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第11章 USJ
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結局、USJに行けたのは夏休みの終盤だった。旭のバイト代が振り込まれるのが意外に遅かったからだ。圭一がお盆に祖父母からもらうお小遣いを当てにしていたように、旭も田舎でお小遣いをもらえたのだけど、何となく、せっかくだから自分で稼いだお金でUSJに行きたかった。夕食くらいは圭一にご馳走しようとも思っていた。
まだまだ残暑が厳しい頃だったが、当日は早めに家を出て開場とともに入り、乗れるだけのアトラクションに乗った。案の定、目的の期間限定アトラクションは長蛇の列で二時間以上並んだが、圭一と喋りながら待っていればそれほど苦痛でもなかった。
「あんなに並んだのに、あっという間だったなー」
「でもまじ乗ってるみたいだったな。4Dすげえ」
「墜落ん時の衝撃とかな」
「声がそのまんまだっただろ! あれやばいな」
「あの血が出るとこ、まじで顔にかかったの、思わずよけたわ」
並んだ時間に比してすぐに終わってしまった感のあるアトラクションだったが、それでも興奮しながら感想を話し合う。連載中からずっと一緒に読んでいた漫画だったから、余計に話が弾んだ。
ふと、出てすぐのところに漫画の主要キャラの等身大像が並んでいるのが目に入った。写真を取ろうと何組かが順番待ちしている。圭一が指をさして聞いてくる。
「あれ、撮る?」
「あ、撮りたい」
「OK」
手を差し出す圭一に、旭は自分のスマホを渡した。カメラアプリを立ち上げておく。
「お前は?」
「んじゃ俺も後で撮って」
順番が来て、まず旭がキャラの横に立つ。何枚か撮ってもらった後、圭一と交代した。
――どうせなら、二人で撮ってもいいんだけどな。
撮り終わった後、何となくそう思った旭の心を読んだかのように、圭一が「旭、こっち」とアトラクションの看板前に旭を引っ張っていった。
「写真?」
「うん」
看板を背にして並んで立つ。圭一がスマホをフロントカメラに切り替え、ぐっと手を伸ばした。圭一の顔が頬に触れるくらいの距離まで近付き、少しだけどきっとする。圭一の指がボタンを押した後、保存された画像をいったん二人で確認する。
「もう一枚な」
そう言って圭一が再び腕を伸ばすので、旭はまた目の前のスマホに視線を合わせた。肩に手が回され、再び顔が近付いたと思ったら、今度は頬に唇が押し付けられた。同時にボタンが押される。
「……お、」
すぐに圭一は離れたが、旭は頬を手で押さえて言葉を失う。一瞬で体温が上昇した。そんな旭を見た圭一が笑う。
「誰も見てないって」
「見てたっつの!」
小声で叫ぶ。実際に何人かに見られていた。見ないふりをしてくれる人もいれば、こっちを見て友達と笑い合っている人もいた。恥ずかしい。
「どうせ知らないやつらだって」
圭一は笑顔のままそう言うと、再び歩き出した。文句を言ってやりたいのに上手く言葉にならず、とりあえず旭も横をついていったが、確かに周りの人混みはあっという間に混ざり合って、もう既に二人に注目する人などいない。それに気付いて、旭も肩の力を抜いた。
まだまだ残暑が厳しい頃だったが、当日は早めに家を出て開場とともに入り、乗れるだけのアトラクションに乗った。案の定、目的の期間限定アトラクションは長蛇の列で二時間以上並んだが、圭一と喋りながら待っていればそれほど苦痛でもなかった。
「あんなに並んだのに、あっという間だったなー」
「でもまじ乗ってるみたいだったな。4Dすげえ」
「墜落ん時の衝撃とかな」
「声がそのまんまだっただろ! あれやばいな」
「あの血が出るとこ、まじで顔にかかったの、思わずよけたわ」
並んだ時間に比してすぐに終わってしまった感のあるアトラクションだったが、それでも興奮しながら感想を話し合う。連載中からずっと一緒に読んでいた漫画だったから、余計に話が弾んだ。
ふと、出てすぐのところに漫画の主要キャラの等身大像が並んでいるのが目に入った。写真を取ろうと何組かが順番待ちしている。圭一が指をさして聞いてくる。
「あれ、撮る?」
「あ、撮りたい」
「OK」
手を差し出す圭一に、旭は自分のスマホを渡した。カメラアプリを立ち上げておく。
「お前は?」
「んじゃ俺も後で撮って」
順番が来て、まず旭がキャラの横に立つ。何枚か撮ってもらった後、圭一と交代した。
――どうせなら、二人で撮ってもいいんだけどな。
撮り終わった後、何となくそう思った旭の心を読んだかのように、圭一が「旭、こっち」とアトラクションの看板前に旭を引っ張っていった。
「写真?」
「うん」
看板を背にして並んで立つ。圭一がスマホをフロントカメラに切り替え、ぐっと手を伸ばした。圭一の顔が頬に触れるくらいの距離まで近付き、少しだけどきっとする。圭一の指がボタンを押した後、保存された画像をいったん二人で確認する。
「もう一枚な」
そう言って圭一が再び腕を伸ばすので、旭はまた目の前のスマホに視線を合わせた。肩に手が回され、再び顔が近付いたと思ったら、今度は頬に唇が押し付けられた。同時にボタンが押される。
「……お、」
すぐに圭一は離れたが、旭は頬を手で押さえて言葉を失う。一瞬で体温が上昇した。そんな旭を見た圭一が笑う。
「誰も見てないって」
「見てたっつの!」
小声で叫ぶ。実際に何人かに見られていた。見ないふりをしてくれる人もいれば、こっちを見て友達と笑い合っている人もいた。恥ずかしい。
「どうせ知らないやつらだって」
圭一は笑顔のままそう言うと、再び歩き出した。文句を言ってやりたいのに上手く言葉にならず、とりあえず旭も横をついていったが、確かに周りの人混みはあっという間に混ざり合って、もう既に二人に注目する人などいない。それに気付いて、旭も肩の力を抜いた。
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