ぬくもり

立石 雫

文字の大きさ
上 下
3 / 7

(3)

しおりを挟む
 高志が準備をする間、茂は顔を上げなかった。
 と言っても、茂は普段から準備の段階ではされるままになることが多かったため、いつものとおり高志に任せているのか、それとも気が乗らないのかが高志には分からなかった。いったん片付けたゴムとジェルをもう一度取り出した後、茂の履いているスウェットと下着を脱がせようと手を掛けながら、念の為「嫌?」と聞いてみると、茂はこちらを見ないまま、
「嫌じゃない。して」
と言った。
 茂が少しだけ腰を上げたので、そのまま下を全て脱がせる。その後で、高志は自分も下だけ脱いだ。
 茂の細い脚がベッドの上に無造作に伸びている。上になっているその右脚に軽く触れると、茂が意図を理解したように膝を軽く折り曲げた。そうして少しだけ開いたその狭間にジェルを塗る。ふとさっきの茂の言葉を思い出して、高志は元どおり茂の後ろに寄り添うように再び横たわった。手だけを伸ばしてそこに塗り込め、少しずつ指を入れていく。
――今、茂は何を考えているのだろう。
 数時間前にも解したそこを再び指で解しながら、高志は辛うじて見えている茂の頬を見つめる。あの頃のことを思い出しているのだろうか。今どんな顔をしているのだろう。茂に背中を向けられていると、高志自身が少し落ち着かない気分になる。
 何でこの体勢でしたいと言ったのだろうか。あの頃と違って顔を伏せる必要もないのに。
「細谷」
 指を動かしながら呼び掛ける。
「キスしたい」
 わざとそう言うと、やっと茂がこちらを向く。その表情に特に翳りはないように見えた。少し唇を合わせてから茂の顔を見る、ということを繰り返していたら、茂が笑い出した。
「何で小出しにしてんの」
 そう言う様子に特に変わったところはない。高志を柔らかく見つめる茂の目にいつもの安らぎを感じながら、高志はもう何も気にせずにゆっくりと唇を合わせた。
 やがて高志は茂の後ろをほぐしていた指を抜き、少しだけ体を離して、自身にゴムを装着した。茂が再び上半身を伏せて枕に顔をうずめる。位置を合わせて先端をぐっと押し込んでから、茂の腰を手で押さえて更に深く埋め込んでいった。
「……大丈夫か」
 そう声を掛けると、浅い呼吸を繰り返していた茂は、顔を伏せたまま頷いた。それから腰に置かれた高志の手を取り、自分の胸の前まで持っていった。
 もう片方の手もシーツとの隙間に滑り込ませて、高志は両手で茂の体を抱き締めた。そのまま腰を動かすと、奥まで届くその深さに茂が切れ切れの吐息をにじませる。額を枕にこすりつけるようにしながら、高志の腕を抱える手に一層の力を込めてくる。
 茂を自分の腕の中に閉じ込めながら、高志は行為の最中にいつも覚える感慨をまた思い出していた。茂が男であること、自分が茂に愛しさや興奮を覚えること。それは感慨とも言えるし、未だ消えない違和感とも言えた。茂が自分に揺さぶられて呼吸を乱す様を、その息遣いや背中越しに伝わってくる震えを、今までにない至近距離で感じる。腹部に回した手でしっかりとその腰を支えて同時に後ろから突くと、茂が耐えきれない喘ぎ声を漏らした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

処理中です...