PrettyGirls(可愛い少女達)ーレディースバンドの物語ー【学生時代とセミプロ時代】

本庄 太鳳

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「……オレは凌空くんが羨ましい。やりたいように生きて、ありのままの姿で菫にも晴陽ちゃんにも愛されて。……オレには何もない。将来の夢もないし、好きな女の子もいない。きっとこの先ずっと、菫を失った悲しみと臓器移植に反対しなかった後悔だけを抱えたまま、無意味な日々を生きていく。……そう考えると堪えられなくなってくるんだ」

 自虐的に心情を吐露する蓮がいたたまれなくて、晴陽は拳を握り締めた。

 悩み、苦しんでいる蓮に手を差し伸べてあげたい。何か力になれることがあれば、助けになってあげたい。

 だけど凌空という彼氏がいながら中途半端に手を貸すような行為は、凌空にも蓮にも無礼になる。

 どうすればいいのだろう。歯噛みする晴陽の横で、凌空は大きな溜息を吐いた。

「俺がやりたいように生きているって決めつけんなよ。お前は一体、俺の何を知ってそんなことを言ってんだよ。お前の行動こそ自分勝手で周りに迷惑をかけまくっているって自覚はないのか?」

 容赦のない物言いも凌空の魅力の一つだが、今の蓮の立場になれば酷だろう。

 もうこれ以上蓮を追い詰めるのはやめてあげてほしいと晴陽が間に入ろうとしたとき、

「とにかく、晴陽は渡せない。だから俺が、蓮さんと友達になるよ」

 凌空の口からは、あまりにも予想していなかった提案が発せられた。

 晴陽と蓮は同じような、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているはずだ。

「……凌空くん、それってどういう……?」

 戸惑う蓮に対して、凌空は淡々と続ける。

「晴陽も蓮さんもそして菫も、俺が三人まとめて大事にするって言っている。俺が晴陽と一緒にいる限り菫のことを忘れることは絶対にないし、俺と蓮さんが友達になれば、晴陽を介さなくても気軽に連絡を取り合ったり、遊んだりできる。悪くない提案だと思うけど」

 話が飛躍しすぎているので困惑するが、凌空の意図はなんとなくわかる。

 伝わりにくい凌空の優しさに胸が温かくなり、彼女として誇らしい気持ちになる。

「……どうして、オレの嫉妬の話が凌空くんと友達になることに繋がんの? 理解できないのはオレだけ?」

 蓮に助けを求められた晴陽は、優しく微笑んだ。

「わたしは蓮さんの嫉妬に向き合ってあげることも、寂しさを紛らわすために付き合ってあげることもできません。だけど凌空先輩なら、それができるってことですよ」

 晴陽の説明を聞いて、蓮は唖然としながら再び凌空の方を見た。

 疑念を含んだ視線を向けられても、凌空は不機嫌な様子を見せることもなく、ふっと表情を緩めた。

「……俺は今まで、愛なんて信じられなかった。好きだの愛しているだのどれだけ口にしていても人は簡単に浮気するって、心を閉ざしていた。だけど……」

 目が合った凌空は、少しだけ照れくさそうな表情を浮かべていた。

「晴陽に愛されたことで……そして俺が晴陽を愛したことで、人を信じられるようになった。肩の力が抜けて、生きるのが楽になった。俺は蓮さんにも、今の俺と同じように自分を肯定できるようになってほしいって、思うから」

 凌空に望んでいた「自分を肯定してほしい」という、晴陽の願い。

 それはいつの間にか叶っていたようだ。こんなに嬉しいことはない。

「晴陽、ごめん。晴陽には愛の証明をしろって喚いたくせに、いざ自分がやるとなったら気持ちの証明ってとても困難なんだって知った」

「いえ……わたしも結局は何一つ証明できなかったので、凌空先輩に『ほれ見ろ』だなんて口が裂けても言えないですよ」

 そう、晴陽は自分の力では証明を成し得なかった。

 だけど凌空なら、あらゆる理屈を無視してでも強引にやり遂げてしまうのではないかと期待してしまうのは、惚れた相手への贔屓目だろうか。

「晴陽は過去のことを話してくれたり絵を描いてくれたりして、精一杯の努力をしてくれた。……だけど、蓮さんのことをほとんど何も知らない俺は、それができない」

 そう言って蓮に近づいていった凌空は、そっと右手を差し出した。

「思い出を語って説得することも、あなたの心を動かすものを差し出して情に訴えることも、俺にはできない。俺はただ、晴陽がずっと俺にし続けてくれたように、目を見て強く伝えることしかできない。……蓮さん、頼む。俺を信じてくれないか?」

 想像以上に単純で、予想よりはるかに力業。そんな凌空のことが改めて大好きだなと、晴陽は再確認する。

 だが今大事なのは晴陽の心じゃない。蓮の気持ちだ。

 凌空の一風変わった愛情に、蓮は応えてくれるだろうか。晴陽は緊張しながら、ふたりの様子を見守っていた。
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