15 / 54
第4章 8月-再会(8)
しおりを挟む
翌日の土曜日は、約束どおり希美と会った。今日は高志の部屋に泊まる予定もないため、お昼過ぎに駅で待ち合わせ、そのまま街をぶらつくことにする。どこか行きたいところがあるか聞くと、希美は商業ビルの高層階にある有名な展望台に行ってみたいと言った。この辺りではメジャーな観光スポットとなっているが、地元出身の希美はまだ行ったことがないらしかった。
「高志くんは行ったことある?」
駅から十数分の道のりを歩きながら、希美が手を繋いでくる。
「何年か前に一回行ったかな」
「それって、も」
言いかけた言葉を、希美が慌てて飲み込む気配がしたので、高志は思わず笑った。
「そう、元カノと」
「……ごめん」
「俺は別にいいけど。そっちが嫌じゃないなら」
「普通はそうだよねー。つい聞いちゃうけど、別に意味はないの。ごめんね」
行き交う外国人観光客もちらほらと目に入る中、やがて二人は目的のビルに着いた。中に入り、展望階に上がる。360度見渡せるこの空中庭園からは、周りに広がるビル群やその間を通る広い河川が見下ろせた。ゆっくりと回りながら、眼下の景色を見て回る。
「会社、見えるかなあ?」
希美に言われて、毎日通っている本社ビルを二人で探してみたが、よく分からなかった。
しばらく楽しんだ後、また下りのエレベーターに乗って地上に降りる。
「私も今度、大学時代の友達と会うことになったんだ」
ビルを出て、来た道を戻りながら、希美が楽しそうな声で話し出した。
「高志くんの話聞いてたら、私も会いたくなって」
「そうなんだ。久し振りに?」
「うん、卒業してから初めて。でね、今度の金曜日にみんなでご飯行くことになったから、できればまた来週も土曜か日曜にしてもらってもいい?」
「あ、ごめん。次の土日、ちょっと駄目なんだ」
希美に話そうと思っていたのに、忘れていた。
「来週、旅行に行くことになって」
「え? 旅行?」
「そう、昨日いきなり決まったんだ。ごめん、言うの忘れてた」
「友達と?」
「え、うん。前に話したやつ。昨日うちに来た」
「そうなんだ」
希美が心なしか怪訝な顔をしている。さすがに三週連続で同じ友達に会い、しかも今度は旅行というのは、少し妙に思えるのかもしれない。
「ほんとに仲いいんだね」
「いや、大学の時、そいつと卒業旅行しようって言ってたんだけど……色々あって、結局行けなかったから」
何故か少し言い訳するように高志は話した。話しながら、居心地の悪さを感じてしまう。
「だから何か、話してるうちに行くことになって」
「そうなんだね。どこに行くの?」
希美が、再び明るい口調で聞いてくる。内心ほっとしながら、高志も答えた。
「あ、四国。うどん食いに」
「へえ、楽しそう。車で?」
「うん」
下りのエレベーターの中で一度離した手を、思い出したように希美が再び繋いできた。
「その友達って、どんな人?」
おそらく希美は本当に知りたいというよりは単に会話を繋ぐために聞いたのだろうが、高志は一瞬だけ言葉に詰まった。いろんな感情が心の中で入り混じる。茂について一言では表現できそうにない難しさ。茂のことに軽々しく触れられたくないというかすかな不快感。茂を思い出すことで生じる懐かしさのような親しみ。
「何か……いっつも笑ってるやつ」
高志がそう答えた時、ふいに繋いだ手が後ろに引っ張られた。振り返ると、希美が立ち止まって高志を見つめている。
「どうかした?」
高志が問いかけると、希美は首を振ってから再び歩き出し、高志の横に並ぶ。高志もそれに合わせてまた前へと歩を進めた。
「何?」
「……ううん」
しばらく沈黙が続く。理解しにくい希美の反応に、高志は少しだけその空気を持て余した。
「その友達って……もしかして女の子?」
「は?」
やがて口にした希美の疑問は、高志には予想もつかないものだった。
「何で。男だよ」
「あは……そっか、ごめん」
俯く希美の無理やり作った笑顔を見ながら、「何でそう思うの」と聞いてみると、ややあってから、
「……『よく笑う子』って言ってたから」
と答えが返ってきた。
「ああ。男だけど、何かよく笑うやつなんだよ」
高志がそう言うと、希美はまた無理に笑う。
「そうなんだ。何かちょっと勘違いしちゃった。ごめんね」
希美の言葉の本当の意味に気付かないまま、高志は頷き、その場の空気を変えるように大学時代の友人について話し始めた希美の言葉に耳を傾けた。
「高志くんは行ったことある?」
駅から十数分の道のりを歩きながら、希美が手を繋いでくる。
「何年か前に一回行ったかな」
「それって、も」
言いかけた言葉を、希美が慌てて飲み込む気配がしたので、高志は思わず笑った。
「そう、元カノと」
「……ごめん」
「俺は別にいいけど。そっちが嫌じゃないなら」
「普通はそうだよねー。つい聞いちゃうけど、別に意味はないの。ごめんね」
行き交う外国人観光客もちらほらと目に入る中、やがて二人は目的のビルに着いた。中に入り、展望階に上がる。360度見渡せるこの空中庭園からは、周りに広がるビル群やその間を通る広い河川が見下ろせた。ゆっくりと回りながら、眼下の景色を見て回る。
「会社、見えるかなあ?」
希美に言われて、毎日通っている本社ビルを二人で探してみたが、よく分からなかった。
しばらく楽しんだ後、また下りのエレベーターに乗って地上に降りる。
「私も今度、大学時代の友達と会うことになったんだ」
ビルを出て、来た道を戻りながら、希美が楽しそうな声で話し出した。
「高志くんの話聞いてたら、私も会いたくなって」
「そうなんだ。久し振りに?」
「うん、卒業してから初めて。でね、今度の金曜日にみんなでご飯行くことになったから、できればまた来週も土曜か日曜にしてもらってもいい?」
「あ、ごめん。次の土日、ちょっと駄目なんだ」
希美に話そうと思っていたのに、忘れていた。
「来週、旅行に行くことになって」
「え? 旅行?」
「そう、昨日いきなり決まったんだ。ごめん、言うの忘れてた」
「友達と?」
「え、うん。前に話したやつ。昨日うちに来た」
「そうなんだ」
希美が心なしか怪訝な顔をしている。さすがに三週連続で同じ友達に会い、しかも今度は旅行というのは、少し妙に思えるのかもしれない。
「ほんとに仲いいんだね」
「いや、大学の時、そいつと卒業旅行しようって言ってたんだけど……色々あって、結局行けなかったから」
何故か少し言い訳するように高志は話した。話しながら、居心地の悪さを感じてしまう。
「だから何か、話してるうちに行くことになって」
「そうなんだね。どこに行くの?」
希美が、再び明るい口調で聞いてくる。内心ほっとしながら、高志も答えた。
「あ、四国。うどん食いに」
「へえ、楽しそう。車で?」
「うん」
下りのエレベーターの中で一度離した手を、思い出したように希美が再び繋いできた。
「その友達って、どんな人?」
おそらく希美は本当に知りたいというよりは単に会話を繋ぐために聞いたのだろうが、高志は一瞬だけ言葉に詰まった。いろんな感情が心の中で入り混じる。茂について一言では表現できそうにない難しさ。茂のことに軽々しく触れられたくないというかすかな不快感。茂を思い出すことで生じる懐かしさのような親しみ。
「何か……いっつも笑ってるやつ」
高志がそう答えた時、ふいに繋いだ手が後ろに引っ張られた。振り返ると、希美が立ち止まって高志を見つめている。
「どうかした?」
高志が問いかけると、希美は首を振ってから再び歩き出し、高志の横に並ぶ。高志もそれに合わせてまた前へと歩を進めた。
「何?」
「……ううん」
しばらく沈黙が続く。理解しにくい希美の反応に、高志は少しだけその空気を持て余した。
「その友達って……もしかして女の子?」
「は?」
やがて口にした希美の疑問は、高志には予想もつかないものだった。
「何で。男だよ」
「あは……そっか、ごめん」
俯く希美の無理やり作った笑顔を見ながら、「何でそう思うの」と聞いてみると、ややあってから、
「……『よく笑う子』って言ってたから」
と答えが返ってきた。
「ああ。男だけど、何かよく笑うやつなんだよ」
高志がそう言うと、希美はまた無理に笑う。
「そうなんだ。何かちょっと勘違いしちゃった。ごめんね」
希美の言葉の本当の意味に気付かないまま、高志は頷き、その場の空気を変えるように大学時代の友人について話し始めた希美の言葉に耳を傾けた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。

早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる