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第5章 9月-旅行(5)
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その後、下道に降りて、海岸沿いの道を南に向かって走った。天気が良かったので、途中で適当に車を停めて、砂浜で少し遊んだりもした。
何も決めていない気ままな旅は、大人になった今では逆に新鮮に思えて何だか楽しい。高志だけでなく、茂も楽しんでいるように見えた。淡路島には何度も来ている高志にとっては、その風景よりも、風景の中にいる茂の存在の方が物珍しく貴重なもののように思えた。
結局、道の駅に着いたのはお昼をかなり過ぎていたが、それでも名物のあわじ島バーガーを販売しているレストランはそこそこ混んでいて、店内にも外のテラス席にもかなりの人が座っていた。二人も少し並んでから、それぞれ好きなものを注文する。
一足先に注文を終えた高志は、邪魔にならない場所に移動した。自分に続いて注文している茂が笑顔を浮かべて店員と話しているのを見ながら、接客する側もああいう客だったら悪い気はしないんだろうな、と高志はいつものように感心する。精算を終え、何か言う店員に微笑んで頷きながら番号を受け取った茂が、高志の方に来た。
レストランの横にある展望台からは、すぐ近くに鳴門大橋が大きく見えている。待っている間にそちら側に行ってみた。
「ここも近くから見られるんだな」
茂が感心したように言った後、ふと思いついたように、
「なあ。帰りさ、ぐるっと回って瀬戸大橋を渡ってみるとかは?」
と言った。
「ああ、俺もそれ考えて、父親に昨日聞いてみたんだけどさ。瀬戸大橋はいいんだけど、その後の広島からの高速が相当長くて、しかもごく普通の高速だからつまらないだろうって言ってた」
「あ、そうなんだ」
三大橋の制覇も面白そうだったけどな、と茂が笑う。
「しまなみ海道っていったら向こうは向こうで見どころたくさんありそうだし、ただ通るだけだと勿体ないかもな」
「そうだな。また次の機会だなー」
茂はそう言ったが、それが自分とのことを言っているのか、誰か他の人間を想定しているのかが分からず、高志は黙って頷くに留めた。
再び鳴門大橋を眺める茂を、高志はいつの間にかまた横から見ていた。再会してから、茂を見るとどうしても何か心に引っかかるものがある気がするのに、それが何か未だに分からない。再会後に何度か会った時には仕事帰りの服装だったが、今日の茂はカジュアルな普段着で、それは高志のよく知っている大学時代の茂と同じだった。それなのにやはり何故か、昔とは何かが違う気がする。何だろう。目に入る、見慣れた柔らかい表情の顔。少し猫背気味の肩。
そうして見つめていたその横顔が、ふと何かを言おうと高志の方を向く。そして高志の視線に気付いて、苦笑した。
「お前な、俺じゃなくて橋を見ろって」
視線を逸らすタイミングを失った高志は、ごまかすのを諦めた。
「悪い」
「何? まだ何か違和感あんの?」
「うん」
「へえ。何だろうな。社会人になったせい? でも藤代はそんなに変わった感じしないけどなあ」
そう言って首をかしげると茂はまた橋の方に向き直ったが、その顔からは笑顔が消えていて、高志は一瞬不安になった。
「ごめん。不愉快だったか」
その言葉に、茂が驚いたようにもう一度こちらを見る。
「え? 別に。お前が人の顔をじっと見るのは、昔からだろ」
その時、茂は顔では笑っていても本当に何を考えているかは分からない人間だということを唐突に思い出した。自分は何を油断していたのだ、と思う。一度は関係を切られた身なのに。
高志の表情を見て、更に茂が何かを言おうとしたが、自分達の番号が呼ばれるのが聞こえたため、会話は宙に浮いた。
そのままレストランの受渡し口まで取りに行き、空いていたベンチに座って名物のハンバーガーを食べた。もうお互いにさっきの話に触れることはなかった。
何も決めていない気ままな旅は、大人になった今では逆に新鮮に思えて何だか楽しい。高志だけでなく、茂も楽しんでいるように見えた。淡路島には何度も来ている高志にとっては、その風景よりも、風景の中にいる茂の存在の方が物珍しく貴重なもののように思えた。
結局、道の駅に着いたのはお昼をかなり過ぎていたが、それでも名物のあわじ島バーガーを販売しているレストランはそこそこ混んでいて、店内にも外のテラス席にもかなりの人が座っていた。二人も少し並んでから、それぞれ好きなものを注文する。
一足先に注文を終えた高志は、邪魔にならない場所に移動した。自分に続いて注文している茂が笑顔を浮かべて店員と話しているのを見ながら、接客する側もああいう客だったら悪い気はしないんだろうな、と高志はいつものように感心する。精算を終え、何か言う店員に微笑んで頷きながら番号を受け取った茂が、高志の方に来た。
レストランの横にある展望台からは、すぐ近くに鳴門大橋が大きく見えている。待っている間にそちら側に行ってみた。
「ここも近くから見られるんだな」
茂が感心したように言った後、ふと思いついたように、
「なあ。帰りさ、ぐるっと回って瀬戸大橋を渡ってみるとかは?」
と言った。
「ああ、俺もそれ考えて、父親に昨日聞いてみたんだけどさ。瀬戸大橋はいいんだけど、その後の広島からの高速が相当長くて、しかもごく普通の高速だからつまらないだろうって言ってた」
「あ、そうなんだ」
三大橋の制覇も面白そうだったけどな、と茂が笑う。
「しまなみ海道っていったら向こうは向こうで見どころたくさんありそうだし、ただ通るだけだと勿体ないかもな」
「そうだな。また次の機会だなー」
茂はそう言ったが、それが自分とのことを言っているのか、誰か他の人間を想定しているのかが分からず、高志は黙って頷くに留めた。
再び鳴門大橋を眺める茂を、高志はいつの間にかまた横から見ていた。再会してから、茂を見るとどうしても何か心に引っかかるものがある気がするのに、それが何か未だに分からない。再会後に何度か会った時には仕事帰りの服装だったが、今日の茂はカジュアルな普段着で、それは高志のよく知っている大学時代の茂と同じだった。それなのにやはり何故か、昔とは何かが違う気がする。何だろう。目に入る、見慣れた柔らかい表情の顔。少し猫背気味の肩。
そうして見つめていたその横顔が、ふと何かを言おうと高志の方を向く。そして高志の視線に気付いて、苦笑した。
「お前な、俺じゃなくて橋を見ろって」
視線を逸らすタイミングを失った高志は、ごまかすのを諦めた。
「悪い」
「何? まだ何か違和感あんの?」
「うん」
「へえ。何だろうな。社会人になったせい? でも藤代はそんなに変わった感じしないけどなあ」
そう言って首をかしげると茂はまた橋の方に向き直ったが、その顔からは笑顔が消えていて、高志は一瞬不安になった。
「ごめん。不愉快だったか」
その言葉に、茂が驚いたようにもう一度こちらを見る。
「え? 別に。お前が人の顔をじっと見るのは、昔からだろ」
その時、茂は顔では笑っていても本当に何を考えているかは分からない人間だということを唐突に思い出した。自分は何を油断していたのだ、と思う。一度は関係を切られた身なのに。
高志の表情を見て、更に茂が何かを言おうとしたが、自分達の番号が呼ばれるのが聞こえたため、会話は宙に浮いた。
そのままレストランの受渡し口まで取りに行き、空いていたベンチに座って名物のハンバーガーを食べた。もうお互いにさっきの話に触れることはなかった。
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