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41.命令
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ヴァレンの寝室に、夕月花の生態について書かれた文章が置かれていたのだ。
生贄を捧げ、血族が世話をすればよいというのは必ずしも正しくはない、と書かれていた。その方法でも育つが、最も良い育て方は違うとあったのだ。
本来必要なものは穏やかな愛情で、良くいえばおおらか、悪くいえば大雑把でいいかげんな者でなければ育てられないのだという。
生贄を捧げる方法では、数年から十年程度で生贄が必要らしい。ローダンデリアで十数年に渡って咲き続けていたのは、おそらく領主が本来の育て方をしていたためだろう。
誰がこの文章を置いていったのかは、わからない。ヴァレンには何となく見当がついたが、今はそれを確かめる術はなさそうだ。
ただ、文章の内容はおそらく真実だろう。他の土地では育たなかったこと、ローダンデリア産のものが外国よりも品質が良かったことなど、今までの話と照らし合わせても、間違っていないように思えた。
「……私がやろうとしていたことは……本当に……本当に、とんでもない間違いだったということですか……」
エイブが苦しげな声を絞り出す。
「うん、でも生贄を捧げるやり方も間違ってはいないようだし、仕方がないよ。あなたは、実際に生贄を捧げたわけじゃない。まだ、取り返しがつく」
悔悟の念に引きこもってしまいそうなエイブを、ヴァレンは呼び止める。
「あなたが大切にしている夕月花は、これからも咲かせ続けることができる。現領主だって、本当に必要なものを知れば育てられるかもしれない。もしだめだったら、そのときは俺がこっそり行って世話をしてもいい。俺のようないいかげんな奴なら、きっと大丈夫だろう」
ヴァレンは安心させるように微笑みかける。
「だから、あなたは誘拐についてや、もし他にも何かあるんだったら、きっちり片をつけて。もし俺に裁きを求めるんだったら、自責の念はとりあえず引っ込めて、やるべきことをさっさとやるように命じる」
エイブは信じられないような顔でヴァレンを眺めていたが、不意にがばっと跪いてヴァレンの靴に口づけた。
「はい……! カリナヴァレン様のご命令のままに……!」
思えば、エイブに名前を呼ばれるのは初めてだ。本名を知っていたんだなあ、などといったのんきな感想がヴァレンの中に浮かび上がってくる。
エイブは感極まったように震えながら、ヴァレンの足下に額ずいたままだ。
卑しい奴隷であるかのように、靴に口づけ続けている。
その姿を見て、ヴァレンの頭に今度は別の心配事がわきあがってきた。
「……砂、口に入らない? 大丈夫?」
生贄を捧げ、血族が世話をすればよいというのは必ずしも正しくはない、と書かれていた。その方法でも育つが、最も良い育て方は違うとあったのだ。
本来必要なものは穏やかな愛情で、良くいえばおおらか、悪くいえば大雑把でいいかげんな者でなければ育てられないのだという。
生贄を捧げる方法では、数年から十年程度で生贄が必要らしい。ローダンデリアで十数年に渡って咲き続けていたのは、おそらく領主が本来の育て方をしていたためだろう。
誰がこの文章を置いていったのかは、わからない。ヴァレンには何となく見当がついたが、今はそれを確かめる術はなさそうだ。
ただ、文章の内容はおそらく真実だろう。他の土地では育たなかったこと、ローダンデリア産のものが外国よりも品質が良かったことなど、今までの話と照らし合わせても、間違っていないように思えた。
「……私がやろうとしていたことは……本当に……本当に、とんでもない間違いだったということですか……」
エイブが苦しげな声を絞り出す。
「うん、でも生贄を捧げるやり方も間違ってはいないようだし、仕方がないよ。あなたは、実際に生贄を捧げたわけじゃない。まだ、取り返しがつく」
悔悟の念に引きこもってしまいそうなエイブを、ヴァレンは呼び止める。
「あなたが大切にしている夕月花は、これからも咲かせ続けることができる。現領主だって、本当に必要なものを知れば育てられるかもしれない。もしだめだったら、そのときは俺がこっそり行って世話をしてもいい。俺のようないいかげんな奴なら、きっと大丈夫だろう」
ヴァレンは安心させるように微笑みかける。
「だから、あなたは誘拐についてや、もし他にも何かあるんだったら、きっちり片をつけて。もし俺に裁きを求めるんだったら、自責の念はとりあえず引っ込めて、やるべきことをさっさとやるように命じる」
エイブは信じられないような顔でヴァレンを眺めていたが、不意にがばっと跪いてヴァレンの靴に口づけた。
「はい……! カリナヴァレン様のご命令のままに……!」
思えば、エイブに名前を呼ばれるのは初めてだ。本名を知っていたんだなあ、などといったのんきな感想がヴァレンの中に浮かび上がってくる。
エイブは感極まったように震えながら、ヴァレンの足下に額ずいたままだ。
卑しい奴隷であるかのように、靴に口づけ続けている。
その姿を見て、ヴァレンの頭に今度は別の心配事がわきあがってきた。
「……砂、口に入らない? 大丈夫?」
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