ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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31.必ず

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「……本当はね、あなたにみっともなくすがり付いて、行かないでくださいとお願いしようかと思っていたのですよ。あなたはローダンデリアから恩恵を受けたどころか、見捨てられたようなものではありませんか、とね」

「見捨てられた、か。うーん……まあ、な……」

 確かにヴァレンが島に売られるとき、ローダンデリアは何もしてくれなかった。
 しかしエイブの話によれば、ヴァレンは亡くなったものとされていたようだ。生きていることがわかっていれば、と悔いている様子もあった。

 エイブの話が本当だとすれば、亡くなったものとしていたのは、ヴァレンの父だろう。
 何故、亡くなったことにしていたのかはわからない。金策のため、ローダンデリアに知られることなくヴァレンを売りたかったのか。世間体のためだったのか。

 ヴァレンは父に可愛がられた記憶がない。食事や衣類など、生きていく上で不自由したことはなかったが、頭を撫でられた記憶すらないのだ。
 島に売られてから、父がどうなったのかは知らない。その後の話を聞いたこともなければ、調べようと思ったこともなかった。
 ヴァレンの中では、すでに過去のことなのだ。

 もっとも、そんな話をエアイールが知っているはずもない。
 売られるときに見過ごしたような相手など、こちらも放っておけと言いたいのだろう。
 ヴァレンが島を去る気だと答えていれば、こういった話で延々と説得されたのかもしれない。

「それに、貴族の陰惨な争いに巻き込まれるわけでしょう。あなたにそのような暗い世界は似合いません」

「まあなー。俺は領主なんて柄じゃないしさ。日々、面白おかしく生きていられればいいんだよ」

 すっかり安堵の滲んだエアイールの声を聞きながら、ヴァレンは笑いそうになってしまうのをこらえて答える。

「だからといって、白花として向いているとも思えませんが」

「それ、昔っからみんなに言われている」

 エアイールは軽口を叩く余裕も出てきたようだ。ヴァレンも軽く返す。
 ゆっくりと息を吐き出すと、エアイールはヴァレンの手を取って自らの頬に重ねる。温もりをより深く味わうかのように、エアイールの目が閉じられた。
 ややあって、エアイールが静かに口を開く。

「……出て行ったとしても、必ず戻ってきてくださいね」

「ああ、戻ってくるよ」
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