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第12章 圭一の部屋2

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 背中に触れていた手がTシャツの裾をくぐり、初めて旭の素肌に触れる。人に触られる時だけ異様に敏感になる場所を撫でられ、旭は思わず息を詰めた。呼吸を止めて全身に力を込め、くすぐったいようなその感覚に耐える。
 何度も背中を撫でた後、圭一の手が下に降りてベルトの隙間に入り込もうとする。指先が割れ目に届くか届かないかのところでまた引き返す。その手が今度は服の上から旭の臀部を掴んだ。形を確かめるようにその凹凸に手を這わせる。もう片方の手はTシャツの中で脇腹を下から上へとゆっくりと撫で上げる。やがて親指が小さな乳首をくすぐった。
「……っ」
 声が出そうになるのをぐっと耐える。押しつぶすように強く撫でられ、二本の指でつままれてこりこりとこねられた。ぞわぞわと不安のような羞恥に襲われる。圭一が自分を性的対象として見ているのだということを、初めて頭ではなく肌で実感した。首筋に湿った感触と共に歯があたり、捕食されているような錯覚がする。旭は知らない間に圭一の服を握りしめていた。
 やがて圭一が体を離し、旭のTシャツを脱がせようとする。その目は様子をうかがうように絶えず旭の顔を捉えていて、旭は目を逸らすように顔を伏せた。たくしあげられた布が首から抜かれる。そうして現れた旭の半裸の体を、圭一はゆっくりとベッドの上に押し倒した。圭一の手が旭のベルトに掛かる。ベルトの次にボタンを外し、前を寛げようとする。今から圭一の目に晒される場所。そこを見られて、触られて、それから――
「……け、いち」
 やっとのことで絞り出した声は、震えて途切れた。圭一は顔を上げたが、旭の表情を見てばっと手を離した。
「っ、ごめ」
「……カーテン閉めてもいい……?」
「え……?」
 約一秒かけて旭の言葉の意味を理解した圭一は、次の瞬間飛び降りるようにベッドから離れ、足早に窓のそばまで行ってカーテンを引いた。更にドアの方に行って部屋の照明も消す。完全に光を遮るまでには至らなかったが、それでも旭の羞恥を和らげる程度には暗くなった。
「……大丈夫か」
 ドアの近くに立ち尽くしたまま、圭一が声を掛けてくる。旭は頷いたが、もしかしたら見えないかもしれないと気付いて、「うん」と言った。
 圭一は再びベッドのそばまで来た後、自らTシャツを脱ぎ、更に履いていたデニムも脱いで下着一枚になった。
「……旭」
 ぎし、と膝でベッドの上に乗る。
「脱がせていいか」
「……うん」
 その声を聞いて、再び圭一の手が服に掛かる。旭は軽く腰を浮かせた。圭一のように下着姿にされるものと思っていた旭は、そこが空気に触れる感覚で、全て脱がされたことに気付いた。
「――」
 無意識に隠そうと両脚をすり合わせる。足元にいた圭一が、四つん這いになって旭に覆い被さり、顔を覗き込んでくる。曲げた膝がふと圭一の下半身にあたった時、薄い布越しに伝わってきたその形状と硬さは旭の予想を超えていた。
「旭」
 言葉を失ってただ見上げるだけの旭の頬を手のひらで包み、圭一があらためて唇を重ねてくる。
 そろそろ自分の許容範囲を越えつつあるこの状況に、旭は全てを理解しようとするのを放棄した。そして目を閉じて、世界を遮断した。
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