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第14章 二年次・12月(7)
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次の日、高志が目覚めると7時過ぎだった。
久し振りにぐっすり眠った気がした。何となく、心の中にぽっかりと空白があるような感じがする。今まであった何かが抜け落ちているような不在感。でも悪い気分ではなかった。失われているのは、この一週間ずっと苛まれてきた孤独感だと気付いた。
起き上がると、ひどく空腹だった。昨日は結局何も食べなかったから当然と言えば当然だが、空腹を感じられることが自分の復調を表しているように思えた。茂が起きてくるまで我慢できなさそうだったので、昨日買った惣菜類を冷蔵庫から取り出し、温めて食べる。食べられるだけ食べようと思っていたら、結局全てを平らげていた。
それから顔を洗い、コーヒーを入れてテレビをつける。特に興味を引かれるものがなかったので、出しっぱなしだったゲーム機の電源を入れて、ぷよぷよを始めた。
茂が起き出してきたのは9時前だった。寝室の方で物音がし、襖が開く。
「うお。藤代がいる」
そう言いながら、居間を横切ってユニットバスに入っていった。中で水音がし、しばらくして出てくる。
「おはよう」
「おはよう。……て遅いだろ」
「はは。いつもいないからさ。慣れてなくて」
そう言いながら、茂はキッチンで自分の分のインスタントコーヒーを入れ始める。高志は居間から声を掛けた。
「悪い、昨日の飯、全部食った」
「ああ、いいよ全然」
マグカップを持って戻ってきて、座卓のそばに座る。
「だいぶ起きてた?」
「7時くらいから」
「お前、休みでも早起きだなー」
「腹が減って目が覚めたんだよ」
「まあ、でも食えたんなら良かったな」
茂がゆっくりとコーヒーを飲む。高志はゲーム画面を消してテレビ番組に戻した。特に面白くもなかったが、なんだかんだと茂と適当にコメントし合いながら結局ずっと観ていた。
茂の部屋に泊まっても、いつも朝は早めに出ていたので、今日のように一緒にゆっくりした朝を過ごすのは初めてだった。午前中はそのまま特に何をすることもなく部屋でだらだらして、お昼頃に外出した。昼食を取り、その後はそのまま街を少しぶらぶらしてから、夕方に二人は別れた。
それ以降、高志の精神状態は概ね落ち着いた。茂のおかげかもしれないし、単に時間の経過のせいかもしれない。まだ時折、淋しさや喪失感を覚えることもあるが、一時のものとしていずれ消失した。
遥香との別れは自分にとっては大きな出来事ではあったが、一方で世間では恋人との別れなどありふれていることを考えれば、自分にとっても、今回のことはやがて一つの人生経験として過去のことになっていくのだろうと思えた。ただ、これからまた同じように誰かを好きになることは今はまだ想像し難かったし、誰かにあんな風に好きになってもらえるとも思えなかった。そして、街ですれ違う見も知らぬ社会人達も、何でもない顔をしながら陰でみんなこんな経験をしているのか、などと考えた。
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