165 / 455
6.想定外だった彼の想い
王子と弟の共通点
しおりを挟む
実家を出てから数年、私は家族とほとんど連絡を取らなかった。
仕事が多忙だったこともあり、目の前のことに追われていてそれどころではなかったのもある。
それでも、連絡をしようと思えば、ちょっとの空き時間を使えばできただろう。
「元気?」
「そっちはどう?」
たった10秒もあれば、気遣いの言葉をかけられる。
その10秒を、私はかけようとは思えなかった。
私にとって家族は、そういうものだったのだと、離れて初めて気づいてしまった。
それから弟の近況を聞かされたのは、数年後に弟が精神病院に入院した時。
何らかのきっかけで、何かしらの心の障害になってしまったらしいと、泣きながら母親は私に助けを求めた。
どうしたらいいか、と聞かれた。
家に戻ってきて欲しいと、懇願された。
でも当時、私は仕事で押しつぶされそうなプレッシャーに必死で耐えようとしていたから、
「弟のことに構ってる暇はないんだけど」
と、心の中にずっと抱えていた弟への不満が爆発していた。
自分の方がずっと苦しいのに、弟はどうして両親に守られているのだろうと、私はその時期、弟のことが憎くて仕方がなかった。
自分で実家を出る決断をしたのに、滑稽な話だ。
それから、当てつけのように、家族からの連絡を無理やり絶ち、そうこうしている内に、私の方が先にぽっくり逝ってしまったというのが、前世のラスト。
家族とは結局顔を合わせないまま。
弟が入院した後、どうなったかは……知らないまま。
こうして考えてみると、エディ王子と弟の境遇は似ている気がした。
顔は断然エディ王子の方がイケメンだが。
「こうあるべき」
と勝手にレールを作られ、その通りに生かされてきたという境遇。
もしエディ王子をあのTL小説通りに解釈するとしたら……きっと……こういう人生だったのだろう。
ということは。
弟に似ているということは。
エディ王子のこの状態はもしかして……あの日の弟と同じということだろうか?
あの日の弟は、まるで幼児のようだと思った。
幼児退行現象と呼ぶのだと、あの後何気なくネットで調べてみて知った。
強いストレスを感じた時に心を守るために、そういう状態にさせるらしい。
つまり……エディ王子は今、強いストレスを感じている……と考えるのが自然だ。
私は考えた。
今、この状態を良くしなくてはいけないのだとしたら、エディ王子の何らかのストレスを、少しでも軽減させることが必要ではないかと。
王子にとってのストレスが何かは、今の私には残念ながら全く心当たりがない。
だけど、原因は分からなくても、落ち着かせることはきっと……できるはず。
エディ王子の背中を優しく撫でてやりながら
「大丈夫、大丈夫」
と声をかけてみた。
それは、前世の幼少期の記憶からヒントを得た。
怖いなと思った時、不安に思った時、私は母親に泣きつく。
すると母親は、こんな風に抱きしめながら背中を撫でてくれた。
そうしてもらうことで、私は安心した気持ちになる。
そんな、幼い頃の記憶を見つけてしまった。
だからダメ元で、エディ王子にしてみることにした。
すると、しばらくしてからエディ王子がぽつりと私の耳元でこう囁いた。
「……行くな……」
と。
仕事が多忙だったこともあり、目の前のことに追われていてそれどころではなかったのもある。
それでも、連絡をしようと思えば、ちょっとの空き時間を使えばできただろう。
「元気?」
「そっちはどう?」
たった10秒もあれば、気遣いの言葉をかけられる。
その10秒を、私はかけようとは思えなかった。
私にとって家族は、そういうものだったのだと、離れて初めて気づいてしまった。
それから弟の近況を聞かされたのは、数年後に弟が精神病院に入院した時。
何らかのきっかけで、何かしらの心の障害になってしまったらしいと、泣きながら母親は私に助けを求めた。
どうしたらいいか、と聞かれた。
家に戻ってきて欲しいと、懇願された。
でも当時、私は仕事で押しつぶされそうなプレッシャーに必死で耐えようとしていたから、
「弟のことに構ってる暇はないんだけど」
と、心の中にずっと抱えていた弟への不満が爆発していた。
自分の方がずっと苦しいのに、弟はどうして両親に守られているのだろうと、私はその時期、弟のことが憎くて仕方がなかった。
自分で実家を出る決断をしたのに、滑稽な話だ。
それから、当てつけのように、家族からの連絡を無理やり絶ち、そうこうしている内に、私の方が先にぽっくり逝ってしまったというのが、前世のラスト。
家族とは結局顔を合わせないまま。
弟が入院した後、どうなったかは……知らないまま。
こうして考えてみると、エディ王子と弟の境遇は似ている気がした。
顔は断然エディ王子の方がイケメンだが。
「こうあるべき」
と勝手にレールを作られ、その通りに生かされてきたという境遇。
もしエディ王子をあのTL小説通りに解釈するとしたら……きっと……こういう人生だったのだろう。
ということは。
弟に似ているということは。
エディ王子のこの状態はもしかして……あの日の弟と同じということだろうか?
あの日の弟は、まるで幼児のようだと思った。
幼児退行現象と呼ぶのだと、あの後何気なくネットで調べてみて知った。
強いストレスを感じた時に心を守るために、そういう状態にさせるらしい。
つまり……エディ王子は今、強いストレスを感じている……と考えるのが自然だ。
私は考えた。
今、この状態を良くしなくてはいけないのだとしたら、エディ王子の何らかのストレスを、少しでも軽減させることが必要ではないかと。
王子にとってのストレスが何かは、今の私には残念ながら全く心当たりがない。
だけど、原因は分からなくても、落ち着かせることはきっと……できるはず。
エディ王子の背中を優しく撫でてやりながら
「大丈夫、大丈夫」
と声をかけてみた。
それは、前世の幼少期の記憶からヒントを得た。
怖いなと思った時、不安に思った時、私は母親に泣きつく。
すると母親は、こんな風に抱きしめながら背中を撫でてくれた。
そうしてもらうことで、私は安心した気持ちになる。
そんな、幼い頃の記憶を見つけてしまった。
だからダメ元で、エディ王子にしてみることにした。
すると、しばらくしてからエディ王子がぽつりと私の耳元でこう囁いた。
「……行くな……」
と。
0
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる