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8.神から与えられたのは、罰と……
何千年と旅をした
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私の言葉に、ノアはニヤリと笑った。
その笑みを見て、私は自分の鈍感さを呪った。
いや……見たとて気づけるはずはないのだ。
ただでさえ、自分が死んだ後に異世界に転生することもイレギュラーなのだ。
二次元ではお約束の展開だったとしても、三次元で実際そんなことが起きるなんて普通は思わない。
自分以外の誰かもまた、そういう状況になっているなんて。
「あの……」
私は言った。
たった一人の心当たりの名前を。
ノアはふふふ、と笑ったかと思うと、自分の両手を顔にくっつけて30秒ほどそのままでいた。
それからぱっと、ノアが手を放すと、ノアじゃない顔が表れた。
まさにその顔は、私の心当たりドンピシャの男。
「あ……あ……」
死にたくなかった私が、唯一1個だけ死んでもよかったかも、と思ったこと。
それがまさに、この顔を持つ上司と2度と一緒に仕事をしなくても良くなったことだ。
何かにつけ
「こんなこともできないの?」
「君を育成しているだけで、会社のコストがバカ高い」
などとプレッシャーをかけ続けてくる鬼上司。
無駄に顔は良かったので女性社員からの人気は良かった。
そしてこの上司もまた、他の女性にはすこぶる優しかった。
厳しかったのは、私だけ。
嫌われているのかと、怯えたこともあった。
どうしてこんな理不尽な目にあっているんだと、悔しくなったこともあった。
この上司のせいで何度も会社を辞めようと思った。
でも、推しと萌えにつぎ込むメリットと天秤にかけて、どうにか精神をぎりぎり保ち、お金のため、お金のための呪文を言いながら毎朝出社し、残業に耐え、寝る間も惜しんで萌えを楽しんだ。
我ながらストイックな生活を前世でしていたと思う。
ベッドの上で、眠る前にイケメンとエチエチなことをする妄想を楽しむのも、そのための原動力だったりもしていた。
おかげで残業代もそれなりにもらえたが、同時に萌え課金にも使い果たした。
そのことに反省も後悔もない。
たくさんの推しに巡り会えたのは私の興奮だと思うから。
だ、けれども、だ。
それとこれとは話が違う。
違いすぎる。
「あの……こちらに転生されたんですか?それとも……」
転生か。
はたまたノア本人だったのか。
正直今更どっちでもいいが、話せる話題で思いつくことはこれだけだった。
でも、今のノアの動きを見れば、答えは明白。
しかもバックにはカサブランカがいるのだ。
時間を司る魔人の。
「僕が、君たちの世界に行って、君たちのような人間のフリをしただけだってことくらいは、さすがにバカでも察すると思うけど」
(はいきたーきちゃったよー)
この言葉遣い。
まさにあの上司だ。
「…………楽しかったですか?」
私は聞いた。
「私をからかって、楽しかったですか?」
「別にからかうつもりなんてないさ。こちらも本気だったんだから」
「本気?」
「そう。その体と、ちゃんと共鳴できる魂を探すのに、何千年と旅をしたんだから。カサブランカを利用して、ね」
「っ!?」
その笑みを見て、私は自分の鈍感さを呪った。
いや……見たとて気づけるはずはないのだ。
ただでさえ、自分が死んだ後に異世界に転生することもイレギュラーなのだ。
二次元ではお約束の展開だったとしても、三次元で実際そんなことが起きるなんて普通は思わない。
自分以外の誰かもまた、そういう状況になっているなんて。
「あの……」
私は言った。
たった一人の心当たりの名前を。
ノアはふふふ、と笑ったかと思うと、自分の両手を顔にくっつけて30秒ほどそのままでいた。
それからぱっと、ノアが手を放すと、ノアじゃない顔が表れた。
まさにその顔は、私の心当たりドンピシャの男。
「あ……あ……」
死にたくなかった私が、唯一1個だけ死んでもよかったかも、と思ったこと。
それがまさに、この顔を持つ上司と2度と一緒に仕事をしなくても良くなったことだ。
何かにつけ
「こんなこともできないの?」
「君を育成しているだけで、会社のコストがバカ高い」
などとプレッシャーをかけ続けてくる鬼上司。
無駄に顔は良かったので女性社員からの人気は良かった。
そしてこの上司もまた、他の女性にはすこぶる優しかった。
厳しかったのは、私だけ。
嫌われているのかと、怯えたこともあった。
どうしてこんな理不尽な目にあっているんだと、悔しくなったこともあった。
この上司のせいで何度も会社を辞めようと思った。
でも、推しと萌えにつぎ込むメリットと天秤にかけて、どうにか精神をぎりぎり保ち、お金のため、お金のための呪文を言いながら毎朝出社し、残業に耐え、寝る間も惜しんで萌えを楽しんだ。
我ながらストイックな生活を前世でしていたと思う。
ベッドの上で、眠る前にイケメンとエチエチなことをする妄想を楽しむのも、そのための原動力だったりもしていた。
おかげで残業代もそれなりにもらえたが、同時に萌え課金にも使い果たした。
そのことに反省も後悔もない。
たくさんの推しに巡り会えたのは私の興奮だと思うから。
だ、けれども、だ。
それとこれとは話が違う。
違いすぎる。
「あの……こちらに転生されたんですか?それとも……」
転生か。
はたまたノア本人だったのか。
正直今更どっちでもいいが、話せる話題で思いつくことはこれだけだった。
でも、今のノアの動きを見れば、答えは明白。
しかもバックにはカサブランカがいるのだ。
時間を司る魔人の。
「僕が、君たちの世界に行って、君たちのような人間のフリをしただけだってことくらいは、さすがにバカでも察すると思うけど」
(はいきたーきちゃったよー)
この言葉遣い。
まさにあの上司だ。
「…………楽しかったですか?」
私は聞いた。
「私をからかって、楽しかったですか?」
「別にからかうつもりなんてないさ。こちらも本気だったんだから」
「本気?」
「そう。その体と、ちゃんと共鳴できる魂を探すのに、何千年と旅をしたんだから。カサブランカを利用して、ね」
「っ!?」
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