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第一章 旅立ち
10.豚
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「……少々、お待ち頂けますか?」
ミゼアスの腰を抱いて奥へ行こうとする男の手をそっと押し留め、ミゼアスは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「な……なにかね?」
男がやや怯んだ様子で戸惑いの声をあげる。
「どうせなら、ここでしませんか? 僕、見られているほうが燃えちゃうんですよね」
軽く顔を傾かせ、斜め上に流し目を送る。
「え……」
男は落ち着きをなくし、うろうろと視線をさまよわせる。ベティも驚いているようで、二人で視線を合わせてぽかんとした顔をしていた。
「何がお好みですか? 鞭? 縄? 蝋燭? どれでもいいや。お付き合いしますよ」
ミゼアスは口元に笑みを浮かべ、声には毒の滲んだ甘みを含ませる。かつての白花第一位としての姿だ。
「あ……いや……その……」
男は完全に呑まれた様子だった。おそらく、これほどあでやかな毒花など見たことはないだろう。
「ベティ、何か道具があるんでしょう? 持ってきて」
「え……あ……はい……」
呼び捨てにされ、かつ命令されているというのにベティは従順に従った。
ミゼアスは命令することに慣れている。今の姿は、不夜島の白花第一位として長年君臨してきた姿そのものだ。おそらく、逆らうことなど考えられもしなかったのだろう。
ややあって、鞭や縄などの道具が持ってこられる。
その頃には何か異変が起こっているらしいと、他の客たちも見物に集まってきていた。
「ふふ……久しぶり……ぞくぞくしちゃうね。じゃあ、始めようか」
ミゼアスが淫蕩な笑みを浮かべると、男は怯みながらも目が離せない様子だった。
「あ……ああ……」
男はようやくそれだけを言って頷く。
口元に薄く笑みを浮かべたまま、ミゼアスはつかつかと男に歩み寄り、素早く足払いをかけた。まったく予想もしていなかったらしい男は派手に転び、床にうつ伏せとなって倒れる。
その頭をミゼアスは踏みつけた。
「頭が高い」
一言、冷たい声で言い放つ。
周囲の客たちがあっけにとられて成り行きを眺めていた。ぽかんと口を開けている者もいる。
「僕が始めようって言って、頷いたよね。じゃあ、まずはひれ伏して『よろしくお願いいたします、ご主人様』って言うのが筋じゃないのかな?」
言いながら、ぐりぐりと頭を踏みつける。
「ほら、ご挨拶は? まったく、躾のなっていない奴隷だね。挨拶もできないなんて、奴隷にもなれないよ。豚だね、豚。ほら、鳴いてみなよ」
ミゼアスの腰を抱いて奥へ行こうとする男の手をそっと押し留め、ミゼアスは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「な……なにかね?」
男がやや怯んだ様子で戸惑いの声をあげる。
「どうせなら、ここでしませんか? 僕、見られているほうが燃えちゃうんですよね」
軽く顔を傾かせ、斜め上に流し目を送る。
「え……」
男は落ち着きをなくし、うろうろと視線をさまよわせる。ベティも驚いているようで、二人で視線を合わせてぽかんとした顔をしていた。
「何がお好みですか? 鞭? 縄? 蝋燭? どれでもいいや。お付き合いしますよ」
ミゼアスは口元に笑みを浮かべ、声には毒の滲んだ甘みを含ませる。かつての白花第一位としての姿だ。
「あ……いや……その……」
男は完全に呑まれた様子だった。おそらく、これほどあでやかな毒花など見たことはないだろう。
「ベティ、何か道具があるんでしょう? 持ってきて」
「え……あ……はい……」
呼び捨てにされ、かつ命令されているというのにベティは従順に従った。
ミゼアスは命令することに慣れている。今の姿は、不夜島の白花第一位として長年君臨してきた姿そのものだ。おそらく、逆らうことなど考えられもしなかったのだろう。
ややあって、鞭や縄などの道具が持ってこられる。
その頃には何か異変が起こっているらしいと、他の客たちも見物に集まってきていた。
「ふふ……久しぶり……ぞくぞくしちゃうね。じゃあ、始めようか」
ミゼアスが淫蕩な笑みを浮かべると、男は怯みながらも目が離せない様子だった。
「あ……ああ……」
男はようやくそれだけを言って頷く。
口元に薄く笑みを浮かべたまま、ミゼアスはつかつかと男に歩み寄り、素早く足払いをかけた。まったく予想もしていなかったらしい男は派手に転び、床にうつ伏せとなって倒れる。
その頭をミゼアスは踏みつけた。
「頭が高い」
一言、冷たい声で言い放つ。
周囲の客たちがあっけにとられて成り行きを眺めていた。ぽかんと口を開けている者もいる。
「僕が始めようって言って、頷いたよね。じゃあ、まずはひれ伏して『よろしくお願いいたします、ご主人様』って言うのが筋じゃないのかな?」
言いながら、ぐりぐりと頭を踏みつける。
「ほら、ご挨拶は? まったく、躾のなっていない奴隷だね。挨拶もできないなんて、奴隷にもなれないよ。豚だね、豚。ほら、鳴いてみなよ」
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