続・偽りとためらい

立石 雫

文字の大きさ
上 下
28 / 54

第6章 9月-自覚(4)

しおりを挟む
 ふと目を覚ますと、停止した車の中だった。
 知らない間に眠ってしまっていたらしい。外はもう真っ暗で、隣の運転席に茂の姿はなかった。空調を維持するため、エンジンはかかったままになっている。
 エンジンを切ってから外に出ると、そこはサービスエリアだった。見たことのある光景から、おそらく淡路SAだろうと思われた。ちょうど目の前にトイレの入口がある。探すまでもなく、その横のベンチに座ってスマホを触っている茂がいた。近付く高志の足音に気付いて、顔を上げる。
 そして、見慣れたきれいな笑顔を高志に向けてきた。
「なあ。よく考えたらさ、こっちって明石大橋と反対側の車線だよな」
 今度は俺がコーヒー買ってやろうと思ったのに、と言って、茂が笑う。
「――」
 心の中に、もう何度も味わった情動がまた湧き上がる。自分の中に確かに存在する、茂に対する恋情。愛しさ。数時間前までは必死に押し殺すしかなかったそれらを、しかしその時、高志は何故か素直に受け止めることができた。高志は自然と微笑んでいた。
 そして、このサービスエリアはこちら側から明石大橋の見える側に移動することができると茂に伝えた。

 淡路島から再び明石大橋を渡って地元まで戻ってきた後、茂とは高志の家の最寄り駅で別れた。
 駅前のロータリーに一時停車し、運転席から降りた茂が、じゃあな、と手を振って駅に入っていく。それを見送った高志は、茂の降りた運転席に乗り込み、車を返すために実家に向かった。
 帰宅すると、ちょうど家族が全員リビングに集まっていた。
「おかえり。遅かったね」
「うん」
「ご飯は?」
「食ってきた」
 テレビを観ていた父親にETCカードを返してから、高志はテーブルの上に買ってきたお土産を置いた。父親への地酒は半分は茂が負担したことも伝える。それから家用の讃岐うどんを取り出すと、案の定、妹が不平の声を上げた。
「うどん以外でって言ったのに」
「だから、細谷がお前にって、これ」
 道の駅で高志がうどんを買うのを見て、茂が笑いながら代わりに買ってくれたお菓子の箱を差し出すと、妹は「え」と少し驚きながら受け取る。
「……イケメンからお土産もらっちゃった」
 それを見ていた母親が父親に話し掛ける。
「ほらほら、ね、ちゃんとしてる子でね。昨日のロールケーキもわざわざ持って来てくれたのよ、お礼にって」
「そうか。かえって気を遣わせてしまって悪かったな」
「あいつってイケメン?」
 高志がそう聞くと、何故か全員からの注目を受ける。
「え、普通にイケメンでしょ。優しそうだし、モテるんじゃない?」
「モテそうよねえ。好青年って感じで」
 妹と母親が立て続けにそう言う。
「……ああ、モテてた」
 高志はそう答え、そのまま立ち上がった。それを見て母親が声を上げる。
「あら、もう帰るの?」
「うん。もう遅いし」
「ちょっと、それならすぐにおかず詰めるから。持って帰りなさい」
 母親が慌ててキッチンの方に行く。きっとあらかじめ多く作っておいてくれたのだろう。
 そうして渡されたたくさんのタッパーと共に、高志はマンションへと戻った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

処理中です...