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第1回オータムフェスティバル

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翌朝も、変わらない朝を迎えていた。
弦は2セットずつ、6セット持ち。
楽譜とプログラム・ピック・イヤモニ・ヘッドマイク・弦張り替え用道具・生理用品を鞄に入れて、ギターを3本持ち部屋から出てきた。
玄関で、母から弁当を渡されていた。
父や弟・母に見送られて、家を出た。
マンション途中で秀一と出会い、話しをしながら駅まで歩いていた。

「フェスタでるのか? 凄いよな? あまりアマチュアは参加出来ないからな。」

「そうなんだ、うちの顧問は最初から年間スケジュールに入れてたけど。誰でも参加できると思ってたわよ。それに2日間あるしね。」

「ああ そうだけど、有名な高校の吹部とかも参加するしな。軽音はその名の通り軽く見られてるんだよ。ジャズやロック・フォークもあるしな。何時からなんだ?」

「わからないけど、夕方って聞いてますよ。」

「お前携帯持ってんだろ、でてるよ。」

秀一はオータムフェスティバルのホームページを開き、プログラムを開いていた。

「これヤバくないか。お前らの前ってかなり有名なセミプロだぜ。下手したら、ドン引きされちゃうからな。まぁ、見にいってやるから頑張れよな。」

「また、彼女とデートのついででしょ? でも、ありがとうね。演奏できればいいから。」

学校に行き、最後の通し練習を始めていた。
麗奈は、演奏だけに集中して。
歌は鼻歌程度で、マイクのボリュームも下げていた。
練習も、終わり器材を片付け始めると。
麗奈は、3本のギターの弦をニッパで次々に切っていた。
全部の弦を切り終えると、手際よく。弦を張り替えてしまった。
みんな持ってくれて、ギターも運び始められていた。
4人は、イヤモニとヘッドマイクの確認をしてから部室を後にした。
校舎の外に出ると、4人はビックリしていた。
マイクロバスのはずが、2台の大型バスが停まっていた。
みんなは、自分達のマイクロバスを探していたがそんなものはなかった。
父兄が参加したいと言い出し、急遽観光バスを変更したのだった。
部員達は1号車に荷物を積み込み、乗車していた。

1号車は、ほとんど学生達だった。  
2号車には、父兄が乗っていた。
バスは発車し、少し話しをして部員達は早めの昼食を取っていた。
部員は弁当持参で、他の生徒と父兄には弁当とお茶が配られていた。
まぁ、参加料を貰ってるのでそれで補っていたのだった。
昼食を食べると、すぐに麗奈は寝てしまっていた。
バスは国道から、県道を走り山間を走っていた。
舗装道路で広かった。
2号車では、父兄たちの交流の場になっていた。 
恒例の挨拶などが行われていた。
麗奈の家族は、4人来ていた。
姉が前の日遅くに帰ってきて、乗り込んでいたのだった。

目的地に着いて、隣の葉月に起こされて麗奈は目覚めていた。
着いたのは、1時少し前だった。  
大きな駐車場で、大型バスやマイクロバスが停まっていた。  
乗用車は、少し離れたところに駐車場がありこれも大きく2箇所あった。
部員達は、器材を降ろし始めていた。  
ステージは、見当たらなかった。
駐車場まで、演奏が流れてきていた。 
もの凄い音だった。
香織の後についていくと、広大な芝生の向こうに物凄く大きなステージが目に飛び込んできた。
麗奈だけ、飛び跳ねていた。 
3人は、そんな麗奈を見て安心していた。
客席も、指定されており。 
芝生に、各自ビニールシートを敷いて座っていた。
高いステージと多くの照明、そして大型スピーカーと左右に大画面のスクリーンがあった。
桜花の席は、真ん中より前だったが、それでもステージの顔の表情は肉眼では確認できずスクリーンで確認していた。
みんな素晴らしい演奏と歌で、うっとりと聞いていた。
お尻に、低音の音が響いていた。
ちょっと押しているらしく、多分出番は6時頃だと言われ。
木陰で、麗奈達は休んでいた。
このうるさい中でも麗奈は2時間程、みんなにもたれて熟睡していた。
4時前に、葉月に恒例で起こされて目覚めていた。
少し肌寒いが、演奏してれば暖かくなるだろうと。
夏祭の衣装だった。
今は、その上にいつものコートを羽織っていた。
4時になると、最終確認が行われた。
少し離れてチューニングから始まり、ヘッドマイクを付け髪の毛を束ねリボンを付けた。
イヤモニの確認も、行っていた。
部員達も集まり、恒例の円陣を組んでの掛け声をあげていた。
父兄と生徒は、唖然として見ていたが恒例だった。
器材は舞台の方に運ばれ始めると、ストラトだけ受け取っていた。
4人は話しをして、驚いていたが好きにさせようと思った。
再び、今度は4人だけで円陣を組み。
3人は、ステージの方に行った。
麗奈は、席に戻ってきていた。
両親などは、驚いて。

「お前、行かなくていいのか?みんな行っちゃったぞ。」

「多分、ここからも電波届くから大丈夫だと思う。失敗したら、ごめんなさい。」

6時過ぎに前の組みの演奏が終わり、部員がセッティングを始めると。
知ってる者やSNSで見てる者は、歓声をあげていた。
あすかが出てきて、ドラムを激しく叩き始めていた。
幸平にイヤモニをかざして、音を聞かせていた。 
茉莉子にも聞かせた。
再び麗奈はセッティングすると、ベースの彩香が右から登場して大歓声が巻き起こっていた。
もう、あすかファン・彩香ファン・葉月ファンなどが根付いていた。
この頃、麗奈はエレキをコートで隠していた。
頭の上で手拍子をしてステージに上がり、シンセを弾き始めた。
観客は後ろを振り返っていたが、麗奈を見つける事はできなかった。
ギターからコートを取ると、その場で演奏し始めていた。
音は、届いていた。
大きな中央通路に出て、弾きながら進んでいた。
左右のお客様にお辞儀をしながらイントロが終わると、合図は遠くて見えないので。

「いくよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

掛け声と共に、曲がはじまりだしていた。
演奏して歌いながら、ステージに向かっていた。

「あれ、うちの娘かしらね。信じられないわよ。」

「お母さん、麗奈の晴れ舞台よ。ちゃんと見てあげてね。お父さんもね。」

間奏では、お客さんに近づき速弾きをしていた。
最初から大爆発のギターは、チョーキングやトレモロを使っていた。
麗奈は走り始め、やっと1曲が終わる頃ステージに上がった。
レスポールに持ち変えると、水を飲み。

「こんばんわーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   
さいこうでーーーーーーーーーーーーーーーーーす
第1回オータムフェスティバルに参加できて幸せでーーーーーーーーす
今日も、みんな楽しんでくださいねーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いっぱい上手なバンドとか吹部とかあるので、ちょっと恥ずかしいかなーーー
でも、精一杯がんばりまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーす 
聞いてくださいねーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【木枯らし】【ポプラ並木】」

木枯らしは、ゆったりと演奏もされ4オクターブ半の綺麗な透き通った声で観客を魅了していた。  
ポプラ並木もAメロまではよかったが、Bメロから麗奈はステージを駆け巡り、観衆は大きな拍手を贈っていた。
もう、間奏では両膝を着いて演奏していた。
いつもの様に、激しく動きながら。
頭をも、激しく動かしながら演奏と歌をも歌った。

「ありがとーーーーーーーーーーー  Pretty Girlsでーーーーーーーーーーす」

「しってるーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「覚えてくれて ありがとうーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

声を出した男性に頭をさげて、お辞儀した。

「それでは、恒例のメンバー紹介でーーーーーーーーーーす
ファン急増 姉御ことリーダー ドラム ASUKAーーーーーーーーーーーーーーーー
お色気ムンムン 悩殺ビーム ベース AYAーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お嬢様は何でも1番 人気No.1 シンセサイザー HAZUKIーーーーーーーーーーーーー
ボーカル兼ギターの私 REIでーーーーーーーーす 
よろしくねーーーーーーーーーーー」

「自分の紹介はーーーーーーーーーーーーーー」

「そうね、ライブの前は寝てばかり、のんびり屋でーーーーーーーーす
秋って、いいですよねーーーーーーーーーーーー
私は秋が大好きでーーーーーーーーーーーーーす
だって、恋が芽生えたりする季節ですねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
残念ながら、私達にはありませんがーーーーーーーーーーーー
でも でも だからーーーーーーーーーーーーーーーー
みんなにこの曲をプレゼントしまーーーーーーーーーーーーす
【恋人達の街角】【Kiss Kiss Kiss】」

Ovationに持ち替えて水を飲むと、アコースティックのソロから始まっていた。
Aメロ Bメロは、3人は見守って汗を拭いたり水を飲んでいた。
綺麗なギターの音色と透き通った歌声に、歓声が上がっていた。
サビからは、3人も合流してきていた。
麗奈もフィンガーから、ピックを持っていた。
ゆっくりとステージをも歩き回り、右に左に移動して歌っていた。
熱いスポットが、ずっとこの麗奈を照らしていた。
途中から、彩香と背中を合わせて弾いたり向かい合って弾いていた。
練習してきたコーラスも、バッチリだった。

「ありがとーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  
今日はねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも影で応援して来てくれた、私達の両親や家族も見に来てくれましたーーーーー
いつも、ありがとーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんな大きな舞台初めてで、緊張して上手く行かないわーーーーー
私以外、可愛い娘多いバンドよーーーーーーーーーーーーー
よろしくねーーーーーーーーーーーーーーーーー
あすかーーーーーー 彩香ーーーーーーーーー  葉月ーーーーーーーーーーーーーー
だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいすき
中1から結成して3年経ちました。まだまだ未熟ですが、今後の期待をねーー
こんな山間だとは、さっきまで知らなかったです。星が綺麗ですねーーーーーー
【2人の夜空】【流星】 2曲いきまーーーーーーーーす」

今回は、オータムなのでアコースティックを多用する楽曲が多かった。
もう、何年も毎日ボイトレをしてて。
麗奈の声は、際立っていた。
昔から、綺麗な声だったが。
今は、それに磨きがかかり観客を魅了していた。
ドラムと特にベースのサウンドは、お客さんのお尻から響いていた。
曲の強弱・お互い信頼しあって、演奏をしていた。
昔は、ベースとドラムが足を引っ張ってると言われ悔し涙で枕を濡らしてた2人も、完成度の高い演奏をしていた。
2曲終了すると、レスポールに持ち替え。
水を飲み、大量の汗をタオルで拭っていた。

「彼氏いる人ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女いる人ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
青春してますねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はね、今彼氏3人いるのよーーーーーーーーーーーーーーーー
このGibsonくん  Fenderくん  新しい彼氏になったOvationくんでーーーーーす
Ovationくんは、横取りしちゃったんですけどねーーーーーーーーーーー」

会場はね、爆笑していた。

「誰からとっちゃたんだーーーーーーーーーーーーーーー」

「彼女いたのかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「勿論よ、こんな美貌ですものねーーーーーーーーーーーーーーーー
私のボイトレの先生 新垣優先生から横取りーーーーーーーーーーーーーーー」

会場はざわめいていた。新垣って新垣吾郎のか?

「先生は美人かーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「とっても、美人よーーーーーーーーーーーーーーーーーー
でも、結婚してOvationくんは振られましたーーーーーーーーーーーーーーーーー
吾郎先生は、私の師匠でーーーーーーーーーーーーーーーーーーす
鬼コーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーチ
ミキサー担当の佐藤香織ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
顧問で、鬼でーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーす
でも、とっても優しくて。みんなみんな素敵でーーーーーーーーーーーす
【恋人たちのキス】【夜空の彼方に】」

この2曲は、麗奈が興奮して暴れまわるのは3人は予測していた。
3人もノリノリで、各自アレンジをしたりしていた。
ドラムのソロもあった。  
シンセのソロも取り入れられていた。
みんなが演奏してる中、麗奈は頭の上で手拍子をしてステージを駆け回っていた。
前の方から手拍子が湧き上がり、どんどん後ろまで広がっていった。
彩香を指差すと、彩香は前に出てソロを弾き始めていた。
観客は始めていた手拍子取りと、歓声を浴びせていた。
汗ビッショリで、駆け回ってる麗奈だった。
途中で水を飲み、手や首をタオルで拭っていた。
彩香と合図すると、そのままギター・ソロを弾きだしていた。
狂った様に弾いていたが、正確な音や技法で観客は更に激しい歓声をあげていた。

「えーーーーーーーーーーーと  私達の思い、とどきましたかーーーーーーーーー
少しでも、届けば幸いでーーーーーーーーーーーーーーーーーす
フェスタも、明日の昼過ぎまでつづきますねーーーーーーーーーーーーー
音楽っていいですね こんなに多くの人々と同じ時を過ごせるのですから。
ラストになりまーーーーーーーーーーーーす
少し封印してきた曲です。 泣いて歌えなくなり、怒られた曲なので。
フェスタ関係者・お客様・学園・指導してくれた先生方、そして両親や家族  みんなに感謝する気持ちを込めて作った歌です。メンバーにも感謝しています。支えてくれた全ての人に感謝してます   ありがとう   【純愛】」

麗奈は再び、なぜかOvationに持ち変えて弾きだしていた。

メンバーの綺麗な演奏だった。
迫力というよりも、みんなが感謝の意を込めて。
麗奈は、しっとりと感情を込めて歌っていた。
会場は静まり返り、ただただ演奏を聞いていた。
間奏では、麗奈は上を向いて夜空を眺め涙していた。
彩香は、麗奈にタオルを渡していた。     
麗奈は、後ろを向き涙を拭っていた。
麗奈は、大丈夫とみんなにサインした。
2番からは、みんなで歌い始めていた。
しっかりと麗奈は歌っていたが、ボロボロと頬を涙が伝っていた。
フェスタでは、アンコールは無いのでこれで終わりだった。

感動のフィナーレを迎え、4人は前で手を繋ぎお辞儀していた。
客席からは、惜しみない拍手と歓声が巻き起こっていた。
4人はステージで抱き合って、再び挨拶をすると袖に姿を消していた。
部員達は、セットを手際よく片付け麗奈もギターをケースに閉まっていた。

香織は、最後の審査までいなければいけないのでみんなをバスまで見送った。
疲れ切った4人は、バスに乗るなり熟睡してしまっていた。
あすかは、器具庫の鍵を香織から預かっていた。
途中で4人の携帯が鳴ったが、気がついたのは葉月だけだった。

「葉月ちゃん。今日はご苦労さま、ところで後の3人はなにしてるの?電話かけても出ないって吾郎も怒ってたわよ。」

「ええ みんな寝ちゃってます。私も起きて気がついたので。」

「明日は、みんな自主練って言っておいてね。ちょっと用事できたからね。」

「はい、わかりました。それでは失礼します。」

「あの娘達寝てるみたいよ。よっぽど疲れたのね。」

「そりゃそうだろうよ。あんな大きなステージだからな。しかし、あいつらに緊張って言葉はないのかよ。また、あのバカ泣きやがって。帰ったら一生分泣かせるか。」

「あら、吾郎さん。紹介されて照れくさかったでしょ。うちの生徒も中々やるわね。優さんも呼ばれちゃったわね。あんな事言う娘じゃないのにね。」

「そういう、香織だって呼ばれてたじゃないの。鬼コーチってね。」

「あら、いいのよ。私は、これで3回目だし慣れたわよ。」

「まぁ、下手くそだから賞でも取らないといいけどな。それだけだよな。圧力かけとっかな。」

「心配ないんじゃないの。まだ下手なんだからさぁー」

「吾郎と香織が辛口なだけだぜ。観客沸かせたのは、あいつらが1番だったからな。まぁ、演奏はまだまだだけどな。でも、変な虫つかないように手うっておいたほうがいいかもな。今や、人気アイドルなんて下手で聞いてられねえからな。」

「お前らもあたってくれや。おれも、心当たり探すからよ。」

この日ばかりは、店長も他の店員に任せて見に来ていた。
7人は、旅館で話しをしながら飲んだり電話したりしていた。

一方、麗奈達は、10時半過ぎに学校に着くとみんなの手を借りて10分で器材を閉まった。
父兄がいる者は、そのまま同行して生徒は帰宅した。
すでに、連絡をみんなしており滞りなく麗奈達部員が最後に学校を後にしていた。
電車で家族と帰路に付き、家路を急いでいた。

家に帰ると風呂に入り、1時間は勉強をして就寝したのは1時くらいだった。
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