ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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32.提案

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 ヴァレンは黒髪のカツラを着用し、島の宿に滞在しているエイブの元へと向かった。もちろん、守り神のタコは頭の上に鎮座している。
 途中の道で奇異の視線を向けられたような気がするが、気にしたら負けだ。ヴァレンは堂々と、平然とした足取りで宿を訪れる。

 エイブは一瞬、頭の上に視線を向けたようだったが、何も言わずにヴァレンを迎え入れた。
 椅子をすすめられ、ヴァレンは素直に座ると口を開く。

「領主になる気はない。お家騒動も起こしたくない。一時的にローダンデリアを訪れて、夕月花の世話をするだけというのでもいい?」

「は……はい……! それでも構いません。わずかな間だけでもいらしてくださるのなら、それでどうにか……それで、いついらしてくださるのでしょうか?」

 はじけるような喜色を顔に浮かべ、エイブは拝むようにヴァレンを伺う。

「これからここの領主様にお伺いする必要があるし、まだはっきりしない。どれくらいの期間いればいいの?」

「長ければ長いほどいいのですが……最低でも一週間はお願いしたいです」

「一週間か……まあ、そう長くはないかな。それと、その世話って年に何回くらい必要?」

「できれば年にニ、三回は……。以前、領主様が長期不在の折には年に一度ということがありましたが、その年はやや生育が悪かったのです」

「年にニ、三回……それもまあ、そう多くはないか」

 期間と回数は、休暇と思えばどうにかなりそうな範囲のようだ。

「ありがとうございます。これでローダンデリアは救われます」

「……でも、さ……もし、俺が世話しても育たなかったとしたら?」

「それはありえません」

 きっぱりとエイブは言い切る。

「あなたは間違いなく、カレンマリス様のご子息です。つまり、ローダンデリアの血を正しく引いている。そのあなたが世話をして、育たないはずがありません」

「はあ……」

 かけらも疑いを抱いていないエイブに、ヴァレンはどうもすっきりとしない不安が心の奥底で渦巻く。

「そうと決まれば、私は早速戻って準備をいたします。女の手配も必要ですし」

「女?」

「そういえば、あなたは白花でしたか。もしかして、女は無理ですか?」

「いや、むしろ女のほうがいいけど……何で?」

 接待用に夜の相手を準備するということだろうか。ヴァレンは首を傾げる。

「お子を作っていただかないと」

「はい?」

「若様がローダンデリアの血を引いていないとなると、今や正しく血を引いているのはあなただけです。血を残していただかないとなりません」

「いや、俺……まだそういったことは……」

 あっけにとられながらヴァレンはぼそぼそと呟く。女性との性経験はあったが、子供など考えたこともなかった。
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