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第14章 川沿いの道

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「……っ」
 嗚咽が出ないように全身に力を込める。涙が出ないように瞼に力を込める。それでもどうしても胸の辺りが震え出して、吐く息も少し震えた。前髪を引っ張って、無意識に顔を隠す。
「――黒崎」
 圭一の困惑が声に表れている。それはそうだ。訳も分からないままに避けられて、怒鳴られて、泣かれて。圭一は何も悪くないのに。
「ごめん」
 旭は片手で顔を覆い、手探りで鞄を持った。
「……帰る」
「えっ。いや、待って」
 立ち上がった旭を止めようとした圭一に、咄嗟に足首を掴まれた。腕に届かなかったのだろう。
「ごめん、俺が言い過ぎた。ちょっと待って」
 圭一の手が、旭の手から鞄を取り上げる。そしてその手を引っ張って、目を閉じたままの旭をもう一度座らせようとする。引かれるがままに旭は床に膝をついた。
「俺が悪かった。ごめん」
「――」
 握られたままの手首から伝わってくる熱が、圭一の温かい体を思い出させる。このまま前に倒れ込めば、優しく抱き締めてくれただろう――あの頃の圭一なら。
「俺が、何か勝手に決めつけてた? それでむかついてた?」
 違う、という言葉は息が洩れただけで声にならなかったが、それでも圭一には伝わったみたいだった。
「ちが、分かった。言わなくていいから、もう泣くなって」
 慌ててそう言う声と共に、頭を撫でられる。宥めるように、ぽんぽんと軽くたたかれる。
「ごめんな」
 俯いて前に落ちた旭の髪を、圭一がかき上げた。そしてそのまま、指で旭の髪を梳く。その感触はあの頃と同じだった。優しく、愛おしむように。

 『それ、好きだな』。
 問うた旭に、優しく答えた圭一の声。
――うん。手触りが気持ちいい。

 気付けば、旭は圭一の胸に飛び込んでいた。
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