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23.探し物
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ヴァレンは島の取引記録を調べてみた。夕月花についてである。
昔から細々と仕入れてはいたらしいが、外国からわずかにもたらされるのみで、値段も相当高かったようだ。
現在のような取引開始は十年前からだった。
国内での生産が可能になったため、値段もぐっと抑えられていた。外国産のものとは品種が違うようだが、効能はむしろ国内産のもののほうが上らしい。
それから現在に至るまで、取引先はローダンデリアのみだ。
夕月花がローダンデリアの特産品だということは知識として知っていた。自分の母と関係があるとは知らなかったが。
しかしまだヴァレンが売られる前、実家にて父の口からローダンデリアの名が出たことは何度かあった。
その名前が出ると、ヴァレンは使用人の手によって必ず父から引き離され、別の場所に追いやられたのだ。
当時は商売の話だから子供は消えろということだろうと思っていたが、記憶を引き出してみれば父の顔は悲痛に歪んでいた。
もしかしたら、母を思い出していたのかもしれない。
ローダンデリア家の者が世話をしなくては育たないというのが事実かどうかまではわからなかった。
ただ、夕月花が国内ではローダンデリア以外で育たないというのは本当らしい。
かなり昔にもローダンデリアで夕月花は育っていたが、いっとき絶えてしまったそうだ。最近になって再び蘇ったのだが、それまで国内の別の場所では育った記録が存在しない。
エイブの言うとおり、血筋によるものが原因なのか、それとも気候や風土が原因なのかは、ここの資料だけでは不明だ。
ここ十年分の資料を全て読み終え、ヴァレンは深く息をついた。
「……終わりましたか?」
穏やかに投げかけられた声に、ヴァレンは振り向く。
「うん、とりあえずここは終わり。ところで、どうしてここに?」
古い紙のすえた匂いがこもる薄暗い部屋の入り口で、穏やかにたたずむエアイールの姿を見てヴァレンは首を傾げる。
同時に、明るくにぎやかな場所よりも、こういった暗く古めかしさすら漂う場所のほうが似合っていると、妙な納得も覚えていた。
「あなたを探していたのですよ。資料庫にいるとのことだったので、やってきました。それにしても、相変わらず本当に読んでいるのか疑わしい速度ですね。紙をただめくっているようにしか見えません」
「ああ、ちょっとした隠し芸のひとつ」
ヴァレンは見たもの、聞いたことを全て覚える。本を読むときは、その頁全体が目に入りさえすればよいのだ。
目で頁を見て記憶しつつ、同時に頭の別な部分で記憶した頁から文字を引き出して読んでいく。ヴァレンにとっては造作もないことなのだが、よく頭がおかしいと言われる。
「それで、お目当てのものは見つかりましたか?」
「いや……ある程度はわかったけれど、やっぱり詳しいことまでは不明」
「そうですか。あなたが探しているのは夕月花に関することですか?」
「よくわかったな。そのとおり」
ヴァレンが認めると、エアイールは目を細めて口元に笑みを浮かべる。
「あなたを身請けしたいと言っている商人について、ちょっと調べてみたことがありましてね。お時間、ありますか?」
「もちろん」
昔から細々と仕入れてはいたらしいが、外国からわずかにもたらされるのみで、値段も相当高かったようだ。
現在のような取引開始は十年前からだった。
国内での生産が可能になったため、値段もぐっと抑えられていた。外国産のものとは品種が違うようだが、効能はむしろ国内産のもののほうが上らしい。
それから現在に至るまで、取引先はローダンデリアのみだ。
夕月花がローダンデリアの特産品だということは知識として知っていた。自分の母と関係があるとは知らなかったが。
しかしまだヴァレンが売られる前、実家にて父の口からローダンデリアの名が出たことは何度かあった。
その名前が出ると、ヴァレンは使用人の手によって必ず父から引き離され、別の場所に追いやられたのだ。
当時は商売の話だから子供は消えろということだろうと思っていたが、記憶を引き出してみれば父の顔は悲痛に歪んでいた。
もしかしたら、母を思い出していたのかもしれない。
ローダンデリア家の者が世話をしなくては育たないというのが事実かどうかまではわからなかった。
ただ、夕月花が国内ではローダンデリア以外で育たないというのは本当らしい。
かなり昔にもローダンデリアで夕月花は育っていたが、いっとき絶えてしまったそうだ。最近になって再び蘇ったのだが、それまで国内の別の場所では育った記録が存在しない。
エイブの言うとおり、血筋によるものが原因なのか、それとも気候や風土が原因なのかは、ここの資料だけでは不明だ。
ここ十年分の資料を全て読み終え、ヴァレンは深く息をついた。
「……終わりましたか?」
穏やかに投げかけられた声に、ヴァレンは振り向く。
「うん、とりあえずここは終わり。ところで、どうしてここに?」
古い紙のすえた匂いがこもる薄暗い部屋の入り口で、穏やかにたたずむエアイールの姿を見てヴァレンは首を傾げる。
同時に、明るくにぎやかな場所よりも、こういった暗く古めかしさすら漂う場所のほうが似合っていると、妙な納得も覚えていた。
「あなたを探していたのですよ。資料庫にいるとのことだったので、やってきました。それにしても、相変わらず本当に読んでいるのか疑わしい速度ですね。紙をただめくっているようにしか見えません」
「ああ、ちょっとした隠し芸のひとつ」
ヴァレンは見たもの、聞いたことを全て覚える。本を読むときは、その頁全体が目に入りさえすればよいのだ。
目で頁を見て記憶しつつ、同時に頭の別な部分で記憶した頁から文字を引き出して読んでいく。ヴァレンにとっては造作もないことなのだが、よく頭がおかしいと言われる。
「それで、お目当てのものは見つかりましたか?」
「いや……ある程度はわかったけれど、やっぱり詳しいことまでは不明」
「そうですか。あなたが探しているのは夕月花に関することですか?」
「よくわかったな。そのとおり」
ヴァレンが認めると、エアイールは目を細めて口元に笑みを浮かべる。
「あなたを身請けしたいと言っている商人について、ちょっと調べてみたことがありましてね。お時間、ありますか?」
「もちろん」
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