなんて、初めてだったから……。それに、ミゼアスと島で会ったときのことを思い出して……」
言い訳を口にのぼらせながら、アデルジェスはミゼアスの髪を撫でて機嫌を取ろうとする。ミゼアスはしばらくおとなしく撫でられていたが、ややあって何か思い立ったように離れて部屋を出て行った。
「あ……」
残されたアデルジェスは愕然とし、床を見つめて落ち込む。どうしたものかと重苦しい息を吐き出すと、すぐにミゼアスが戻ってきた。
「え? ミゼアス……? 何だったの?」
「浴室の準備」
状況を把握できずにアデルジェスが口を開くと、ミゼアスはあっさりと答えた。
「心置きなくいやらしいことができるよう、まずはお風呂に入ろうと思って。ジェスは僕のものなんだから、僕しか見えないようにしてあげないと」
薄く淫蕩な笑みを浮かべるミゼアスに、アデルジェスは心がすくみあがる。島で見たあでやかな毒花の姿だ。
「い、いや、俺はミゼアスしか見えていないよ。ミゼアスは綺麗で、可愛くて……俺だけの『およめさん』なんだもの」
恐怖に駆られながら、アデルジェスは必死に言葉を探す。
ミゼアスが本気でアデルジェスから搾り取ろうとすれば、間違いなく干からびてしまう。それだけはどうにか避けたかった。
「本当……?」
ミゼアスの表情が和らぐ。不安げに首を傾げた、あどけなさすら漂う姿に、何て可愛らしいのだろうとアデルジェスは胸を射抜かれる。
「当たり前じゃないか。俺が好きなのは、ミゼアスだけだよ」
衝動的にミゼアスを引き寄せて抱きしめると、ミゼアスは力を抜いてアデルジェスに身体を預けてきた。うっとりとした陶酔の眼差しが、愛おしい。
「僕も、ジェスだけが好き……」
甘い囁き声が、アデルジェスの耳を幸福で満たしていく。
すっかり可愛らしくなったミゼアスに、アデルジェスは身体に熱がこもるのを感じる。柔らかい黄金色の髪に口づけを落としながら、これで搾り取られる危険はなくなったようだと胸を撫で下ろしていた。
すっかり機嫌を損ねたらしいミゼアスの声に、アデルジェスは泣きたくなってくる。
せっかく部屋で二人きりになって、これからは楽しい時間が待っていたはずなのに、あんまりだ。
「違うよ……びっくりしただけだよ……宿にまで娼婦たちが押しかけてくるなんて、初めてだったから……。それに、ミゼアスと島で会ったときのことを思い出して……」
言い訳を口にのぼらせながら、アデルジェスはミゼアスの髪を撫でて機嫌を取ろうとする。ミゼアスはしばらくおとなしく撫でられていたが、ややあって何か思い立ったように離れて部屋を出て行った。
「あ……」
残されたアデルジェスは愕然とし、床を見つめて落ち込む。どうしたものかと重苦しい息を吐き出すと、すぐにミゼアスが戻ってきた。
「え? ミゼアス……? 何だったの?」
「浴室の準備」
状況を把握できずにアデルジェスが口を開くと、ミゼアスはあっさりと答えた。
「心置きなくいやらしいことができるよう、まずはお風呂に入ろうと思って。ジェスは僕のものなんだから、僕しか見えないようにしてあげないと」
薄く淫蕩な笑みを浮かべるミゼアスに、アデルジェスは心がすくみあがる。島で見たあでやかな毒花の姿だ。
「い、いや、俺はミゼアスしか見えていないよ。ミゼアスは綺麗で、可愛くて……俺だけの『およめさん』なんだもの」
恐怖に駆られながら、アデルジェスは必死に言葉を探す。
ミゼアスが本気でアデルジェスから搾り取ろうとすれば、間違いなく干からびてしまう。それだけはどうにか避けたかった。
「本当……?」
ミゼアスの表情が和らぐ。不安げに首を傾げた、あどけなさすら漂う姿に、何て可愛らしいのだろうとアデルジェスは胸を射抜かれる。
「当たり前じゃないか。俺が好きなのは、ミゼアスだけだよ」
衝動的にミゼアスを引き寄せて抱きしめると、ミゼアスは力を抜いてアデルジェスに身体を預けてきた。うっとりとした陶酔の眼差しが、愛おしい。
「僕も、ジェスだけが好き……」
甘い囁き声が、アデルジェスの耳を幸福で満たしていく。
すっかり可愛らしくなったミゼアスに、アデルジェスは身体に熱がこもるのを感じる。柔らかい黄金色の髪に口づけを落としながら、これで搾り取られる危険はなくなったようだと胸を撫で下ろしていた。
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