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4.王子の葛藤
王子の義務
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「エディ王子」
俺は、執務室に入るなり執事のゴードンに話しかけられた。
うんざりした気分になる。
「……何だ、いきなり」
「どこに行ってらしたのですか」
「気分転換をしていた」
「そう言う時は、先にお伝えください」
(伝えたところで、どうせ阻止する癖に……)
俺が何も言わないでいると、ゴードンが俺に書類の束を渡す。
「こちらの書類、本日中に承認をお願いいたします」
「……わかった」
飾りとしてだけの王子印を、すでに決められた通りに押すだけの、簡単な仕事ではある。
面倒なことに変わりはないが、とっとと済ませてしまおう。
俺は無心になってデスクに座り、書類を広げる。
しかし、ゴードンは、俺の集中の邪魔を再びしてくる。
「それから」
「まだ何かあるのか」
「隣国の王女との婚姻の件ですが」
(……また、その話か……)
「婚約の日以降、1度もお会いになってないではないですか」
「……」
「王子。まただんまりですか」
「王女と俺の婚姻は……本当に、今のこの国に必要なことなのか」
「はい。覆ることは、決してございません」
「…………なら、俺が……どうこう言えることではないじゃないか」
(どうせ、俺の意思なんて無意味なんだから、勝手に進めれば良いじゃないか)
「しかしながら、王子が将来の王妃をもてなすのは、義務でございます。婚約してから1度もお会いしておりませんが、早くお迎えの準備をしなくてはなりません。」
まただ。
義務。
義務!
義務!!
何でもかんでも、俺がやることなすこと全てが義務だと、誰もが押し付けてくる。
「………………終わった後だ」
「は?」
「今日の伽が終わるまで、金輪際俺に話しかけるな!分かったか!!!」
「お、王子!王子!!?」
俺は、ゴードンだけでなく、その場にいたメイド達全員を無理やり追い出した。
……再び1人になるために。
「くそっ!!!」
イライラする気持ちをどうにか宥めるため、渡された書類を床に投げつけてみたが、一向に気持ちが収まらない。
(どうして……俺が、王位継承権第1位なんだ……!長男でもないのに……!)
最初に考え始めてから、どれくらいの年数が経ったのか、もう覚えていない。
ただ、俺は今の立場を呪わなかった日は、1日足りともない。
俺は、立ち上がり、窓辺に近づく。
あの場所が見える。
俺が、人生で初めての失敗をした場所。
俺が初めて、欲するまま……カシーの唇を奪ってしまった場所。
あの日のカシーの苦しげな顔は、今でも夢に見る。
もし、俺があんな事をしなければ、カシーは今でも、俺に笑いかけてくれたのだろうか。
今みたいに、無理やりあいつの体を開くようなことはせず……せめて伽の間だけでも……俺とあいつは……。
「はぁ……」
どんなにため息をついても、時が戻らない。
だけど俺は、いつでも願わずにはいられない。
できるならあの日に戻って、全てをやり直したいと。
俺は、執務室に入るなり執事のゴードンに話しかけられた。
うんざりした気分になる。
「……何だ、いきなり」
「どこに行ってらしたのですか」
「気分転換をしていた」
「そう言う時は、先にお伝えください」
(伝えたところで、どうせ阻止する癖に……)
俺が何も言わないでいると、ゴードンが俺に書類の束を渡す。
「こちらの書類、本日中に承認をお願いいたします」
「……わかった」
飾りとしてだけの王子印を、すでに決められた通りに押すだけの、簡単な仕事ではある。
面倒なことに変わりはないが、とっとと済ませてしまおう。
俺は無心になってデスクに座り、書類を広げる。
しかし、ゴードンは、俺の集中の邪魔を再びしてくる。
「それから」
「まだ何かあるのか」
「隣国の王女との婚姻の件ですが」
(……また、その話か……)
「婚約の日以降、1度もお会いになってないではないですか」
「……」
「王子。まただんまりですか」
「王女と俺の婚姻は……本当に、今のこの国に必要なことなのか」
「はい。覆ることは、決してございません」
「…………なら、俺が……どうこう言えることではないじゃないか」
(どうせ、俺の意思なんて無意味なんだから、勝手に進めれば良いじゃないか)
「しかしながら、王子が将来の王妃をもてなすのは、義務でございます。婚約してから1度もお会いしておりませんが、早くお迎えの準備をしなくてはなりません。」
まただ。
義務。
義務!
義務!!
何でもかんでも、俺がやることなすこと全てが義務だと、誰もが押し付けてくる。
「………………終わった後だ」
「は?」
「今日の伽が終わるまで、金輪際俺に話しかけるな!分かったか!!!」
「お、王子!王子!!?」
俺は、ゴードンだけでなく、その場にいたメイド達全員を無理やり追い出した。
……再び1人になるために。
「くそっ!!!」
イライラする気持ちをどうにか宥めるため、渡された書類を床に投げつけてみたが、一向に気持ちが収まらない。
(どうして……俺が、王位継承権第1位なんだ……!長男でもないのに……!)
最初に考え始めてから、どれくらいの年数が経ったのか、もう覚えていない。
ただ、俺は今の立場を呪わなかった日は、1日足りともない。
俺は、立ち上がり、窓辺に近づく。
あの場所が見える。
俺が、人生で初めての失敗をした場所。
俺が初めて、欲するまま……カシーの唇を奪ってしまった場所。
あの日のカシーの苦しげな顔は、今でも夢に見る。
もし、俺があんな事をしなければ、カシーは今でも、俺に笑いかけてくれたのだろうか。
今みたいに、無理やりあいつの体を開くようなことはせず……せめて伽の間だけでも……俺とあいつは……。
「はぁ……」
どんなにため息をついても、時が戻らない。
だけど俺は、いつでも願わずにはいられない。
できるならあの日に戻って、全てをやり直したいと。
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