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第9章 二年次・5月(1)
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第9章 二年次・5月
いったん延期されたぷよぷよ大会は、その後ゴールデンウィークを挟んで5月中旬にあらためて開催された。いつもと同じように20時過ぎに高志が茂の部屋に行くと、その日は全員で座卓を囲んで、同じ形の携帯ゲーム機で何かのゲームをしていたようだった。
そちらのゲームの方が楽しいのであれば無理してぷよぷよをしなくてもよいのではないかと高志は思ったが、テレビの前には既にぷよぷよがセッティングされており、高志が夕食を終えるとまた全員で順番に対戦した。
顔を合わせるのは二回目だったが、高志にとってその集まりは居心地の悪いものではなかった。茂が話していたとおり、高志の口数が少ないことについても他の三人は特に気にする様子もなく、それぞれが好きに話したりゲームに熱中したりしながら和やかに時間を過ごした。夜は雑魚寝するものと思っていたら、終電の少し前に三人とも帰っていった。高志も一緒に帰った方が良いかと思ったが、どうせ数時間後にはまた大学に来るのだから泊まっていけと茂に言われた。
その後も思い出した頃にその会は開催され、その都度高志にも声が掛かった。依然としてどうして自分が呼ばれるのかは分からなかったが、といって決して嫌という訳ではなく、呼ばれるままに高志は部活後に茂の部屋に行った。茂以外の三人とも少しずつ気心が知れてきて、ある程度話もできるようになった。徐々にぷよぷよで対戦する時間が短くなり、その代わりに喋っているだけの時間が増えてきていた。
7月上旬のその日も、みんなで座卓を囲んで適当に飲み食いしながら、高志は聞かれるままに柔道のことについて話していた。
「で、何歳の時に始めたの?」
「よく覚えてないけど、低学年の時」
「へえ、じゃあもう十年以上やってるってこと?」
「すげえなー」
「俺らがゲームばっかやってる間、藤代くんはずっと鍛錬してたんだなあ」
「まあ、俺らもゲームで鍛錬してたけどね」
「バーチャルに鍛えてたよな」
適当な会話で適当に盛り上がっている。
「もし高校とか同じクラスでも、藤代くんとはつるんでなかっただろうなー」
山田がお菓子の小袋を開けながらそう言い、それからふと、
「そう言えば、前から不思議だったんだけど、何でキミたち仲いいの?」
と言った。
「あー、そう言えば俺もそれ聞こうと思ってた」
思っててずっと忘れてた、と伊藤が笑う。
おそらく、ジャンルが違うのに、ということが言いたいのだろう。どうしてもリア充とオタクという区分からは離れられないらしい。高校で同じクラスだったとして、仲良くなることも普通にあるだろう、と高志は思った。
「学部の新歓交流会みたいなので、たまたま隣の席だったんだよな」
茂が答える。高志も頷いた。
「そんで意気投合したの?」
「いきなり?」
「え、漫画?」
「オタクとリア充の友情もの?」
「ていうか、その次の日に藤代が、お昼一緒に食べようって誘ってくれたんだよ」
茂がそう言うと、
「へー! 何で?」
と伊藤が感心したように声を上げ、高志を見た。高志は言葉に詰まる。
「……よく覚えてないけど」
あの日、茂の姿を見かけて、考えるより先に声を掛けていたような気がする。理由を聞かれてもうまく説明ができなかった。
「まあ、最初からオタクのカミングアウトとかしないしさ」
「いや、今となっては細谷くんも片足リア充だけどなー!」
彼女いるし! と伊藤が憤慨したふりをする。
「ていうか、藤代くんがわざわざ誰か誘うっていうのがちょっと想像できない」
「あ、だよな」
「誘うとしたら細谷くんからじゃね?」
「お前、さては誘われたとか言って見栄張ってるだろ」
「張ってねえっつの」
「何で誘おうと思ったの?」
伊藤が再び高志を見て聞いてくる。
「……細谷が他の人と上手く会話してるのを見て、すごいと思ったから」
高志がそう答えると、「へー!」と他の四人が一斉に声を上げた。
「何でお前まで驚いてんだよ」
高志が茂に聞くと、
「だって知らなかったし」
と笑いながら茂が言う。
「まあ確かに、細谷くんは人懐っこいところあるよな」
水谷が何度か頷いてそう言う。
「それはあるな」
「よく喋るしな」
「それでお前、藤代くんのハートを射止めたのか」
「射止めちゃったみたい、俺」
このメンバーの会話は大体こういうノリで進んでいく。高志のリア充認定も相変わらずだった。それでももうそれほど気にならないのは、悪気がないのが分かっているからだろうか。
その日の夜も、他のメンバーはそこそこで切り上げて帰っていった。自分は少々うるさくても起きないから気にしなくていいと言ってみたが、結局また高志だけが残った。
いったん延期されたぷよぷよ大会は、その後ゴールデンウィークを挟んで5月中旬にあらためて開催された。いつもと同じように20時過ぎに高志が茂の部屋に行くと、その日は全員で座卓を囲んで、同じ形の携帯ゲーム機で何かのゲームをしていたようだった。
そちらのゲームの方が楽しいのであれば無理してぷよぷよをしなくてもよいのではないかと高志は思ったが、テレビの前には既にぷよぷよがセッティングされており、高志が夕食を終えるとまた全員で順番に対戦した。
顔を合わせるのは二回目だったが、高志にとってその集まりは居心地の悪いものではなかった。茂が話していたとおり、高志の口数が少ないことについても他の三人は特に気にする様子もなく、それぞれが好きに話したりゲームに熱中したりしながら和やかに時間を過ごした。夜は雑魚寝するものと思っていたら、終電の少し前に三人とも帰っていった。高志も一緒に帰った方が良いかと思ったが、どうせ数時間後にはまた大学に来るのだから泊まっていけと茂に言われた。
その後も思い出した頃にその会は開催され、その都度高志にも声が掛かった。依然としてどうして自分が呼ばれるのかは分からなかったが、といって決して嫌という訳ではなく、呼ばれるままに高志は部活後に茂の部屋に行った。茂以外の三人とも少しずつ気心が知れてきて、ある程度話もできるようになった。徐々にぷよぷよで対戦する時間が短くなり、その代わりに喋っているだけの時間が増えてきていた。
7月上旬のその日も、みんなで座卓を囲んで適当に飲み食いしながら、高志は聞かれるままに柔道のことについて話していた。
「で、何歳の時に始めたの?」
「よく覚えてないけど、低学年の時」
「へえ、じゃあもう十年以上やってるってこと?」
「すげえなー」
「俺らがゲームばっかやってる間、藤代くんはずっと鍛錬してたんだなあ」
「まあ、俺らもゲームで鍛錬してたけどね」
「バーチャルに鍛えてたよな」
適当な会話で適当に盛り上がっている。
「もし高校とか同じクラスでも、藤代くんとはつるんでなかっただろうなー」
山田がお菓子の小袋を開けながらそう言い、それからふと、
「そう言えば、前から不思議だったんだけど、何でキミたち仲いいの?」
と言った。
「あー、そう言えば俺もそれ聞こうと思ってた」
思っててずっと忘れてた、と伊藤が笑う。
おそらく、ジャンルが違うのに、ということが言いたいのだろう。どうしてもリア充とオタクという区分からは離れられないらしい。高校で同じクラスだったとして、仲良くなることも普通にあるだろう、と高志は思った。
「学部の新歓交流会みたいなので、たまたま隣の席だったんだよな」
茂が答える。高志も頷いた。
「そんで意気投合したの?」
「いきなり?」
「え、漫画?」
「オタクとリア充の友情もの?」
「ていうか、その次の日に藤代が、お昼一緒に食べようって誘ってくれたんだよ」
茂がそう言うと、
「へー! 何で?」
と伊藤が感心したように声を上げ、高志を見た。高志は言葉に詰まる。
「……よく覚えてないけど」
あの日、茂の姿を見かけて、考えるより先に声を掛けていたような気がする。理由を聞かれてもうまく説明ができなかった。
「まあ、最初からオタクのカミングアウトとかしないしさ」
「いや、今となっては細谷くんも片足リア充だけどなー!」
彼女いるし! と伊藤が憤慨したふりをする。
「ていうか、藤代くんがわざわざ誰か誘うっていうのがちょっと想像できない」
「あ、だよな」
「誘うとしたら細谷くんからじゃね?」
「お前、さては誘われたとか言って見栄張ってるだろ」
「張ってねえっつの」
「何で誘おうと思ったの?」
伊藤が再び高志を見て聞いてくる。
「……細谷が他の人と上手く会話してるのを見て、すごいと思ったから」
高志がそう答えると、「へー!」と他の四人が一斉に声を上げた。
「何でお前まで驚いてんだよ」
高志が茂に聞くと、
「だって知らなかったし」
と笑いながら茂が言う。
「まあ確かに、細谷くんは人懐っこいところあるよな」
水谷が何度か頷いてそう言う。
「それはあるな」
「よく喋るしな」
「それでお前、藤代くんのハートを射止めたのか」
「射止めちゃったみたい、俺」
このメンバーの会話は大体こういうノリで進んでいく。高志のリア充認定も相変わらずだった。それでももうそれほど気にならないのは、悪気がないのが分かっているからだろうか。
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