33 / 101
第11章 現在(1)
しおりを挟む第11章 現在
翌日、指定されたとおりの時間に待ち合わせ場所に向かうと、あかりはすでにそこにいた。
「こんにちは」
「……うす」
昨日の会話を忘れたかのように普段どおりに接してくるあかりに対して、高志は昨日の会話のせいで気まずい思いを拭い取ることができないままだった。
「とりあえず、二人で話ができるところに行ってもいいですか」
「任せる」
あかりが歩くままに、高志も横をついていく。並んでみて、あらためてあかりがかなり小柄なのを実感した。頭が高志の肩まで届いていない。
「昨日は色々と失礼なことを言ってすみませんでした」
「ああ」
「今日も失礼なことを言ってしまったらすみません」
「……とりあえず、俺はゲイじゃないから」
「はい、分かりました」
あかりがこちらを見上げて少し笑う。調子が狂う。
あいつは、あかりについてどんな話をしていたのだったか。確かサークル関係でどうとか、そういう感じだったと思うが、よく覚えていない。そして、あかりが誰から高志のことを聞いたのかを言わないうちに、あかりにそれを聞く訳にもいかない。
考えながら歩いていた高志は、あかりが入ろうとした建物を見て、立ち止まった。
「ここ、入るの」
「はい」
「何で」
「二人で話をするのにいいと思ったので」
それなら、カラオケボックスでも個室の居酒屋でも人気のない公園でも、他にいくらでも候補地はあるのではないか。何故、ラブホテルに。高志はしばらく立ち尽くした。
とはいえ、中で何かがあるとも思えない。自分に全くその気はないし、あかりも少なくとも腕力的に高志に何かをすることは難しいだろう。そしてあかりが突拍子もないのは、昨日で充分理解した。
結局、高志は黙ってあかりの後について中に入った。
部屋に入ると、あかりはベッド付近まで進み、荷物を置いて上着を脱いだ。高志はなるべくあかりと距離を取るようにしながら、同じように上着を脱ぎ、壁際のソファに座る。あかりは高志の方を向いて、ベッドに腰かけた。
「それで、昨日のお話の続きをしてもいいですか」
「うん」
「昨日も言ったとおり、私は小説を書いています」
「何か変なやつだろ」
あかりは面白そうに高志を見てから、「ボーイズラブです」と頷いた。
「それで、もっと書いてみなさいと言われているのですが、一つ言われたんです。もっとベッドシーンを増やした方がいいって」
高志は無意識に顔をしかめる。そのシーンも、それを書くあかりも想像したくない。
「何でそんな小説を書くんだ」
「真っ向から否定しますね」
あかりはまた面白そうに笑いながら、「人気があるんです」と答えた。
「普通に男女の恋愛を書けばいいだろ」
「藤代くんは真っ当ですね」
笑いながら言うあかりに揶揄されたように感じ、高志は口をつぐんだ。
「でも、それが男女でも、あるいは男同士でも同じで、私はそういうシーンを書くのが苦手というか下手なんです。そしてそれは主に私の理解不足に起因します」
笑顔を消し、あかりは視線を落とす。
「経験不足と言ってもいいと思います。誰かを好きになる気持ちは分かりますが、誰かに抱かれる身体的な感覚やその時の気持ちがよく分かりません」
それを聞いて、高志は昨日あかりが自分の耳元で言った言葉を思い出した。
翌日、指定されたとおりの時間に待ち合わせ場所に向かうと、あかりはすでにそこにいた。
「こんにちは」
「……うす」
昨日の会話を忘れたかのように普段どおりに接してくるあかりに対して、高志は昨日の会話のせいで気まずい思いを拭い取ることができないままだった。
「とりあえず、二人で話ができるところに行ってもいいですか」
「任せる」
あかりが歩くままに、高志も横をついていく。並んでみて、あらためてあかりがかなり小柄なのを実感した。頭が高志の肩まで届いていない。
「昨日は色々と失礼なことを言ってすみませんでした」
「ああ」
「今日も失礼なことを言ってしまったらすみません」
「……とりあえず、俺はゲイじゃないから」
「はい、分かりました」
あかりがこちらを見上げて少し笑う。調子が狂う。
あいつは、あかりについてどんな話をしていたのだったか。確かサークル関係でどうとか、そういう感じだったと思うが、よく覚えていない。そして、あかりが誰から高志のことを聞いたのかを言わないうちに、あかりにそれを聞く訳にもいかない。
考えながら歩いていた高志は、あかりが入ろうとした建物を見て、立ち止まった。
「ここ、入るの」
「はい」
「何で」
「二人で話をするのにいいと思ったので」
それなら、カラオケボックスでも個室の居酒屋でも人気のない公園でも、他にいくらでも候補地はあるのではないか。何故、ラブホテルに。高志はしばらく立ち尽くした。
とはいえ、中で何かがあるとも思えない。自分に全くその気はないし、あかりも少なくとも腕力的に高志に何かをすることは難しいだろう。そしてあかりが突拍子もないのは、昨日で充分理解した。
結局、高志は黙ってあかりの後について中に入った。
部屋に入ると、あかりはベッド付近まで進み、荷物を置いて上着を脱いだ。高志はなるべくあかりと距離を取るようにしながら、同じように上着を脱ぎ、壁際のソファに座る。あかりは高志の方を向いて、ベッドに腰かけた。
「それで、昨日のお話の続きをしてもいいですか」
「うん」
「昨日も言ったとおり、私は小説を書いています」
「何か変なやつだろ」
あかりは面白そうに高志を見てから、「ボーイズラブです」と頷いた。
「それで、もっと書いてみなさいと言われているのですが、一つ言われたんです。もっとベッドシーンを増やした方がいいって」
高志は無意識に顔をしかめる。そのシーンも、それを書くあかりも想像したくない。
「何でそんな小説を書くんだ」
「真っ向から否定しますね」
あかりはまた面白そうに笑いながら、「人気があるんです」と答えた。
「普通に男女の恋愛を書けばいいだろ」
「藤代くんは真っ当ですね」
笑いながら言うあかりに揶揄されたように感じ、高志は口をつぐんだ。
「でも、それが男女でも、あるいは男同士でも同じで、私はそういうシーンを書くのが苦手というか下手なんです。そしてそれは主に私の理解不足に起因します」
笑顔を消し、あかりは視線を落とす。
「経験不足と言ってもいいと思います。誰かを好きになる気持ちは分かりますが、誰かに抱かれる身体的な感覚やその時の気持ちがよく分かりません」
それを聞いて、高志は昨日あかりが自分の耳元で言った言葉を思い出した。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる