ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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19.貴族の血

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 エイブが立ち去り、ヴァレンと見習いたちは大きく息を吐いた。張り詰めていた緊張がまだ解けきらない。

「……ヴァレン兄さんって、貴族の血を引いていたんですね」

 ぼそり、とアルンが呟く。

「貴族たって、名ばかりの貧乏貴族だったらしいよ。しかも爵位だって下っ端の男爵。それに俺が実際に生まれたのは商家だし、母さんが元貴族だったっていうだけで、俺は庶民」

「で、どうするんですか?」

「お断りするに決まっているだろう。骨肉相争う、どろどろの展開になるのが目に見えているじゃないか」

「夕月花はどうなるんでしょう? 確か、夕月花の飴が入ってくるまで、この島では食事内容まで制限を設けられていたんですよね」

 さすがに首席だけあって、アルンは博識だ。
 ヴァレンも実際にその時代を知っているわけではないが、話は聞いている。
 食事内容に制限など、冗談ではない。好きなものを食べられないなど、生きている楽しみが半分以下に減るようなものだ。
 もし夕月花が失われるようなことがあれば、その悪習も復活するかもしれない。

「……それが困りものなんだよなあ。でも、あの男が言ったことが全て本当かどうかわからないし、調べてみることにするよ」

「もし本当にヴァレン兄さんが跡を継いだら、ご領主様になるんですよね。格好いいじゃないですか」

「……きみは、俺が領主をやっている領地に住みたいと思うかい?」

 夢見るような声を漏らすブラムに、問いかけてみる。
 すると、のほほんとしていた顔が、一瞬にして引き締まった。

「全力で遠慮します」
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