ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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おまけ

ヴァレンの冒険3

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「トゥルーテスって……守り神の?」

 トゥルーテスは不夜島を嵐や外敵から守る、守り神の海亀とされている。
 島のいたるところには像があり、トゥルーテス像の甲羅に触って願い事をすると叶うという説もある。
 他にも、島からの脱走者を食い殺すという話もあった。慕われつつ、一種の恐れを抱かれている守り神だ。

「そう言われておるな」

 あっさりと亀は認めた。
 おとぎ話でも何でもなく、実際に存在するという話は聞いていたが、本当なのだろうかと今まではどこかで信じきれていなかった。しかし、こうして間近に喋る亀である本物を見れば、疑いようがない。

「うわー! 凄い! 守り神だ! かっこいい! ねえねえ、甲羅に触っていいですか!?」

 興奮してヴァレンは亀に駆け寄ろうとする。
 しかし、身体全体に何かがもったりと絡みついて、思うようには進めない。
 息ができるので意識しないが、やはりここは水の中なのだと気付かされる。

「……まあ、好きにするがよい」

 やや呆れた様子ではあったが、まんざらでもないようだ。
 ヴァレンは泳ぎながら甲羅へと向かう。まるで空中を飛んでいるようで、現実離れした浮遊感に心も高揚する。
 やがて甲羅の前にたどりつく。ヴァレンは甲羅をじっと見つめながら、胸の前でそっと手を組んだ。

「……みんなが、楽しく、幸せに過ごせますように」

 祈るように囁きながら、ヴァレンは甲羅に触れる。硬い甲羅からは、優しい温もりが伝わってくるようだった。

「それは何だ?」

 不思議そうに問いかけてくる声に、ヴァレンは手を離して首を傾げる。

「だって、トゥルーテス像の甲羅に触って願い事をすると叶うっていう言い伝えがあるから、本物ならきっと、もっと凄いと思って」

 ヴァレンが答えると、笑い声が響いた。ヴァレンはますます首を傾げる。

「わしが言うのも何だが、迷信だよ」

「ええー……そんなぁ……」

 がっくりとヴァレンはうなだれる。

「しかし、おまえの可愛らしい願いに免じて、その願いが叶うようにわしも祈ってやろう」

「え! 本当? やったぁ!」

 ヴァレンは手を叩きながら、その場でぐるりと一回転した。
 ゆっくりとした動作になってしまうが、地上よりも様々な動きができる。ヴァレンは前と後ろに回転してみたり、横ひねりを加えてみたりと、普段はできないような動きを楽しむ。

「これ、少し落ち着きなさい」

「えー、だってこれ面白いのにー。俺、後方転回はできるようになったけれど、連続してはまだ無理だし、宙返りもかなり気合入れないと成功しないから、こんなに動けないんだもの」

「……おまえ、『葉』ではなかったのか? それとも、軽業師でも目指しておるのか?」

 呆れた声で、今まで幾度となく聞いた言葉が繰り返される。守り神とはいっても、思考は人間と似ているようだ。
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