ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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35.点と線

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「エアイール、あの商人を島から出さないようにしてくれ。あいつが出す手紙の類も、外に出ないよう止めて。いちおう足止めはしたけれど、確実にしておきたい」

「わかりました。何か、証拠をつかんだのですか?」

 ヴァレンがカツラ着用のまま駆け込んできたことにも慌てず、エアイールは冷静に対応する。
 頭の上のタコに一瞬、怪訝な眼差しを向けたようだったが、見なかったことにしたのか、それどころではないと判断したのか、とにかくエアイールは何も指摘してこなかった。

「いや、証拠はまだない。ただ、ほぼ間違いないと思う。もし、あいつに関する情報があったら欲しい」

「見張りの手配が終わったら、お出しします。あなたのところに運ばせましょうか?」

「頼む」

 余計なことは聞き返さないエアイールの賢さがありがたい。
 普段は頭がゆるいとか何だかんだと憎まれ口を叩いてくるエアイールだが、ヴァレンのことを信用してくれているのだろう。

 急いでヴァレンは自分の部屋に戻り、手紙を書く。宛先は賭博と酒の弟子だ。
 書いている途中、エアイールからの使いがやってきた。エイブに関する情報を持ってきたのだ。
 ヴァレンはざっと目を通す。名前、住所といった基本的なことと、現領主と折り合いが悪いといったような現状が書かれていた。大体はエアイールから聞いたようなもので、目新しいものはなかった。
 読み終えると、ヴァレンは必要と思われる部分を写して、一緒に封筒へとしまいこむ。

「頼むよ」

 白い鳩の足に書簡をくくりつけると、鳩はくるっくーと鳴いて飛び立っていった。
 これで急を要することには手を打った。ひとまず力を抜いて、息を吐き出す。
 すると窓から鳩が舞い戻ってきた。何があったのだろうと驚いて駆け寄ると、先ほどの鳩ではないようだ。舞い戻ってきたのではなく、新たにやってきたのだろう。
 手紙を受け取り、差出人の名を見ると胸に泣きたくなるような懐かしさが浮かぶ。
 ミゼアスからの手紙だった。

 緊張に強張った身体がほどけていくようだった。口元が緩むのを感じながら、ヴァレンは封を切る。
 ふわり、と漂った香りはミゼアスが好んでいた花の香りだ。
 ヴァレンが見習いだった頃から慣れ親しんだ、ミゼアスの香り。懐かしさに胸がつまった。

 しかし、内容はそのような懐古の念を打ち消すようなものだった。今、とても知りたい情報のいくつかが、詳細に書かれている。
 読み進めていくうちに、ヴァレンは自らの思い描いた憶測が、くっきりとした線となって点を繋ぎ合わせていくのを感じる。
 いつしか、ヴァレンの口元は引き締まっていた。
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