26 / 101
第8章 二年次・4月(5)
しおりを挟む
練習が終わった後、予定どおり20時過ぎに茂のアパートに着いた。食べ物は必要ないと言われていたので、少し考えて、コンビニで缶ビールや缶チューハイを数本買った。前にサークル仲間がビールを置いていったと言っていたから、多分好きなのだろう。
インターフォンを押すと、すぐに茂がドアを開けてくれたが、中から聞こえてくるはずの声や音が何故か全く聞こえてこない。妙な静けさを感じながら、高志はとりあえず靴を脱いで上がった。足元の靴の数も足りない。
「……ごめん」
居間に入ると、予想どおり、そこには誰もいなかった。後ろから茂が小さな声で言う。
「サークルのやつらには、延期してもらうように頼んだんだ」
高志が振り返ると、茂は高志を見ずに俯いて部屋の隅を見ている。
「言わなくてごめん」
「これ」
高志がコンビニ袋を差し出すと、茂は気付いたように顔を上げて受け取り、「ありがとう」と言って冷蔵庫の方に行った。
座卓の上には、買ってきたらしき惣菜や飲み物が袋のまま置かれている。茂がキッチンから戻ってきた。
「別にいいよ」
高志は座卓の前に座りながら言った。
「何か話あるんだろ」
「……うん。ごめん」
「だから、いいって」
茂も高志の斜め前に座った。袋から食料を取り出して並べる。ペットボトルのお茶をコップに注ぐ。
「とりあえず食っていいか?」
「うん」
高志は割り箸を割って、適当に惣菜を食べ始めた。練習後のこの時間は、いつもひどく腹が減っている。
「俺、お前のビールもらってもいい?」
茂が立ち上がりながら言った。「お前もいる?」
「今はいい」
ビールを手に戻ってきた茂は、座ってプルトップを開けると、何口か飲んだ。それから沈黙が気になったのか、リモコンを手にしてテレビをつけた。そのままリモコンを高志に渡す。高志は何回かチャンネルを替えた末、ニュースを選んだ。
「お前、いつもニュースとか観てんの」
「他にいいのなさそうだったから」
バラエティ番組の明るい笑い声が、今は耳に障る気がした。茂はビールを飲みながら画面を眺めている。
「お前も食えよ」
高志がそう言うと、茂は面白そうに高志の方を見て、「俺、いっつもお前にそれ言われるな」と言った。そして割り箸を割って、少しずつ食べ始めた。
そのままニュースを観、たまに二言三言話しながら、黙々と食べる。茂の話はおそらく佳代のことだろうと想像はついた。茂が話し出すまで、急かすつもりはなかった。
とりあえず空腹が満たされるまで食べると、残った料理を指して「あと頼んでいい?」と聞いてみる。茂は「うん」と言ったが、おそらく端から食べ切る気はないだろう。つまみのように、ビールを飲みながら少しずつ食べている。
授業の時、茂は高志が泊まるつもりかどうか聞いてきたから、おそらく話はある程度時間を要するのだろう。もちろん、高志も今更帰るつもりもなく、茂が必要なだけ付き合うつもりでいた。
「お前が食べてる間、シャワー借りていいか」
であれば、それ以外のことは先に済ませておいた方がいい。そう考え、茂が頷いたのを見て、高志は着替えを持ってユニットバスに向かった。
熱めのお湯で汗を洗い流す。シャンプーや石鹸などを適当に借りて体中洗う。歯も磨いた。シャワーを止め、ひとまず体を拭いたが、湯気の充満した中で服を着る気になれない。前は茂のサークル仲間がいたから仕方なく着たが、今日は茂しかいないので気を遣う必要もないかと思った。下だけ履き、上半身は肩からタオルを被って外に出る。
インターフォンを押すと、すぐに茂がドアを開けてくれたが、中から聞こえてくるはずの声や音が何故か全く聞こえてこない。妙な静けさを感じながら、高志はとりあえず靴を脱いで上がった。足元の靴の数も足りない。
「……ごめん」
居間に入ると、予想どおり、そこには誰もいなかった。後ろから茂が小さな声で言う。
「サークルのやつらには、延期してもらうように頼んだんだ」
高志が振り返ると、茂は高志を見ずに俯いて部屋の隅を見ている。
「言わなくてごめん」
「これ」
高志がコンビニ袋を差し出すと、茂は気付いたように顔を上げて受け取り、「ありがとう」と言って冷蔵庫の方に行った。
座卓の上には、買ってきたらしき惣菜や飲み物が袋のまま置かれている。茂がキッチンから戻ってきた。
「別にいいよ」
高志は座卓の前に座りながら言った。
「何か話あるんだろ」
「……うん。ごめん」
「だから、いいって」
茂も高志の斜め前に座った。袋から食料を取り出して並べる。ペットボトルのお茶をコップに注ぐ。
「とりあえず食っていいか?」
「うん」
高志は割り箸を割って、適当に惣菜を食べ始めた。練習後のこの時間は、いつもひどく腹が減っている。
「俺、お前のビールもらってもいい?」
茂が立ち上がりながら言った。「お前もいる?」
「今はいい」
ビールを手に戻ってきた茂は、座ってプルトップを開けると、何口か飲んだ。それから沈黙が気になったのか、リモコンを手にしてテレビをつけた。そのままリモコンを高志に渡す。高志は何回かチャンネルを替えた末、ニュースを選んだ。
「お前、いつもニュースとか観てんの」
「他にいいのなさそうだったから」
バラエティ番組の明るい笑い声が、今は耳に障る気がした。茂はビールを飲みながら画面を眺めている。
「お前も食えよ」
高志がそう言うと、茂は面白そうに高志の方を見て、「俺、いっつもお前にそれ言われるな」と言った。そして割り箸を割って、少しずつ食べ始めた。
そのままニュースを観、たまに二言三言話しながら、黙々と食べる。茂の話はおそらく佳代のことだろうと想像はついた。茂が話し出すまで、急かすつもりはなかった。
とりあえず空腹が満たされるまで食べると、残った料理を指して「あと頼んでいい?」と聞いてみる。茂は「うん」と言ったが、おそらく端から食べ切る気はないだろう。つまみのように、ビールを飲みながら少しずつ食べている。
授業の時、茂は高志が泊まるつもりかどうか聞いてきたから、おそらく話はある程度時間を要するのだろう。もちろん、高志も今更帰るつもりもなく、茂が必要なだけ付き合うつもりでいた。
「お前が食べてる間、シャワー借りていいか」
であれば、それ以外のことは先に済ませておいた方がいい。そう考え、茂が頷いたのを見て、高志は着替えを持ってユニットバスに向かった。
熱めのお湯で汗を洗い流す。シャンプーや石鹸などを適当に借りて体中洗う。歯も磨いた。シャワーを止め、ひとまず体を拭いたが、湯気の充満した中で服を着る気になれない。前は茂のサークル仲間がいたから仕方なく着たが、今日は茂しかいないので気を遣う必要もないかと思った。下だけ履き、上半身は肩からタオルを被って外に出る。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる