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第15章 圭一の部屋3
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「――圭一」
「ん?」
「さっきの、もう一回」
旭が再び圭一の胸に体を寄せると、戸惑ったような数秒の間の後に、圭一の腕が再び背中に回った。
「……俺は、こうしてもらうのが好き」
「まじ?」
「うん」
「……彼女としてたってこと?」
「してない」
少しだけ、圭一の腕に力がこもる。
「じゃあ……俺もこれ好きだから、俺と付き合ってくれたら、いつでもするけど」
「あと、名前で呼ばれたい」
「まじか。俺も、前からお前のこと名前で呼びたかった」
「そうなの? じゃあ何で呼ばなかったんだよ」
「……もし付き合えたら、その時に呼ぼうって思ってた」
「ふうん」
同じ圭一のことなのに、別の人の裏話を聞いているような気になる。あの頃の圭一も心の中ではそんな風に思っていたのかと思うと不思議な感じがする。
「お前はさ、キスが好きだよな」
「え、いや、したことないし」
「でも好きだろ?」
「まあ……好きかもしれないけど」
「だよな」
「お前とするなら好きだと思う」
「じゃあ、する?」
旭が体を起こしてそう言うと、圭一は「えっ」と声を上げる。
「……何で?」
「何で?」
「嫌じゃないのか」
圭一の顔を真正面から見る。旭がもう全て受け入れていることをまだ知らない顔。悩む必要のないことを悩んでいる顔。
俺がちゃんと好きだと伝えたら、お前はもうそんな顔をしなくて済むんだろうな。自分だけが安堵を覚えていることに引け目を感じながら、旭はそう考えた。
でも、今はまだ言いたくない。今はまだ、お前から好きだって言われたい。だから。
ごめん。
「……キスしてくれたら、付き合う」
旭がそれだけ言うと、圭一は一度強く口を引き結んだ。それから、おそるおそる顔を近付けてきた。ごく浅く唇をつける。これで三回目のファーストキス。
いつものように圭一は遠慮がちに触れてくる。旭の気持ちが分からないから、旭がいつでも逃げられるように一歩引いている。
――もし、圭一が旭との関係に葛藤し続けているのだとしたら。
また、いつか忘れてしまうんだろうか。旭とのことを。
次にそうなった時に自分はどうなってしまうのかと考えて、旭はあらためて怖くなった。この先もっと圭一を好きになったら、次はもっと苦しいんじゃないのか。今でももうこんなに苦しかったのに。
もう忘れられたくないと思うのに、どうすればいいのか分からない。それでもこの関係を手放したくない。今まであんなに何度もキスしたのに、それをすべて忘れて唇を触れ合わせる圭一のぎこぎなさが切なかった。頭の中の記憶だけでなく、唇の感触や回数を重ねた二人の呼吸も全て失われてしまっているようだった。浅く短く触れて、すぐに唇は離れた。
「もう一回」
思わずそう言うと、圭一は一拍静止した後、無言でまた近付いてきた。旭は唇を軽く開いて待ち受ける。触れた唇はまたすぐ離れる。
「……もう一回」
早く追いついてきてほしい、旭の知っているところまで。
言わなくても求めてきてほしい、圭一の方から。
「もう一回――」
徐々に圭一の動きから躊躇いがなくなってくる。無意識のうちに旭は圭一の後頭部を掴んでいた。そうして圭一の顔が離れる度にまたすぐ引き寄せる。圭一の呼吸が速くなってきているのが分かった。そう、そうやってもっと――
「……旭」
やがて圭一の湿った舌が触れると、旭は夢中になって自分から舌を絡めていった。
「ん?」
「さっきの、もう一回」
旭が再び圭一の胸に体を寄せると、戸惑ったような数秒の間の後に、圭一の腕が再び背中に回った。
「……俺は、こうしてもらうのが好き」
「まじ?」
「うん」
「……彼女としてたってこと?」
「してない」
少しだけ、圭一の腕に力がこもる。
「じゃあ……俺もこれ好きだから、俺と付き合ってくれたら、いつでもするけど」
「あと、名前で呼ばれたい」
「まじか。俺も、前からお前のこと名前で呼びたかった」
「そうなの? じゃあ何で呼ばなかったんだよ」
「……もし付き合えたら、その時に呼ぼうって思ってた」
「ふうん」
同じ圭一のことなのに、別の人の裏話を聞いているような気になる。あの頃の圭一も心の中ではそんな風に思っていたのかと思うと不思議な感じがする。
「お前はさ、キスが好きだよな」
「え、いや、したことないし」
「でも好きだろ?」
「まあ……好きかもしれないけど」
「だよな」
「お前とするなら好きだと思う」
「じゃあ、する?」
旭が体を起こしてそう言うと、圭一は「えっ」と声を上げる。
「……何で?」
「何で?」
「嫌じゃないのか」
圭一の顔を真正面から見る。旭がもう全て受け入れていることをまだ知らない顔。悩む必要のないことを悩んでいる顔。
俺がちゃんと好きだと伝えたら、お前はもうそんな顔をしなくて済むんだろうな。自分だけが安堵を覚えていることに引け目を感じながら、旭はそう考えた。
でも、今はまだ言いたくない。今はまだ、お前から好きだって言われたい。だから。
ごめん。
「……キスしてくれたら、付き合う」
旭がそれだけ言うと、圭一は一度強く口を引き結んだ。それから、おそるおそる顔を近付けてきた。ごく浅く唇をつける。これで三回目のファーストキス。
いつものように圭一は遠慮がちに触れてくる。旭の気持ちが分からないから、旭がいつでも逃げられるように一歩引いている。
――もし、圭一が旭との関係に葛藤し続けているのだとしたら。
また、いつか忘れてしまうんだろうか。旭とのことを。
次にそうなった時に自分はどうなってしまうのかと考えて、旭はあらためて怖くなった。この先もっと圭一を好きになったら、次はもっと苦しいんじゃないのか。今でももうこんなに苦しかったのに。
もう忘れられたくないと思うのに、どうすればいいのか分からない。それでもこの関係を手放したくない。今まであんなに何度もキスしたのに、それをすべて忘れて唇を触れ合わせる圭一のぎこぎなさが切なかった。頭の中の記憶だけでなく、唇の感触や回数を重ねた二人の呼吸も全て失われてしまっているようだった。浅く短く触れて、すぐに唇は離れた。
「もう一回」
思わずそう言うと、圭一は一拍静止した後、無言でまた近付いてきた。旭は唇を軽く開いて待ち受ける。触れた唇はまたすぐ離れる。
「……もう一回」
早く追いついてきてほしい、旭の知っているところまで。
言わなくても求めてきてほしい、圭一の方から。
「もう一回――」
徐々に圭一の動きから躊躇いがなくなってくる。無意識のうちに旭は圭一の後頭部を掴んでいた。そうして圭一の顔が離れる度にまたすぐ引き寄せる。圭一の呼吸が速くなってきているのが分かった。そう、そうやってもっと――
「……旭」
やがて圭一の湿った舌が触れると、旭は夢中になって自分から舌を絡めていった。
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