偽りとためらい

立石 雫

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第21章 三年次・12月(6)*

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 体に触れる温もりが離れ、襖の開く音がして、高志は目を開いた。相変わらずの暗闇の中で、横たわったまま開いた襖を眺めていると、すぐに茂が戻ってきてそばにしゃがみ込む気配がする。フィルムを破く音がし、茂の手が高志を数回扱くと、そこにゴムが被せられた。それから何かの容器を開閉する音がして、ゴムの上から何かを塗るように茂の手が上下する。高志はただ天井を見ていた。かすかに衣擦れの音がした後、腿の辺りに茂の肌が触れ、重みがかかる。それから茂の手が高志のそれを支えた。先端に触れたのが茂の体のどの部分かも高志には分かった。
 しばらく何も起こらないかのように時が過ぎた。茂が小さく動く気配だけがしている。もしかしたらこのまま何事もなく終わるのではないかと高志が期待し始めた頃、茂がまた動き、直後、高志の先端が強烈な圧力で締め付けられた。痛みに高志が身をすくめたと同時に、茂の短い悲鳴が聞こえた。
 高志は思わず頭を起こした。自分に覆い被さる茂の後ろ姿らしき影が見え、浅く呼吸する音が聞こえる。
「――おい」
 高志は声を掛けた。
「細谷。やめろ」
「……ごめん藤代。もうちょっとだけ待って」
 苦しそうな息遣いの合間に、茂がそう言う。更に少し圧が強まり、同時に茂が呻いた。高志の腿に置かれた茂の手から震えが伝わってくる。
「やめろって」
「嫌だ」
 茂は深く項垂れているようだったが、既にその全身が震えていた。高志はなるべく下半身を動かさないようにしながら、肘をついて上半身を半分起こし、茂の腕を掴む。
「細谷」
 茂は激しく首を振った。
「藤代……お願いだから」
 聞こえてきた茂の弱々しい涙声に、高志は思わずぎゅっと眉を寄せた。目を凝らせば、茂は肩で息をしながら、何度か手の位置を変え、次のタイミングを計っているようだった。
「待て、細谷」
「……っ!」
 更に少しだけ締め付けが深まり、茂が苦痛の声を上げるのを聞いて、高志は思わず声を上げた。
「待てって! 分かったから」
 待て、と言いながら高志はなるべく茂に衝撃を与えないように起き上がる。こちらに背を向けていた茂が、動きを感じて少しだけ振り返った。既にかなり消耗している気配がする。
「……藤代、待って」
 片手を後ろに回して高志の体を押そうとするが、その手に力強さはなかった。高志は茂の腰を両手で支える。
「嫌だ、待って、藤代」
 茂の制止を聞かず、高志は茂の体を少し持ち上げるようにして自分の腰を引いた。茂が再び呻く。もともとごく浅くしか入っていなかったそれは、あっけなく抜けた。高志はそのまま、茂の下から抜け出した。
 高志が茂から離れた時、かすかに輪郭の判別できる茂の影は、高志に跨っていた格好のまま項垂れているようだった。
「……細谷」
 茂は返事をしなかった。
 高志は床に目をやったが、暗くて何も見えなかった。
「……電気付けるぞ」
 そう声を掛けて立ち上がっても、茂はやはり返事をしなかった。入り口付近のスイッチを探り当てて照明をつけると、その眩しさに高志はしばらく目を細める。それから茂を見ると、上半身にTシャツだけを着た姿で、背中を丸めて俯いていた。茂のそばに高志の探す物があった。部屋の中央を見ると、照明器具はひもで光量を調節できるタイプのものだったので、高志は何回か引いて常夜灯にした。部屋は再び暗闇に包まれたが、物の形は判別できた。
 茂のそばに戻っても、相変わらず茂は顔を上げなかった。高志は茂の横にあるゴムとジェルを手に取ると、自分の指にゴムを被せて、その指にジェルを取った。
 高志が片手で茂の肩を押さえると、茂は初めて反応した。高志の様子を窺おうと振り向く茂の臀部をもう片方の手で探り、ゴムを被せた指をそこに這わせる。茂が反射的に少し腰を浮かせたが、高志はそこにジェルを塗り込めた後、少しずつ指を入れた。
「……っ」
 茂の背中が少し反り返る。高志は慎重に指を動かし始めた。
「何して……」
「痛かったら言えよ」
 高志はそう言ってしばらく指を動かしていたが、ふともう片方の手でTシャツの上から茂の前を探ってみると、そこは完全に萎えているようだった。茂がびくっと反応したので、すぐに手を離した。
 高志は、それから時間をかけて少しずつそこをほぐすように指を動かし、茂の様子を見ながら指を増やしていった。自分のものを考えれば、二・三本は入るようにならないと難しいだろうと思った。ジェルを足しながら、高志は根気よく続けた。茂は時折、呻きとも喘ぎとも判別の付かない息を洩らしている。指が増えるにつれてそれは少しずつ増えていった。徐々に腰が浮いて前屈みになり、両腕を床についている。
 茂の様子を窺いながら指先に意識を集中していた高志は、ふと自分の手元を見た。茂のTシャツの裾を少し持ち上げると、最初よりだいぶ腰の浮いた姿勢のせいで、出入りする自分の指が見えた。しばらく見ているうちに、萎えかけていた自分の下半身に少しだけ熱が戻るのを高志は自覚した。

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