ヴァレン兄さん、ねじが余ってます

四葉 翠花

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10.籠の鳥

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「もう帰るのですか?」

「いきなり邪魔したし、もう帰るよ」

「……今回はともかくとして、あなたには身請け話がかなり来ていますよね。どれかひとつでも、考えてみたものはあるのですか?」

「いや、ないよ。少なくとも、今の見習いの子たちが一人前になるまでは、まったくもって考えられない」

「では、その後は?」

 間髪入れず問いかける声に、ヴァレンは軽く眉を寄せる。

「……どうしたんだよ、真剣な顔して。おまえにだって身請け話くらい、あるだろう」

「わたくしの身請け話など、囲い者の誘いしかありませんよ。あなたは違うでしょう? あなたはむしろ、色事よりも才能を買われている。養子の誘いが多いのでしょう?」

 普段はろくに使わないものの、いざとなればヴァレンの頭は特別製だ。
 その気になれば大抵の人間の行動は読めるし、思惑も見抜ける。さらに並外れた記憶力を持ち、こういった能力に目をつける客もいた。

「娘の婿に、という話もあるそうですね。大商人なり貴族なりの養子になり、身を立てていくことができるはずです。愛人とは違います」

 力なくヴァレンの腕をつかみ、エアイールは俯く。

「わたくしは所詮、籠の鳥です。籠から出ては生きていけない。でも、あなたは大空に飛び立てる翼を持っています。ミゼアスが島から飛び立ったように、いずれあなたも……」

 ヴァレンに触れるエアイールの手は震えていた。
 その手の甲には、五つの花と蝶が刻まれている。かつてミゼアスの手に飛んでいた蝶は、今やエアイールのものだ。
 いつもよりエアイールの手が弱々しく感じられるのは、第一位の証である蝶の重みのせいだろうか。
 ヴァレンは蝶を覆い隠すように、そっとエアイールの手に自らの手を重ねる。

「落ち着けよ。俺は島を出て行くつもりはないから。……そういえば、おまえは白花じゃ唯一の五花になったんだよな。いろいろと抱えているものもあるんだろ。今度は俺が話を聞くよ」
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