ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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29.俯く見習いたち

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 エイブは帰っていった。
 時間が経つほど、夕月花の状態は悪くなっていく。なるべく早くローダンデリアに来てほしい、と願って。
 もし現領主との間にお家騒動が起こったとしても、領民は夕月花を咲かせることのできる者を支持するだろうという。
 領民の多くがまだ貧しい時代を覚えている。二度と戻りたくはないはずだ、と。

 エイブの言っていることに偽りの色はなかった。
 隠していたことはあるかもしれないが、口にした言葉に嘘は混じっていなかったように思える。
 ヴァレンはゆっくりと息を吐いた。

「ヴァレン兄さん……」

 見習いの一人、コリンがそっとヴァレンに擦り寄ってきた。特に何を言うでもなく、ヴァレンの服の裾をきゅっと握って不安そうに見上げてくる。
 ミゼアスから預かった三人の見習いたちとは、彼らがまだミゼアス付きだった頃から付き合いがあった。
 三人の中では末っ子のような存在であるコリンが、甘えたがりだということも知っている。
 ヴァレンは微笑んでコリンの頭を撫でた。

「どうしたんだい、コリン君。そんなに不安そうな顔をして」

「ヴァレン兄さんも……きっと、行っちゃうんですね……」

 コリンは俯き、ぼそっと呟く。
 アルンとブラムも同様にやや俯きがちで、表情が暗い。
 もともとヴァレン付きだったティムのほうが翳りも見えず、ただきょとんとしているだけなのが、少しおかしかった。

 まだミゼアスが島を出てから一ヶ月と少し。三人も納得ずくで、駄々などこねずに快くミゼアスを見送った。
 それでもやはり寂しく、つらかったことだろう。その傷も癒えぬうちに、また新しい上役を奪われようとしているのだ。

 ヴァレンは見習い時代にミゼアス付きだったこともあり、三人にとっても他の白花より近しい存在だった。
 彼らが実際にヴァレン付きとなってからは短いが、付き合いはそれなりに長い。ミゼアスには及ばないが、それなりに信頼を得ていれば、親しみもある。
 しかもこの館内で、新たに複数の見習いを受け入れることができるような白花は他にいない。ヴァレンが去ってしまえば、ばらばらになってしまうだろう。

「大丈夫だよ、きみたちを悲しませるようなことはしない。今日はもうこれで終わりだ。ゆっくり休みなさい」

 ヴァレンは小さなコリンの身体を抱きしめ、背中を撫でてやる。
 かつてヴァレンも、上役だったミゼアスによく抱きしめてもらったものだ。あの頃、ミゼアスに与えてもらったような安心を、少しは分けてやることができているだろうか。
 胸に顔を埋めるコリンが、こらえるようにぎゅっとヴァレンの服をつかんだ。
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