ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
49 / 54
おまけ

ヴァレンの冒険2

しおりを挟む
「ん……」

 ゆっくりとヴァレンは目を開ける。飛び込んできたのは、一面の青い世界だ。
 自分は何をしているのだろうと考え、ヴァレンは先ほどの出来事を思い出す。
 岩によじ登ったら、その岩が海に向かっていって、さらには海中に潜ってしまったのだ。

 もしかして、自分は死んだのだろうか。
 こんなわけのわからない死に方をしてしまっては、きっと遺体も見つからず、ミゼアスに心配をかけてしまうだろうな、とぼんやり浮かんでくる。

「これ、子供。おまえはあの島の『葉』か?」

 しわがれた声が響く。
 何事かとヴァレンが視線を向けると、ヴァレンの身体よりもはるかに巨大な亀が青い世界に漂っていた。

「……亀?」

 思わず呟き、ヴァレンはぽかんと口を開ける。
 死後の世界には亀が待っているのだろうか。いや、それともここはどこか別の世界なのだろうか。

「驚くのも無理はない。が、まずはわしの質問に答えよ」

 威厳のある声で亀が再び尋ねてくる。
 ヴァレンは今の状況がさっぱり理解できないが、まずは目の前の問題に向かい合う。

「えっと、そうです。俺は『葉』です。ヴァレン、十歳です」

 『葉』というのは、あの島における見習いを指す。
 普段はあまり使用しない言葉だが、実は正式な呼び方はこちらなのだ。

「そうか。おまえは島から逃げ出したいのか?」

「え? いいえ、夕食までには戻らないと」

 首を横に振りながらヴァレンは答える。夕食のことを思えば、空腹を覚えてきた。そっと腹に手を当てて、自らをごまかすように撫でる。

「ならば、何故ここにいる?」

「何故って言われても……砂浜にあった岩に登ったら、その岩が動き出して海に突っ込んでいって、気がついたら……」

「あぁ……わしの甲羅にくっついてきたか……。しかし、何故登った?」

「そこに岩があったから、としか……」

 目の前に岩があれば、普通は登ってみたくなるものだろう。ヴァレンにとっては、本能である。

「……まあ、嘘は言っておらんようだな。戻しに行ってやるとするか」

 亀はどことなく、疲れたような様子だった。大きな息を吐いたようで、世界が揺れたように見えた。
 ヴァレンは亀をぐるりと見回す。甲羅には六角形の模様が見える。先ほどの岩と同じだ。あれは岩ではなく、亀の甲羅だったのか。
 もしかしてここは、海の中なのだろうか。辺りを見回せば、小さな魚が泳ぐ姿や、ゆらゆらと漂う海草が見える。

「ここはどこですか?」

「海の中だ」

 尋ねてみれば、すぐに答えが返ってきた。あまりにも予想どおりだったが、それはそれで別の疑問がある。

「どうして息ができるんですか?」

「そういうものだからだ」

「はあ……」

 よくわからないが、そういうものだというのだ。そういうものなのだろう。ヴァレンは深く考えることはやめた。
 考えても仕方のないことは、考えるだけ時間と労力の無駄だ。

「あの……あなたは、どういった方ですか?」

 喋る亀など、見たことがない。きっとここは別世界か夢の中か、とにかく日常とはかけ離れた空間だろう。ヴァレンはいちおう、尋ねてみる。
 すると亀は、ゆったりとした動作で首を振った。

「わしは、トゥルーテスと呼ばれておる。この辺りの海を守護しておる者だよ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...